表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第三章・安寧と秩序
95/154

アテナと氷帝

転移した先へアテナ達が着くと、そこは見渡しの良い広い草原で、底が深い川が丘から遥か遠くへと流れている場所だった。

だから近くには木々が生えた丘があるが、それは一方面だけの話で草原の周りが森林に囲まれているわけではない。

そして朝日と共に、川に一人の氷の彫像が落とされる光景がアテナ達の目に映った。

ほんの数秒しか視認できなかったが、おそらく氷の彫像は元は兵士だったものだ。

その氷の彫像が落とされた川の隣には、人間で言うと年齢が十二歳ほどの見た目の少女が立っていた。

ただ少女は白いコートとロングブーツを身にまとっていて、純白なる肌に狐の耳と三本もの狐の尻尾を生やしている。

髪は氷で出来た花の髪飾りでサイドポニーテールにまとめているが、透明なる毛先が全体的に背中まで伸びていた。

見た目で人間ではないと分かる。

それに如何にも、普通の魔物とは一線を逸してるのが雰囲気だけで理解できてしまう。

そして団長があの少女が何者か説明するよりも早く、アテナは魔剣を引き抜いて、いち早く白銀なる狐の少女へと走り向かっていた。

風すら切る速さでアテナは白狐の少女に接近するなり、魔剣を振り下ろす構えをみせた。

でもほんの僅かに白狐の少女はアテナの方へ早く振り向いて、手を魔剣の刃に当てる。


同時に何らかの割れる音が鳴り、白狐の少女はこのままでは危ないと手応えで分かって苦々しい顔をする。

それから氷を弾き飛ばし、無理に魔剣の軌跡から白狐の少女は自らの体を衝撃で離した。

これで数メートルほどアテナと白狐の少女の間に距離ができたが、距離が開いていたのはコンマ数秒のことだ。

すかさずアテナは距離を詰めて白狐の少女へ接近していて、白狐の少女が姿勢を直す猶予もなく、魔剣は横へと振られようとしていた。

すでに魔剣の刃は白狐の少女の顔へ近づいている。


「このっ!」


白狐の少女は悔しそうに叫んでは地面へ伏せて魔剣の斬撃を避けつつも、一気に地面から大量の氷柱(つらら)を発生させた。

それらの氷柱はまるで地面から突如に生えた剣のように鋭く、地帝が攻撃に使用していた技と同類のものだ。

アテナは氷柱が発生するとほぼ同時に、魔剣で足元の氷だけ蹴散らす。

砕かれた氷は宙に舞うが、宙へ飛んだ氷柱は無規則に飛んでいくわけではない。

操られているかのように飛んでいく向きを変えては、銃弾みたく氷はアテナへと向かっていった。

さすがにこの氷の動きは予測できていなかったため、アテナは後ろへ跳んで避けてみせる。

舞った氷が銃弾の如きアテナの立っていた場所へと刺さると、ようやく白狐の少女はアテナの全身を視認することが許された。

白狐の少女は自分の発生させた氷柱の上に移動して立っては、着地するアテナの姿を青い瞳でよく見る。

もちろん隻眼ではあるがアテナも白狐の少女の動きどころか、視線の動きすら見逃していない。


「今の氷、お前が氷帝だな?」


アテナは魔剣を軽く振っては構え直す。

このアテナのぶしつけな質問に、白狐の少女は薄く笑ってみせる。

その微笑は氷の女王に相応しき冷酷さが混じっているが、姿のせいかどこか幼さがあった。


「そうじゃ、妾が氷帝じゃ。そして今の動き、どうやらお主が勇者アテナじゃな?なるほど、これは魔王様に近いものがある」


白狐の少女、氷帝は感心した口調で目を細めてはアテナの構えを観察した。

隙がない、というより構えだけで異常な力を勘で感じ取ってしまう。

氷帝は氷の槍を発生させては手に持ってみせる。

すでにここまで来たら互いに戦闘は避けられない。


「本当、恐ろしい力だとつくづく思わせてくれるものじゃ。これは…尻尾三本の姿では瞬殺されるかのう」


「…何かあるのか。悪いが、長引かせはしない」


氷帝の意味深な言葉にアテナは気づいて、すぐに踏み出しては氷帝に真っ直ぐ向かって跳んでいった。

速いが、体の動きそのものは直線的だ。

氷帝は槍を投げつけてから、わざと後ろへと倒れていった。

氷帝が立っていた場所は氷柱の山の頂点であり、当然下も氷柱の鋭利なる尖端が上へと向けられている。

しかし氷帝が落ちると、氷柱は氷帝の落下する周りだけ砕けては、優しく包み込むかのように氷が氷帝を飲み込んだ。

氷帝を飲み込んだ氷はドーム状に形成し出し、まるでサナギのような状態となる。

その奇妙なできごとに対して、アテナは躊躇ったりはせずに投げられた氷の槍を魔剣で打ち砕き、続けて落下してその氷のドームを魔剣で細切れにした。

足元は完全に荒れた氷の大地となるが、アテナはブーツのスパイクを上手く氷に突き立てて姿勢を安定させた。

ただ、足元は砕けた氷の山だらけとなっていて肝心の氷帝の姿が見えない。

更に魔剣で打ち砕いていってもいいが、無闇に斬るのは隙しか生まない。

突っ込んだものの、このままでは危険かと思ってアテナは爆破の式術の札を地面に貼って、再び後ろに跳んで距離を取る。

そしてアテナが草原の地面に着地したとき、式術が発動して爆破が爆音と一緒に巻き起こった。

だが、音だけが普通に鳴り響いた時に奇妙なことが起こっていた。

爆発で発生した火炎だけではなく煙すら凍っており、一目で異常と思える光景ができあがっていた。


すぐにアテナは身構えるが、その光景に視線を奪われたために状況の整理に遅れてしまう。

足元が全体的に氷を張っていき、その凍結は早くもアテナの足の裏まで迫っていた。


「くそっ!なんだこれは!」


アテナは更に後ろへと下がろうとするが、身構えていたせいで後ろへの移動が遅れる。

このままでは足が凍ってしまうと恐れたとき、天狼が強引にアテナに頭突きしてはバランスを崩させた。

倒れてしまうという条件反射としてアテナは何かに捕まろうとし、天狼のベルトを掴んでいた。

それとほぼ同時に天狼は走りきって一気に氷の結界から離れて、セイラの隣へと駆けてはアテナを振り落とした。


「大丈夫アテナ!?」


「ったく、いきなり一人で突っ込むとは何をしているアテナ!」


セイラの心配する声と天狼の叱咤する声に、アテナはたじたじとしてしまう。

そして魔剣を持ち直しながら立ちあがり、素直に謝った。


「す、すまない天狼。助かった。目の前で兵がやられているのを見たせいで、体が反射的に動いてしまっていた。…ルナさんと騎士団長は?」


アテナが辺りを見渡すと、すでにルナと団長の姿はない。

これで見る限り、現在この場所にいるのはセイラ、アテナ、天狼、氷帝だけとなる。


「ルナさんと騎士団長はもう行ったよ。ここは任せた、できれば早く他の部隊に合流しろって。だから急いで倒そう、アテナ」


「あぁ、もちろんだ。戦争である以上、幹部だけを相手にして、おしまいって言うわけにはいかない!早く倒して他の部隊の加勢に入るぞ!」


アテナの気合の入った言葉と同時に、セイラはナイフと式術の札を構えて、天狼は氷帝がいる場所を睨みつける。

そしてアテナが再び魔剣を構えたとき、崩れた氷の山から声が聴こえてきた。

その声は女性の声だ。

さっきの氷帝の声のようではあるが、幼さが抜けていて、少し成熟した妖艶っぽさがある声になっている。


「あっはっはっはっは。妾を相手にして、まるで雑兵を相手にしている言い草とは心外じゃ。どれ、その言葉通りに事が進むか、試してみるがいいぞ」


氷の山は、完全に砕けては辺りへと吹き飛んだ。

そしてその氷の残骸から一人の女性が姿を現した。

服装は同じだが、体つきと顔つきといい、まるでさっきとは違う体格をした氷帝が出てきた。

体つきは人間の十八歳くらいなっていて、身長は百六十五センチほどにまでなっている。

それに全体的に大人びてるだけではなく、尻尾の数は六本へと増えいていた。

それがどういう意味を示しているのかアテナ達には分からないが、さっきとは一味違うと、氷帝の冷徹なる目を合わせただけで身震いして分かってしまう。

成長した姿の氷帝は魔物のボスの一角として相応の微笑をして、細く長い指で唇に触れて囁いた。


「しかし現実は生温くないことを教えてやろうぞ。この世界はどこまでも冷徹で残酷で、体だけではなく心まで凍結してしまうというものを。その身を凍らして知るがいい、妾の力の前では如何なる想いも凍えてしまうのをなぁ!」


氷帝は叫ぶなり、手元には十メートルの長さはあろう巨大なる氷の槍を発生させては、アテナ達に向かって全力で投げ飛ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ