魔装適性
「でも、姉ちゃ……フェティス団長」
尻餅をついたアランが、ぼそっと言葉を吐きながら、立ち上がった。
「……だからといって、この平民が、騎士に特別登用されていい理由にはならない……違いますか」
このアランという男――いや、少年と言うべきか。
俺より一つかそこら上ぐらいの歳の彼は、俺のことがよっぽど憎いのか、あるいはやりきれない思いを誰かにぶつけたいだけなのか、そう言ってなおも食い下がった。
それを聞いたフェティスは、小さくため息をついて、執務机の向こう――王国騎士団団長が座るべき席に戻る。
そして再び、机の上で手を組んで、アランに問いかけた。
「では、騎士アラン。あなたが騎士団長なら、このクルスという少年と、魔装器『ゴッドナイト』の処遇、どうしますか? 取得物を善意で届けてくれた彼に、腕ごと切り落すというような報いを与えてまで、魔装器『ゴッドナイト』の所有権は私たちにあると主張するの?」
「そ、それは……」
アランが返答に窮し、言葉をよどませる。
が、それでも俺をちらと見てから、フェティスに向かって言葉を返した。
「彼には悪いが、それもやむをえないと考えます。事は国家の一大事であり、扱う物は国の軍事上の最重要兵器と言って過言でないものです。大局的に見れば、一人を犠牲にして、より多くの者を救うことが出来るなら、我々のような国家を守る者は、そういった選択をすることも、ときには必要でしょう」
「…………」
フェティスが黙って聞いていると、アランはさらに自論を展開する。
「そもそも、魔装器『ゴッドナイト』は、彼のような一介の平民が持つべき物ではありません。魔装を効果的に扱うには、戦士としての十分な実力が不可欠です。仮に彼を騎士として登用したとしても、彼のような戦闘の素人が魔装器を持っていたのでは、宝の持ち腐れです。――魔装器『ゴッドナイト』は、騎士として、戦士として十分な実力を持った者が所持するべきです」
「ふぅん……。例えば、アラン――あなたのような?」
フェティスがそう聞き返すと、アランは一瞬ひるんだものの、次には「はい」と答える。
「少なくとも、素人の彼よりは、魔装器『ゴッドナイト』を何倍も有効活用できると確信します」
「……主張は、ひとまずそれで全部でいいかしら?」
フェティスがそう聞き返すと、アランは「はい」と答える。
するとフェティスは、一旦その瞳を閉じてから、次にすっと目を開いて、アランに言った。
「一理はあるわね。――でも、却下」
「な、何故ですか!?」
アランはだんと、団長用の執務机に手をついて抗議する。
フェティスはそのアランに、淡々と説明する。
「あなたの魔装に関する知識が不十分だからよ、アラン」
「魔装に関する、知識……?」
「ええ。――確かに魔装の力を有効活用するためには、戦士としての実力が必要、それはあなたの言うとおりよ。でももう一つ、魔装の力を引き出すためには、重要な要素があると言われているわ」
そこでフェティスは、アランから、俺の方へと視線を移す。
その褐色の瞳が、俺の目を見すえる。
「――『魔装適性』、そう呼ばれているわ。生まれつきか、後天的なものかは定かではないけれど、魔装の使用者には、魔装の力を引き出す素養のようなものがあると言われているの。――クルス、あなたは“八つ手の魔神”ベルザレムを、武装解放もせず、しかも結果として大した負傷をすることもなく撃退した……そう言っていたわね?」
フェティスの問いに、俺はうなずく。
実際にその魔神ナントカであったのかは定かではないが、少なくともトニアは、それに違いないと言っていた。
その俺の反応を確認して、フェティスは話を続ける。
「魔神クラスのモンスターは、Aランク魔装『ドレッドノート』を扱う私でも、命懸けで戦うような相手よ。いくらSランク魔装の力を得ていたって、普通の素人がたやすく勝てるような相手じゃないわ。でもクルスは、武装解放なしというハンデ付きにも関わらず、それを難なく撃退した――その事実から導き出される答えは一つ」
そこでフェティスは一度言葉を切り、それからはっきりと言った。
「すなわちクルスには、常人にはない、並々ならない魔装適性が備わっている可能性が高い――ということよ」
フェティスのその言葉に、俺は少し衝撃を受けた。
これまでの俺の身に起こった奇跡のような出来事は、すべてこの手にある魔装器によって起こったものだと思っていた。
だから少しでも、俺自身に原因があったとは、思っていなかったのだ。
でもそう言われてみれば、トニアもそのようなことをつぶやいていた気がする。
魔装適性がどうのっていう言葉も、思い返せば言っていたような気も……
そしてフェティスは、さらにダメ押しの理屈を展開する。
「それに、魔装がクルスの手に渡ったときに自ら輝き、クルスの腕に収まり外れなくなったっていう、ほとんど伝説ぐらいでしか聞かない逸話――それも、魔装器『ゴッドナイト』自らがクルスをという使い手を選んだのだと思わせるに、十分な説得力があるわ。――そして、それだけの素養を持った者をみすみす放り捨てるのは、合理的な判断ではないと私は思う。で、そうなれば、クルスを犠牲にして魔装器『ゴッドナイト』をほかの騎士の手に渡す必要が、そもそもなくなる――どう、アラン、納得した?」
そう聞かれると、アランは絞り出すように「……はい」とだけ言った。
それを聞いて、フェティスが「よし」と満足そうに笑顔を向ける。
……しかし、一見パッパラパーなように見えて、このフェティスという人、意外とやり手なのかもしれない。
この人が一国の王国騎士団の騎士団長を勤めているというのには、いまだに違和感があるが、あながち完全な人選ミスというわけでもないのだろう。
俺がそんなことを考えていると、フェティスが「でも」と言って、一言を付け加えた。
「アランの言うことにも、一理はあるのよね。魔装の力を最大限に活用するには、戦士としての土台の実力は、あったほうがいいのは間違いないわ。――だから、アランには一つ、お願いがあるの」
そう言って、お茶目にウインクする年上の美女の姿を見て、アランはうっすら顔を赤くして、視線を逸らしていた。
こいつも大変だな――などと、このときの俺は他人事のように思っていたのだが。
俺はすぐに、そんなのんきではいられない状況に、放り込まれることになるのである。




