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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第三章・安寧と秩序
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勇者アテナと魔王の戦闘

それら魔法剣は宙に浮かんでいるにも関わらず、意志ある者が持って振るっているかのように魔法剣が動きながらアテナへと襲いかかる。

アテナは集中した。

本人は原理を理解できていないが、集中力が増せば増すほど物体の動きが遅く見えるのは分かっていた。

隻眼であるせいで一つの物に対しての集中力はより増して、時間の流れすら遅く感じていく。

同時に舞ってくる複数の魔法剣を、アテナはかつてないほどの切り返しにより魔剣で打ち砕いてみせた。

散る魔法の輝きと足場の氷の雫、そしてアテナの魔剣の輝きが強くなる。

左右、上下、前後と来る魔王の無慈悲とも言える数の魔法剣。

それでもアテナは魔剣一本だけで同時に打ち消しては、足の軸を上手く利用して魔法剣が来るタイミングを自分に振る早さに合わさせた。

金属音と風を切る音、そして魔法の散る甲高い音が鳴り響く。

更に早く、互いに速く、魔王とアテナはもっと意識を高める。

アテナの前方から来る十二本の魔法剣が時計の数字のように円を描く形態で、刃の尖端を向けて襲う。

いくら早かろうと、アテナは魔剣を直線でしか振れない。

だからアテナは前方の魔法剣に集中した。

あくまで魔法剣の陣形は円を描いているように見えるだけで、かすかに刃の先がより前方へ出てしまっている魔法剣があってもおかしくはない。

それを見極めてはアテナは魔剣を片手で持ち、もう片方の手で魔法剣の刃を逸らすようにして腕で叩き弾いた。

同時に他の魔法剣を切っては、腕で弾いた魔法剣を掴み取って二刀流で全ての魔法剣を叩き伏せる。


その間に後方から迫る三本の魔法剣。

アテナは体を捻らしては跳んで、掴み取った魔法剣を投げつけて後方から来ていた魔法剣の一本を弾く。

残りの二本の内の一本は体を逸らすことで避けて、もう一本は魔剣で打ち消した。

それから着地するほんの寸前に、真上から滝のように直下してくる魔法剣の大群。

アテナは目でその動きを捉えては、着地する前にグローブの下から式術の札を取り出した。

障壁の式術だ。

この式術を防御として活用するには障壁が一瞬だけ発動するだけではなく、範囲も狭いためにアテナの使い方は正しくとも実用的ではない。

効果時間が短く範囲が狭いということは、それだけ正確性を求められるからだ。

けれど今のアテナにとっては、一瞬の効果時間すら長く感じられた。

一秒が十秒に感じられるほどにアテナの何かが目覚めてくる。

障壁が僅かの時間だけ真上から降り注いでくる魔法剣を塞き止めてる間に、アテナは着地して魔王の方へ向かって跳んだ。


「ほう、この攻撃の嵐の中を俺の方へと突っ切ってくるか」


魔王は感心しても、そのまま接近させるほど優しくはない。

今度は魔法剣がアテナの周り三百六十度の全方向に展開されて、一斉に発射される。

アテナは瞬時に足を止めては横に飛び、自ら魔法剣に近づくことで同時に攻撃を受けるのを避けた。

魔剣で多くの魔法剣を打ち払いはしたが、全方向の包囲攻撃は二重三重と波状攻撃となっていた。

ほぼ同時に来ることでさすがに魔剣では対処しきれずに、魔法剣がアテナのマントを貫いた。

それによりマントが引っ張られかけたのでアテナはマントを破り捨て、すぐに次の魔法剣を切る。

それでも勢いが緩むことなく、魔法剣がアテナへと向かってきていた。

魔法剣がアテナの体をかすって、皮膚裂いて切り傷を作る。

まだ自分の体が遅い、まだ自分の集中力が足りない、まだ魔王と倒すという強い想いが足りない。

アテナは魔剣を振る瞬間が最高までに集中力が達していて、その振る時だけは魔法剣がとんでもなく遅く見えた。

でも遅く見えるだけで、何も自分の動きが加速しているわけではない。

もっと速く、もっと……どこまでも強く!


速く力強くなるアテナの動きに魔王は感づいた。

それは魔王だからこそ気づけたことで、魔法に関して無知のアテナには決して分からないことだ。


「精神が魔法に影響する、か。良いぞ。俺を倒そうとする想いがお前自身を強くしている。俺と比べたらスプーン一杯にも満たないひと雫の魔力だが、その雫が濃密となりお前の体に働いている付加魔法が強力となっている。もっとだ、もっと強くなってみせろ!」


アテナの集中力が増して遅く見えるのは、体内に流れる魔法の血の影響によるものだった。

魔法の血がアテナの全身に作用し、脳を活性化させては人間の限界を越えさせている。

そして魔剣を振るときは、何よりもひたむきな殺意が強いことで、魔法が強化されてどんな時よりも遅く感じられた。

アテナは体に複数の切り傷を作りながらも、全方位の魔法剣を打ち破った。

それでも魔法剣の雨が止むことはない。

魔王はアテナの動きに心躍らせては、ついに魔法をぶつけるだけでは我慢できずにアテナへ向かって大きく跳躍した。

魔法剣と共に、魔王はアテナへ向かって降り立とうとしてくる。

アテナはすぐにそのことに気づいて、目線は上空にいる魔王から外さずに魔法剣を打ち払っていく。

魔王は降りる前に腕を振るい、小さな複数の魔法陣をアテナの周りに展開させた。

それら魔法陣は宙に浮いていて、何かを仕掛けてくるのは分かる。

そしてすぐに魔法陣からは光るツタが発生しては、アテナへ絡み付こうとしてきた。

拘束魔法だ。

でも今のアテナにとっては、ほとんどの魔法は意味を成さない。


「うああああぁぁあぁあぁ!!」


アテナは叫びながら光るツタを魔法陣ごと魔剣で全力で打ち砕き、魔法の輝きを散らさせた。

それから間髪なく、魔王は降り注ぐ魔法剣を掴み取ってはアテナの目の前へ着地した。


「やるではないか!素直に褒めてやるぞアテナ!くっはははは!くっはっはっはっはっはっはっは!」


魔王は狂気に近い叫びにも似た笑い声をあげては魔法剣が降り注ぐ中、更なる猛攻として魔法剣をアテナへ振り下ろした。

アテナは魔剣で魔王の魔法剣と、降り注ぐ魔法剣の両方を打ち払うが、それは魔王の目の前では隙の他ない。

すかさず魔王は魔法剣を打ち消されたのでアテナを殴ろうとするが、アテナは降ってくる魔法剣を打ち払いながら体を反らして魔王の殴打を避けた。

続けて魔王は手刀で魔剣を持つアテナの腕を叩くが、グローブの結界が作用することで腕が折れることはなかった。

それでも手刀で叩かれた反動は強く、アテナは魔剣を手放してしまう。

けれどアテナは魔剣が地面に落下する前に、足で自分の魔剣を真上へ蹴り飛ばした。

互いに素手となった状態で、アテナが蹴り飛ばした魔剣が再び地面に落下してくるのは数秒後のこと。

その数秒の間にも、死闘に近い攻防が繰り広げられる。


続けて、頭を狙った魔王の突きの殴りをアテナは顔を逸らしては避けて、頭の横を通った魔王の腕を掴む。

それから魔王の腕を引っ張ることで姿勢を崩させては、魔王の腹を殴ろうとした。

けれど魔王はもう片方の手でアテナの腹部を狙った攻撃を受け止めては、目線で宙に浮かぶ魔法剣を操作する。

その目線の動きにアテナは反応しては魔王の腕を離しては、後方から飛んでくる魔法剣を掴み取ってみせた。

その掴み取った魔法剣を飛んできた流れのまま、素早く体を回転させるようにしてアテナは魔王へ魔法剣を横に振るう。

斬れないことを理解しているせいか、魔王は手のひらに結界魔法をまとわせてることで、アテナの斬撃を受け止めた。

アテナはすぐに魔法剣と手放し、体の回転をそのまま利用して回し蹴りを放った。

それも魔王は結界魔法で防ぎ、更に結界魔法から魔法陣を重ねるようにして展開させた。

その魔法陣からは光るツタが出てきて、アテナへ絡みつこうとする。

魔剣が無いから打ち払えはしないが、対処できないわけではない。

あえてアテナは拘束魔法を無視して、結界魔法をまとわせている魔王の腕を掴み取った。

そのまま光るツタは至近距離にあったアテナの腕に伸びていく。

ここで魔王は少し驚く。

滅多に拘束魔法を使わないのもあるが、まさかこう利用してくるとは思わなかったからだ。

光るツタはアテナの腕を完全に拘束しようと自動的に伸びるもので、アテナが掴んでいた魔王の腕ごと絡めてしまう。

これでお互いに片手は繋がられた状態で拘束される。


アテナは拘束された腕を上げることで魔王の防御体勢を崩しては、まだ自由に動く手で魔王をストレートで殴ろうとした。

それを魔王は膝うちで腕を叩き上げては後ろに倒れこんで、無理やりにアテナを巴投げする体勢を取った。

アテナの背が地面に着地する直前に、腹部へ向かって魔法剣が一本落ちてくる。

投げられながらもアテナは魔法剣を掴みとり、背中を強く地面に叩きつけられた。

アテナは痛みを堪えては倒れたまま横に転がって、掴み取った魔法剣で魔王の頭を刺し貫こうとする。

でもアテナの動きは読まれていたようで、魔王は倒れたまま魔法剣の刃を掴んでは握力だけで自ら砕いてしまう。

すかさずアテナは魔法剣を握った手から握り拳をして、魔王の頭を殴りつけた。

しかし体勢が悪すぎるせいで、まるでダメージにならない。

続けてアテナは殴った手のひらを地面につけては足払いするようにして、脚を地面にスライドさせて魔王の頭を蹴り飛ばそうとした。

けれど今度は魔王は立ち上がる姿勢を取って、難なく足払いを避けてしまう。

アテナも体を捻らしながら地面に着いた手で自分の体を押し上げて、魔王と同時に立ち上がった。

それからは高速で互いに殴ろうとしてはそれを払い除けて、どちらも有効打とならない。

ここでようやく魔剣が落下してきて、同時に相手の腕を叩き払った。

そして拘束されていた腕を上げては、落下する魔剣の刃を拘束魔法である光るツタに当てることで断ち切った。


アテナは自由になった腕で魔剣を掴みとり、全力で魔王の体を目掛けて振るう。

でも腕が自由になった途端に魔王は後ろへ距離をとったものだから、紙一重で刃を(かわ)されてしまっていた。

魔王は後ろに下がりながらも両手から銃弾のような氷の弾を撃ちだして、空中に展開させていた魔法剣を全て消し去った。

このまま展開させていても、魔法剣の操作に難があるからだ。

魔王は再び手に魔法の粒子を回転させることで魔剣でも打ち消せない魔法剣を生み出して、掴み取った。

そうしてすぐに前へと飛び出して、アテナへ一直線で襲いかかる。

ここでアテナは魔剣を構え直して、真正面から向かってくる魔王へ意識を集中させた。

このままだと魔王らしくないほどに単調な一閃が来る。

よほど自分の動きに自信があるのか、魔王はアテナの目の前へ到達するのに合わせて、魔法剣の剣先を上に掲げては振り下ろす動作をし始めた。

この瞬間、アテナは一番の集中力を発揮させて魔王の動きを完全に読み切る。

魔法剣と魔王の体の動きを完璧に目で捉えて、魔剣で最高の一閃を振るう。

まるで全てを切り裂き、あらゆるものを断とうするほどのアテナの剣さばき。


「終わりだ魔王!」


アテナはこの一撃を完璧に決めれると思い、そう口にした。

しかし、魔王の姿が目の前で消えた。

今はどんな時よりも全てが遅く視えるというのに、魔王の姿が忽然と消える。

時間がスローになっていても、アテナは気づくのに遅れた。

気づけたのはゆっくりと流れる時間の中、魔王の声を聞いた時だった。


「馬鹿め」


短い言葉が背中からアテナの耳に届く。

もう、しまったとか悔いる間もなかった。

アテナは目の前で発動された魔王の転移に反応が遅れ、全てが前方だけに集中していた。

そうしてアテナは無残にも、魔王の魔法剣により背中を切り裂かれてしまう。

血が飛び散り、魔王は不敵に笑う。

しかし今度は反応に遅れたのは、愉快な想いで舞い上がっていた魔王だった。

アテナは血がまだ宙を舞っている中、血反吐を吐くような痛みを感じながら体を半回転させる。

そのままアテナは魔剣で魔王の胸を深く刺し貫いた。

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