騎士アランと騎士団長フェティス
トニアから紹介してもらった宿に泊まり、翌朝。
宿での朝食をトニアと一緒にとると、彼女とはお別れとなった。
「ボクもしばらくは、この王都で冒険者活動しようかと思ってるから。何かあったら訪ねてきてくれれば、相談相手ぐらいにはなれると思うよ。――それじゃ、これから頑張ってね、クルス」
そうして宿の前でトニアと手を振り別れると、俺は一路、王城へと向かった。
城門の門番に門を通してもらって、中庭を通り、昨日行った宿舎へと向かう。
すると宿舎横の広場には、まだ朝早くだというのに、剣の素振りをしている一人の男の姿があった。
くすんだ銀髪のその男は、昨日俺に絡んできた、騎士だか貴族だかの偉そうな態度のやつだ。
なお、昨日は合同での訓練だったみたいだが、今は彼一人のようだ。
自主的なトレーニングなんだろうか。
その男は、俺の姿に気付くと素振りをやめ、俺のほうへと向かって来た。
そして、びっしょりとかいた汗を手拭いで拭きながら、俺に話しかけてくる。
「おい平民、何の用だ。誰が許可したのか知らんが、お前のような平民にうろちょろされると目障りだ。失せろ」
このあまりの物言いに、俺はちょっとムカッとした。
なので俺は彼に、ちょっとした意趣返しをしてやる。
「今日から俺も騎士ってことになるらしいぜ。平民じゃなくて悪かったな」
「なんだと……?」
男は驚愕の表情を見せる。
それで気が済んだ俺は、彼を無視し、宿舎へと入って行く。
「おい待て、どういうことだ!」
しかし彼は、俺の肩をつかみ、引き止めようとしてくる。
しょうがないので俺は、その手を払いのけ、振り返って言ってやる。
「フェティス騎士団長から、そう言われてるんだよ」
「バカな……! またあの人の気まぐれか。……ちっ、オレは認めんぞ。団長に直談判してやる」
男はそう言って、三階の団長室に向かおうとする俺の横についてくる。
……うわぁ、なんだこいつ。
「あんた、一体何なんだよ。俺に何か恨みでもあるのか?」
「オレの名はアラン。グレンフォード家の三男だ。平民にあんた呼ばわりされる覚えはないし、貴様のような平民ごときに恨みを持つような小人でもない。これは風紀と規範の問題だ」
男――アランはそう言って、階段を大股でずかずかと上がってゆく。
そして三階まで上がると、俺よりも先に団長室に向かっていって、その扉を勢いよく開いた。
「フェティス団長! 平民を軽々に騎士へと取り立てるなど、断じてあってはならな――」
そこでアランは言葉を失い、硬直した。
扉を開いた先には、ウェーブした褐色の髪が綺麗な、下着姿の女性がいた。
脱ぎかけの衣服を見ると、どうやら着替え中だったらしい。
アランは慌てて扉を閉める。
そして扉際で後ろを向き、赤面しながら背中に向かって叫んだ。
「ふぇ、フェティス団長! 団長室は私室ではありません! みだりに着替えなど――!」
すると扉の向こうから、すねたような女性の声――フェティス騎士団長の声が聞こえてくる。
「むー、何よアラン。乙女の柔肌を見ておいて、お説教はないんじゃないの? だいたい、ノックもしないで入ってくるアランにも、問題あるでしょうに」
「そ、それは……確かに、オレの落ち度です。――ですがせめて、鍵ぐらいはかけて……!」
「あー、あくまでも私のせいにしようっていうのね。ひどいひどい。あーあ、アランってば、子どもの頃はあんなに可愛かったのに」
「子どもの頃の話は関係ないでしょう!」
……なんか、痴話ゲンカみたいなのが始まったな。
俺はアランの前まで歩いて行って、小声で聞いてやる。
「あんた、フェティス騎士団長のこと好きなのか?」
それはちょっとした仕返しぐらいのつもりだった。
しかし、その俺の言葉を聞いたアランは、俺の胸ぐらをつかみ、ものすごい剣幕でにらみつけ、言ってきた。
「――それ以上しゃべったら、殺すぞ」
「……お、おう。すまなかった」
俺が素直に謝ると、アランはつかんでいた胸ぐらを離した。
どうやら触ったらいけないところだったらしい。
俺はそれから、一歩前に出て扉をノックする。
それを当てつけだと思ったのか、横でアランが、ちっと舌打ちをする。
「もう、アランったらせっかちなんだから。今着替えるから、ちょっと待って――」
「フェティス騎士団長、俺、昨日来たクルスだけど」
「――うん? クルス……ああ、クルスも一緒にいるの? ごめんね、ちょっと待っててもらえる? お姉さん、今着替え中なの」
そう言われたので、俺は扉の前で、アランと一緒に待つことになった。
しかし、お姉さんっていうのも少し厳しい歳な気はするが――彼女の言葉の端々から、どこか蠱惑的な響きを感じるのは、気のせいだろうか。
俺はこの気持ちを共有したくて、アランに話しかける。
「なんか、生々しいな」
「……忘れろ。あれは王国騎士団の恥だ……」
アランは、額を手で覆い、心底恥ずかしそうにしていた。




