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それがここにある意味

 しばらく待つと、扉の向こうから「お待たせー。どうぞ」と声がした。

 それを聞いた俺とアランの二人が、団長室の扉を開き、中へ入ってゆく。


 フェティス騎士団長は、部屋の奥にある立派な執務机の向こうに座り、その机の上で手を組んで、たおやかな笑みを浮かべて俺たちを待ち受けていた。


 俺の隣のアランは「失礼します」と軽く頭を下げて、部屋の中へと足を踏み入れる。

 その様子に、フェティスは少し困ったような苦笑いを浮かべていたが、一応俺もアランにならって、同様の言葉と礼をしてから、中に入ってゆく。


 歩みを進めたアランが、フェティスの机の前で、直立不動という姿勢で立ち止まる。

 俺もそれを真似する。

 俺は騎士の礼儀作法や常識など知らないから、この辺は見よう見まねでやるしかない。


 その様子を見て、フェティスがやはり、苦笑をする。


「別に、そう堅苦しくしないでいいって言ってるのに」


「いいえ。これは風紀と規範の問題です。騎士団という組織として、上下関係はうやむやにすべきではありません。フェティス団長も、上に立つ者としてのあるべき態度を身につけてください」


「えーと……下の立場のアランが、上の立場の私に説教をするのは、それはありなの?」


「ぐっ……そ、それはっ、下の立場の者であっても、ときには上官に苦言を呈することも必要であると……!」


「ああ、うん、分かった分かった。それじゃあ、先にアランのほうの話を片付けましょうか。アランは上官である私に、どんな苦言を言いに来たのかしら?」


 フェティスに軽くいなされ、苦虫を噛み潰したような顔をするアラン。

 しかしすぐに気を取り直し、改めて進言を始める。


「フェティス団長が、この平民を騎士に取り立てようとしていると聞きました。それは本当ですか」


「ええ、そうね。――アランはそれが気に入らないの?」


「オレが、という個人の話ではありません。これは騎士団全体の風紀と規範に関わる問題です。騎士というのは、尊い血筋のもとに生まれた者か、さもなくば、公の試験を通して武芸等の類いまれな実力が認められた者にのみ認められる地位です。それを、何の因果でか知らないが、ただ魔装器を手に入れたというだけの者に認めるなど、あってはなりません。そもそも、騎士団長一人の権限で決められる問題ではないはずです」


 そのアランの言葉を、フェティスは途中から、面倒くさそうに首筋をぽりぽりとかきながら聞いていた。

 そして、話が終わったと思うと、「あーもう、話が長い」と一蹴する。


 ……何だろう、俺を敵視するアランをもってして、可哀想になってきたぞ。


 そしてそれからフェティスは、困ったなという顔をして、アランに話しかける。


「えっと、面倒くさいから、アランには事情を話しておくわ。ただし口外は禁止ね。これは団長命令。オーケー?」


 そう言って、それに承諾したアランに、フェティスは事の顛末を話してゆく。

 俺――クルスという農夫が、瀕死の男から魔装『ゴッドナイト』を受け取ったこと、渡した男は死んだということ、“八つ手の魔神”とおぼしきモンスターを倒したこと、手に入れた魔装器が腕から外れないこと、などなど。


 それを聞くアランは、途中からぽかんと口を開けて、呆然としていた。

 そしてフェティスが話を終えると、信じられないという様子で、言葉をもらす。


「バカな……それじゃあ、王国騎士団一の騎士と謳われた、あの騎士ブランシェが……死んだ、ということですか……?」


「そう受け取るのが順当でしょうね。そうでなければ、今クルスの腕に、彼の魔装器『ゴッドナイト』があることが、不自然すぎるもの」


「そん、な……」


 そうつぶやき、しばし放心していた様子のアランだったが――彼は突然キッと俺のほうを向き、両手で俺の胸ぐらをつかんできた。


「嘘をつくな、平民! 一体どんな手を使ってその魔装器を手に入れた! 吐け!」


「アラン! やめなさい!」


「フェティス姉ちゃん! こいつは――こいつが絶対何かウソをついているに決まっている! じゃなきゃ――」


「――アラン!」


 フェティスが机を回り込んできて、アランの頬を張った。

 パンという乾いた音が、団長室に響き渡る。


「……やめなさい、アラン」


 今までに聞いたことのないような、真剣なフェティスの声だった。

 それで、アランの腕から力が抜け、俺は解放される。


 俺の目の前にいるアランは、よろよろと後退し、足をもつれさせ、尻餅をついた。

 彼はどこか、魂の抜けた抜け殻のようになっていた。


「……ごめんなさいね、クルス。アランにとって、騎士ブランシェっていうのは、目標であって、憧れの人でもある――そういう存在だったから」


 フェティスが代わりに、俺に頭を下げてくる。

 いえ、と俺は首を振った。


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