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騎士って何なの

「はっ、ここは……?」


 トニアが自我を取り戻したのは、宿舎から出て、王城内の中庭を一緒に歩いているときだった。

 時刻はもうすぐ夕食時というような頃で、城内にはちらほらとたいまつの灯りが設置されているものの、夜道は暗い。


 我を取り戻したトニアは、きょろきょろとあたりを見渡してから、自分の右手――俺と繋いでいる、その手に注目した。


「えっ……なんでボク、クルスと手を繋いでるの……? ていうか、今これ、どういう状況?」


 銀髪の少女は、ちょっと恥ずかしそうにしながら、首をかしげる。


「いや、騎士団長との話が終わっても、トニア全然復活しねぇし。しょうがねぇから手ぇ引っ張ってつれてきたってだけで、他意はないぞ」


「はっ、そうだ。ボクはフェティスに襲われて、それで捕まって、あんなことやこんなことをされて……」


 トニアがそうやって思い出そうとすると、徐々にまた、彼女の瞳から光が失われてゆく。

 いや、どんだけトラウマになってんだよ。


「おーい、トニアー、起きろー」


「――はっ」


 俺がぺちぺちと頬をたたいてやると、彼女は再び目を覚ました。

 再びきょろきょろとあたりを見て、おびえた様子を見せる。


「……フェティス、いない?」


「ああ。なんかあの後、騎士団の副長的な人が来て、説教されてたぞ。また宿舎壊して、予算がどうとかって」


 俺がそう言うと、トニアは露骨にほっとした表情を見せる。

 どうやらトニアにとって、あのフェティス騎士団長というのは天敵らしい。


「それはそうと、クルス。そろそろ、その……手、離してくれないかな。ボクもう一人で歩けるから……」


「ああ、悪い。そういやそうだな」


 トニアからもじもじしながら言われて、ようやく思い出した。

 俺が繋いでいた手を離すと、トニアは俺と横並びで歩き始める。


「――で、結局、どんな話になったの? ボク、うっすらとしか記憶がなくて……」


「ああ。えっと、王国騎士団の、騎士にならないかって誘われたよ」


「え、クルスが騎士に……? ……あー、でもそっか、そうなるよね。魔装器『ゴッドナイト』がクルスの腕から外せないってなったら、Sランク魔装器を遊ばせておくわけにはいかないだろうから、必然的にクルスごと、騎士団の戦力に組み込むって話になるか。――で、クルスはその勧誘、受けたの?」


「ああ。そうしたら、手続きとかがあるから、今日は市中に泊まって、また明日来てくれって」


「へぇ。じゃあ、二つ返事で受けたんだ。ずいぶん思い切ったね」


「フェティス騎士団長は、今日一日ゆっくり考えていいって言ってたけどな。どうせ考えても変わらないと思って。――もともと俺、農夫として一生を過ごすのは、嫌だったんだ。このチャンスをつかみに行かなかったら、俺一生、変わらないんだろうなと思って」


「ふぅん……まあ、分かる気はするよ」


 ちなみにだが、もし俺が騎士団入りを断ったらどうなるのかを聞いてみたら、フェティス騎士団長は言いづらそうに言葉を濁しつつ、


「国としては、魔装器『ゴッドナイト』を手放すわけにいかないから……あなたには申し訳ないけど、あなたのその腕ごと確保することになるかもしれないわ。もちろんその場合、十分な損害賠償金は支払うことになるけれど」


 と説明した。

 その損害賠償金というのが、俺の一生分の収入に相当する額の金貨だというのだから、決して不義理なばかりの話でもないのだが、それでも代償として片腕を失うというのは、嬉しい話ではなかった。

 そういうこともあって、俺は王国騎士団の騎士になることを決意したのだが――


「なあ、トニア。一つ聞いていいか?」


「うん? なに、ボクに答えられることだったら、答えるけど」


「ああ、その、少し聞きづらいんだけどな――騎士って、どんな仕事なんだ?」


 トニアが盛大にずっこけた。


「ちょっ、ちょっと! それ知らないで引き受けたの!?」


「はっはっは。いやー、なんかこう、漠然としたイメージみたいなものはあるんだけどな」


「はあ……あきれた。ボクときどき、クルスのことバカか大物のどっちかじゃないかって思うときあるよ……」


 トニアは大きくため息をつきながらも、説明をしてくれる。


「えっとね……『騎士』っていうのは、大きく分けて二種類あるって考えておけばいいと思う。一つは、下級の貴族みたいな立ち位置の、領主タイプ。忠誠を誓った主人から領地をたまわって、そこを治めるのが彼らの主な仕事だね。だいたい、小さい村なんかを治めているのは、このタイプの騎士であることが多い。ちなみにこっちのタイプの騎士は、国家にとっての緊急時のみ招集されて、戦士として戦うことになる」


 ふむふむ。

 そう言えば、俺の住んでいた村にも領主がいたが、あれってつまりは騎士だったのか。

 全然知らなかった。


 トニアはさらに、説明を続ける。


「で、もう一つのタイプが、騎士団の拠点に常駐する騎士だね。モンスター退治をはじめとする治安維持が彼らの主な仕事で、王国騎士団の騎士になるっていうなら、こっちのタイプっていうことになる。彼らには領土がないけど、その代わりに、結構高めのお給料をもらって働いてる。……まあ、兵士のちょっと偉くなったバージョンみたいなものかな」


 そのトニアの説明に、俺はなるほどな、なんて相づちを打ちながら聞いていた。


 そうこうしているうちに、俺とトニアは、城壁の門にたどりついた。

 門番に事情を話して門を開けてもらい、城壁の外へと出る。


 城壁を出ると、何だか解放されたような気分になった。

 俺はぐっと伸びをして、街の空気を思いっきり吸い込んだ。


「んんっ……! いやー、なんか一生分の体験をした気がするな。自分の村と、リンドバーグの街にしか行ったことのなかった俺には、ここまでだけでも大冒険だ」


「あはは。でもクルスは、騎士になることにしたんでしょ? これからは、この王都で暮らすことになるんだから」


「そうなんだよなぁ。でも実感わかねぇんだよな。――そういや、トニアはこれからどうするんだ?」


「んー、それなんだよねぇ。どうしようかなって、迷ってるんだけど……」


 俺とトニアはそんな世間話をしながら、王都の夜の街道を歩く。

 さすがの王都の街道も、時間が時間だけに、人もまばらだ。


 周囲を見渡すと、そこかしこの住居の煙突から、白い煙が立ちのぼっている。

 夕食の準備をしているのだろう。


「んー、まあ、とりあえず、今日はこの王都に泊まるのは間違いないね。――クルスも宿探すんでしょ? だったらボク、この王都で安くていい宿を知ってるから……って、あれ、何だろ?」


 そのとき、話していたトニアがふと、前方を指さす。

 その方角には、夜の街道を猛烈な勢いで走ってくる馬の姿があった。


 騎手の乗った馬は、そのまま真っ直ぐ、俺たちの方へと向かってくる。

 ただもちろん、目当ては俺たちではない。

 俺たちが道をあけると、ドカラッドカラッという馬の足音とともに、そのまま通り過ぎていった。


 馬はやがて王城の前に着くと、門が開き、城壁の向こうへと駆け込んでゆく。


「……何だろう? ずいぶん急いでいたみたいだけど」


 トニアが首をかしげる。


 このときの俺たちには知るよしもなかったが――このときの馬が、重大な伝令を運んできた使いであったことを、俺は後に知ることとなるのである。


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