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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第三章・安寧と秩序
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痛み分け

魔王とアテナは互いに血を垂らし流した。

その光景を一番早くシャルが目にしていた。

普通なら、シャルのように魔王の仲間としての立場なら慌てることではない。

魔王はいくら斬られようと、いくら爆発に呑まれても、蘇生と再生をするからだ。

でもシャルは絶望的な顔をしてしまうほどに強いショックを受けた。

そして慌ててシャルは魔王の方へと駆け寄り出していた。

どうしてシャルがそんな行動を取ったのか、それは不安と嫌な予感があったからだ。

シャルが走り出すと同時に、魔王は魔剣に刺し貫かれて数秒だけは笑ってはいたが、すぐに表情が苦痛で歪む。

それから魔王は血反吐を吐いて、かすかに驚きの声を漏らした。


「ば、ばかな……!これは一体…!?ごほっ!」


魔王は広がる強い痛みで混乱しながらも、拙い手つきでアテナを突き飛ばした。

アテナもダメージが大きかったのか受身をすら取らずに、地面へと転がり倒れる。

今ならアテナを殺せるだろうが、魔王はそんなことより胸から感じる激しい苦痛に身を悶えさせた。

ふらつく足、定まらない視界、垂れる血と汗。

魔王は胸に刺さったままである魔剣の柄に触れ、力任せに一気に引き抜いた。


「ぐぅうぁっ!ああ゛ぁぁ…!」


魔剣が魔王の胸から引き抜かれると、血が溢れ出た。

止まることを知らずに血が噴きでては魔王の体を赤く染める。

魔王は魔剣を投げ捨て地面へと膝を着いた。

数秒経っても傷が治らない。

ありえない。


「魔剣の力…なのか?いや…、これは…!」


魔王は途切れて荒れる息を吐きながら、魔剣のせいという可能性を呟いてはすぐに否定した。

魔剣にこんな力があるわけがない。

特別な剣とは言っても、魔力の粒子により魔法を切るに過ぎない。

魔王の再生と蘇生は呪いの力によるものだ。

呪いの力は特殊なもので、魔法と似て非なる力だ。

なら刺されて傷が再生しないのはどういうことなのか。

理由は一つしか考えられない。


「俺の…、俺の呪いの力が弱まって…いるだと…?なぜ…!」


ここで突き飛ばされたアテナはゆっくりと立ち上がり、魔王と同様に息を荒くしては痛みに苦しんでいた。

でも魔王と違うのは、アテナにはまだ戦う気力があることだ。

魔王も戦う気力がないわけではない。

けれど、それどころではないのだ。

アテナは魔王が抜き捨てた魔剣を拾い上げては構えた。

とは言っても構えというのにはお粗末で、持っただけに近い。

そして今こそがチャンスだとひと目で分かり、アテナは何度かふらついては踏ん張りを効かせて魔王へ向かって走った。

さっきと比べたら遅い走りだ。

でも魔王が膝を着いたまま動けないでいるので、アテナの攻撃は避けようがない。

しかも転移しようとする思考も働かないほどに、魔王は動揺している。


「ま、魔王…!覚悟っ!」


アテナは声に出しては魔王へ魔剣を振り下ろした。

力が込もっていなくても魔剣そのものの切れ味は絶大で、魔王を切り裂くことはできるだろう。

しかし振り下ろされた魔剣の刃が魔王へ接近するとき、アテナの持つ魔剣は弾かれて金属音を鳴らし宙を舞った。


「なに…、なんだ。お前は…!」


アテナは自分の魔剣を弾いた相手を睨みつけた。

睨みつけた相手はシャルだ。

シャルが寸前で自分の銀の魔剣を振るって、アテナの魔剣を弾き飛ばしたのだ。

シャルはアテナとの力の衝突で手を痺れさせながらも、戦う者としての顔つきでアテナを見据える。


「魔王を殺す邪魔をするな…!」


「魔王は……殺させない…!」


アテナはシャルの見た目が少女でも、魔王を助けるということは魔王軍の一体だと理解して敵として認識する。

だから容赦ない言葉を吐いては、アテナはシャルに向かって拳を振り上げた。

シャルはその拳を魔剣で受けようとするが、それより早くすぐさまに魔王が結界魔法を張ることでアテナの拳を受け止める。

続けて魔王は魔法を発動させて、アテナの足元に火柱を立たせようとした。

それにアテナは反応して、火柱が襲ってくる前に後ろへ一度距離を取っては避けてみせる。

そこでちょうどアテナの隣に魔剣が地面へと落下しては突き刺さり、アテナは魔剣を回収した。

これでわずかに時間的な余裕が生まれたことにより、シャルは焦燥した表情をしながらも手を輝かせては魔王に当てて声をかける。


「魔王…、大丈夫…?」


「すまない、シャル。どうやら…油断してしまっていたようだ。傷が…塞がらん…!」


魔王の胸からは血が流れ続け、それは誰が見ても重症だった。

しかもシャルの魔法はやはり魔王は受けつけず、回復をさせることもできない。

もはやシャルは、自分では一体どうすればいいのか分からなくなる。

魔王を助けたいのに助けられない。


「一度、北の魔城へ帰ろう…?もう、これ以上魔王がケガを負うのは嫌だよ…!」


「くっはは、それが懸命か。ごほっげほっ…!もっと楽しみたかったが仕方ない。態勢を立て直さなければいけまい。アテナ、すまないがここまでだ。また、戦おうではないか。今度は……北の魔城で互いの全てを賭けてな。その時は、正真正銘の最後の一戦にしてやろう」


魔王は強がりの言葉を口にしては引きつった笑みを浮かべて、足下に魔法陣を展開させた。

魔法陣は魔法の精巧さを上げるものであり、普段なら慣れていない地への転移するのにしか魔法陣は必要ない。

つまりは今の魔王は魔法陣を展開させなければいけないほどに、根城である北の魔城に戻れないぐらいに弱っていた。


「逃が…すものか!」


それを知ってか知らずか、アテナは追撃として魔剣を魔王へ投げ飛ばした。

魔剣は魔王の結界魔法を砕き、魔王の顔の目の前まで刃が迫る。

しかし僅かに魔剣の刃は届かずに、先に魔王の姿が消えてシャルと共に転移してしまう。

魔剣は空を切っては地面へと転がり落ちた。

それからアテナは一気に浅くて乱れた呼吸をしては地面へ手を着く。

体が動かない。

途方もないほどの疲労感がアテナの体を満たした。

背中を斬られただけではなく、限界を越えた魔法の影響で自分の体に負荷が来たのだ。

しかも体力とほんの少ししかなかった魔力も魔王との短い戦闘で使いきり、背中を斬られたこと関係なく、戦闘を続けることは最早アテナには不可能だった。

それでも戦いが終わったわけではない。

少なくとも、まだ氷帝がいる。

アテナはいつまでも息を切らし続けては、氷帝の方へ視線を移した。


氷帝の戦闘は、セイラと天狼が防御と避けに徹することで長引かせているだけだ。

シャルの付加魔法のせいで、それしか戦闘を続ける手段がセイラと天狼にはなかったのだ。

けれどシャルが転移でいなくなったと同時に、付加魔法の効力は消えて突然氷帝の動きが鈍くなる。

予想外の自分の体の弱体化に氷帝は感覚を狂わして、ちょうど氷の槍を手にしながら天狼に接近しようとした所でつまづきそうになってしまう。

その隙を天狼は逃さず、回避の姿勢から一転して氷帝へ飛びかかった。

牙で氷帝の腕を抉って、深い傷跡を作る。

天狼はそのまま氷帝の腕の肉を噛みちぎるなり、捕まって氷漬けにされないようにと距離を取る。

そして地面に着地しては肉を吐き捨て、獰猛に唸って氷帝を威嚇した。


「あっはは、狼のくせにやるじゃあないか。隙を見せたとしても、ほんの一瞬のチャンスも逃さないのは驚きじゃぞ」


氷帝は自分の腕を凍らしては傷口を擬似的に塞ぎ、氷の槍を地面に突き刺してから両手を地面に押し当てた。

それから冷酷に笑っては呟く。


「魔王様のことも気になるし、何よりお主らの目的は妾の命じゃろう?このまま相手をするというのは、お主らの思惑通りということ。悪いが、ここでおさらばじゃ。とりあえず、グッバイまた会おうな、と気取った言い残しをして退散させて貰うぞ。勝負は一戦で決するわけではないからの」


すぐに氷帝の言葉に反応して天狼は走り出し、セイラは札付きのナイフを氷帝へ投げ飛ばした。

しかしそのどちらも氷帝に近づく前に、氷帝は能力を最大限に発動させて、瞬時に氷の山で自らの身を覆わせた。

続けて氷の山は砕けて、雪崩や土砂崩れのように氷塊が辺りへと散っていき、視界どころか全員のいる場所すら危険となる。

しかも濃い霧が発生までしだして視界不良となり、氷帝の姿を完全に見失う。

セイラは氷塊から避難することに徹したが、天狼は一匹で軽快に氷塊を避けては鼻を使い、氷帝の臭いを追おうとした。

そして氷帝の獣に近い独特な臭いを感じ取っては、天狼は一匹で氷帝を追い走り出してしまう。


「天狼!」


セイラは叫んで天狼を呼びかけるものの、耳に届いてないのか相当慌てているのか、セイラの声を無視してはそのまま天狼は走り去る。

このままではまずい。

確かに氷帝を倒すチャンスではあっても、一匹で追うのは無謀すぎだ。

相手が手負いの氷帝一体だけなら勝率はあるかもしれないが、他の魔物の部隊に出くわしたら天狼一匹では危険だ。

いくらなんでも軽率すぎる。

ここでセイラは天狼の後を追おうしたが、すぐに踏みとどまる。

アテナが重症なのを目にしていたからだ。

そのためセイラは霧を掻い潜ってはアテナの方へと駆け寄って、天狼が無事に戻ってくるのを信じるしかなかった。


「アテナ、動ける?」


セイラはアテナに手を貸しては、アテナの体温が尋常でないことに気づく。

この氷帝の冷気に包まれた空間だというのに、アテナは汗を滝のように流しては息を切らしていた。

まるで高熱に唸らされている病人みたいだ。

依然と治まらない荒い呼吸をアテナは飲み込んでは無理に言葉を発する。


「っはぁ…はあ、ぐ……っあはぁ…。一人で歩ける…。けど、悪い。少し肩を貸してくれ。どこか休める場所に行けるまでは一緒に……いてくれ」


「う、うん。もちろんだよ!」


セイラはいつも強気な発言をするアテナのこの言葉に、少し戸惑いを感じてしまっていた。

よほど精神を削られているのだ。

見るからにアテナは疲労しているだけはなく、背中の傷も併せてアテナの体は戦える状態ではないと、セイラの目から見ても明らかだった。

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