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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第三章・安寧と秩序
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氷帝との戦闘

凍てつく氷の槍は垂直に猛烈な勢いでアテナ達へ向かってきている。

魔剣で斬れないことはないが、勢いと大きさからして下手したら魔剣を弾き飛ばされかねない。

そのためにアテナは斬ることはせずにセイラと天狼に指示をだした。


「全員回避しろ!そのまま反撃だ!」


天狼とアテナは氷の槍の下を掻い潜りながら前方へと走り出す。

そしてセイラはそこまでの身体能力がないために横に跳んで回避しながら、爆発の式術の札を巻いたナイフを氷帝に向かって三本投げ飛ばす。

セイラが転がりながら着地するとき、巨大な氷の槍は後ろの方へ着弾した。

するとまるで爆弾でも落ちたかのような派手な衝撃が起こって、氷の槍が着弾した場所に見上げるほどの氷の山が発生していた。

セイラの投げたナイフがアテナの隣を通り過ぎるとき、アテナは魔剣を軽く振り回して天狼とは分かれて左右から氷帝を攻める体勢をとった。

天狼とアテナが氷帝に接近しきる前に、二本のナイフが氷帝の前方から飛んできている。

だから氷帝はナイフを手で受け止めるなり、ナイフを氷付にして式術の発動を不発にしてしまう。


「む、あと一本は…?」


氷帝はセイラが三本のナイフを投げ飛ばしていたのを視認していた。

だから二本だけしか自分の手元にないことに不思議に思う。

でもその疑問がなぜか理解したとき、すでに三本目のナイフは氷帝の足元の氷に刺さっていて式術を発動しようとしていた。


「あっは、さっきの素振りじゃな!」


ナイフは三本とも軌道を真っ直ぐに氷帝に向かっていたのだが、アテナが近くでナイフが通り過ぎる時に魔剣を振って柄を当てることで一本の軌道を変えていた。

同時にアテナと天狼が離れて行動したために、氷帝はそのことに気づくことに遅れてしまっている。

すぐさま凍らそうとするがそれは間に合わず、式術の札は燃え出して小さな爆発を起こした。

さすがに足元の爆発は危険だが、氷帝はナイフを凍らすのではなく氷の柱を作って爆発と自分の体の間に壁を発生させて防御を間に合わせた。

それで爆発は防げはするが、意識がそこに向かっていることになる。

だから続けて攻撃を仕掛けてくる天狼に反応がまた遅れてしまう。

天狼は氷帝目掛けて駆けるなり、口を開けて牙を見せた。

それだけ噛み付かれてしまうと誰もが想像してしまう。

これで普通なら怯えたりする可能性はあるが、氷帝は相手に触れれば氷漬けにできる。

まして今の姿は幼き少女と比べたら段違いの能力だ、

そのためにぎりぎりまで接近されていても慌てずに、氷帝から見て右から来る天狼の飛びかかりに手のひらを向ける。


しかしこの読みは間違いだ。

天狼も無謀に襲いかかるほど愚かではない。

天狼は氷帝に接近しきる直前に、氷を踏んで走る向きを僅かに変える。

氷帝は完全に受け迎えるつもりだったから腕を伸ばしても天狼には届かず、天狼は通り過ぎようとする。

しかも天狼はただ通り過ぎるだけではなく、ベルトに付いてるポケットから式術の札をばら撒いた。

それらは火炎、爆破、障壁とデタラメに思える撒き散らしだ。

それでも全くの無意味とはならない。

発動する火炎と爆破が障壁の札を飛ばし、更に障壁が発動することで不規則的に爆破と火炎の軌道と発動タイミングが変わって発生する。

単純なる一つの広範囲による火炎と爆破なら、一つ凍らせればそこから全て凍結できたかもしれない。

でも障壁により式術の発動は連鎖とはなりきってないだけでは済まさず、どこかで爆発の火炎と煙は途切れがあるかもしれない。

ある程度は凍らすことはできても、遅れて発生する火炎と爆破を見逃す可能性がある。

そのため氷帝は全身を包む氷を発生させて防ぐ。

けれどそれは視界を完全に遮断させてしまうことになる。

氷のドームで氷帝が全身を包み込んだとき、アテナはマントとフードを被り直して魔剣を振る構えをした。

そしてマントとフードの防火性を頼りに火炎と爆破の式術を防ぎながらアテナは魔剣で一閃、氷のドームを切り裂いた。

今の魔剣は全てを切り裂く鋭さを持っているが、何もリーチが伸びているわけではない。

魔剣により氷のドームは崩壊するが、魔剣の刃は氷帝に届ききっていない。

しかも氷帝は魔剣でかすかに斬られた腕の傷を凍結することで出血を瞬時に防ぎ、氷のドームの形状を変えて意志ある氷のように刃としてアテナへ振るった。


「遅い!」


アテナは魔剣で瞬時に氷の刃を打ち砕き、恐れを知らずに氷帝へ飛びかかろうとする。

飛びかかることで宙を跳んだ一瞬、氷帝は地面を埋め尽くしている氷を銃弾の如き放ってアテナを打ち貫こうとした。

油断はしていなかったがアテナは魔剣を振るには腕が間に合わないので、魔剣を盾代わりとして刃で氷の弾を受けきる。

けれど今は宙に浮いてるがために踏ん張りが効かず、氷の弾の反動によりアテナは後ろの方へと飛ばされてしまう。

氷帝はそれからの行動を見透かしてか、アテナの着地点となるであろう場所に先端を空へ向けた大量の氷柱を発生させた。

今のアテナの姿勢は受身は取れないだけではなく、障壁を発動させたとしても足場となれる場所には作れない。

下手したら氷柱に身を貫かれることになる。

すぐさま天狼が動き出して、アテナのフードの辺りを咥えて連れて行くことで氷帝の予測していた着地点から外れた。

この連携というより突発的な行動に氷帝は素直に驚嘆する。


「ほぅ、なかなかやるのう。良い動きじゃ。人間でも魔物でも類に見れぬ素晴らしさじゃぞ」


これを聞いてか天狼とアテナは姿勢を直しては、冗談気味に笑って話した。


「……天狼、あいつあんなこと言ってるぞ。どうやらまだまだ余裕みたいだ」


「ふん、相手に余裕を見せられるのは魔王の戦いとき以来だな。さすが幹部だ」


「俺たちも話して余裕を見せてる場合じゃないな、続けていくか」


アテナと天狼は身構えて、奥にいるセイラに視線で合図を送る。

それにセイラは気づいて頷き、腕輪をはめ直す動作をしては走り出して氷帝へ向かっていく。

氷帝はセイラに対して背を向けてはいたが足音で気づいて、首をわずかに動かして視線だけをセイラに向けて位置を確認した。

氷帝の前方には天狼とアテナ、後方にはセイラ。

また氷帝は挟み撃ちにされるのは厄介だなと思うと、氷帝は氷の山から下りて川の水へと足首を浸ける。

それから片足を大きく上げて、一度だけ強く足踏みをした。

すると川の水は高く跳ねていき、宙に多くの氷の塊を作り出す。

氷の塊は直径一メートルほどで、まるで多くの風船が舞ったように高さ四十メートルまで氷の塊ができている。

氷帝はその氷の塊を足場として上へと駆け上がることで、セイラと天狼とアテナを足下に位置づけた。

これで挟み撃ちされないだけではなく、上にいるのは視覚的に有利だ。

すかさず氷帝は空中で氷柱を発生させてはアテナと天狼、セイラに向かって数多く撃ちだした。


「さぁ、どう対処してくれるか見ものじゃな!」


撃ち出された氷柱は早いがまだ距離があるおかげでセイラと天狼は上手く避けていきながら氷帝の足下へ近づいていく。

アテナは氷柱を魔剣で打ち砕いて行きながら、大きく跳んで障壁を発動させては障壁を足場として駆け上がっていく。

だから氷帝はアテナに氷柱を集中させて撃っていった。

でもアテナは氷柱を造作無く魔剣で砕いては、不規則に近い動きをしては障壁と宙に浮かぶ氷の塊を踏んで氷帝へと近づいていく。

最後に力強く足踏みをして思いっきり跳んで氷帝へと接近しきった。


「随分と早い到達じゃなぁ、勇者アテナよ!さすが地帝を斬り伏せただけはある!」


アテナは宙にいるために腰の入らない姿勢で魔剣を氷帝に目掛けて縦に振った。

今までと比べたら鈍い振り方だ。

氷帝は一度魔剣に触れているために切れ味を理解しているから、魔剣に触れて凍らせずに氷の刃で魔剣を横から叩いて振りを潰した。

続けて氷帝はアテナの手首を掴み、冷え切った笑みをして見せた。


「これで終わりじゃな。凍れ、若き勇者よ」


氷帝はアテナの体に触れたことで一気に凍結させようとする。

しかしだ。

奇妙なことに氷帝が凍らそうとしたら、アテナの身につけているグローブの金と黒の刺繍が僅かに光って氷帝の腕を弾いた。

その不思議な現象はまるで魔法。

唐突のことに思わず氷帝は目を見開いて呟いた。


「これは魔王様の結界魔法…?なぜじゃ…!?なぜそのグローブに魔王様の魔法が帯びている!」


グローブによる氷帝への弾きは弱々しくて僅かだが掴みを解くには充分で、この隙を逃さずにアテナは腕を振るって氷帝の顔を殴りつけた。

とっさの攻撃だから殴りは弱いが、今のアテナの力なら少なくともダメージは与えれる。

氷帝は殴られたことで後ろに飛ばされて姿勢を崩しながら地面へと落ちていく。

アテナは氷の足場に掴んで姿勢を整えては落下位置を調整して、もう一つ下の氷の足場へと着地する。

落下していく氷帝はすぐに足下に氷を発生させることで上手く着地しようとするが、視点が回転して乱れるせいで上手く能力を扱えない。

そのまま氷帝は地面へと勢いよく落下して、氷の破片を散らした。

すぐに痛みを堪えながら氷帝は立ち上がり、アテナ達の位置を確認しようとした。

でも見渡して一番に目に付いたのはアテナ達の姿ではなく、地面に張り巡らされた式術の札だった。

アテナが上へと昇っている間に、天狼とセイラが氷帝の足下に式術の札を貼り付けていたのだ。

氷帝はすぐさま手のひらを地面につけて氷で覆うとしたが、落下の衝撃か景色が歪んで氷帝は膝を地面に着けるだけで凍らすことが上手くできない。


「くっ、あっはっはっは、やるじゃあ……ないか。全く恐れいったものじゃよ」


氷帝は汗のように氷から垂れる雫を顔から垂らして、苦笑いをした。

痛みによる苦しみを強がって笑っているのではなく、この状況に笑うしかなかったのだ。

炎帝が死ぬだろうと思っていたのに、まさか先に自分死ぬとは思ってもいなかった。

氷帝が観念したように目をつぶったとき、地面に張り巡らされた式術は一斉に発動して巨大な爆炎を起こした。

それは上にいるアテナにまで衝撃が届くほどのもので、とても氷で身を包むだけでは防げるものではなかった。

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