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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第三章・安寧と秩序
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決戦数分前

あと数十分すれば大陸に朝がやってきて、朝日が全てを照らしだそうとする頃合の時間帯。

アテナ達は昨日、案内された空家で装備の最終確認を行っていた。

アテナとセイラ、ルナの三人は黄土色のフードとマントを身につけて、黒と金色の刺繍が入ったグローブを手に通し、スパイク付きのブーツを履きなおす。

アテナはナイフと魔剣を腰に据え付けて、式術の札をマントの下とグローブの下に備える。

そしてセイラは二重につけているベルトにナイフの束と多くの種類の式術の札、ワイヤーと腕輪を装備して、頭につけている桃色の花の髪飾りを整え、セミロングの茶髪の毛先を揃える。

普段は手首につけている腕輪はグローブの上に通すことで、少々無理して身につけていた。

ルナはクロスボウと式術の札、二刀の手斧、ナイフ、ブーツの仕込み刃に小さな鉄の玉の状態を確認する。

それから毛先がウェーブかかったセミロングの黒髪に軽く触れて、フードを被る時に邪魔にならないか確認しては、青い瞳を瞬かせて眼はいつも通りに視えるかも確かめる。

天狼は動きに邪魔になるためかマントの類は身につけずに、普段と同じように体に巻いているポケット付きのベルトを身につけているだけだ。

ポケットの中には、ナイフの束と式術の束とセイラに近い装備だ。

彼にとっては何も身につけないのが一種の完成に近い戦闘態勢だ。

ただ、ベルトに関しては訓練により問題なく扱えるようになっているだけで、やはりマント類は天狼の機動力を潰しかねない。

魔人、もとい星の騎士団長は群青色のマントとフードを身にまとい、ルナと同じブーツを履く。

そして腰にはレーヴァテインを納めた鞘を差して、あとはガラス玉を背の方に忍ばせるだけで他の武器の装備はしなかった。


「さてさて、皆さん。準備は万全さ?」


団長の質問に全員が反応して、気合の入った声で返事をする。


「はい!」


その返事を聞くと団長はニヤリと笑っては頷く。

いよいよ行動が始まる。

人間の命運を分けた一戦だ。

ここで落とすわけにはいかないし、誰ひとり負けるわけにもいかない。

団長はレーヴァテインを鞘から引き抜いては、抜き身となった刃を床へと突き立てた。


「すでに尖兵(せんぺい)は出ていて、目標は偵察によれば戦闘を始めている可能性がある。そうなれば王子の本隊、姫君の大隊はすぐに動き出して氷帝を誘き寄せてくれる手筈(てはず)さ。目的地、または他の部隊の戦力が介入しない場所へ氷帝が来たらようやく私たちの出番だ。連絡は色つきの狼煙(のろし)で来る。黄色の煙なら事前に決めた目的地、赤の煙ならそれ以外の場所だ。だからもし赤だった場合は、伝令が来るまでは待機になってしまうね」


団長はそう言うが、なんでも氷帝の場所は元からある程度目処が立っているようだ。

そのために目的地を設定していて、目的地での戦闘になる可能性が高いようだ。

目的地はできるだけこちらが有利に戦える場所で、もしもの場合には他の部隊が援護に入りやすい事を想定している。


「では、私が屋根の上にでも登って狼煙が上がってないか見ておくわ。いつでも出れるようにしといてね」


ルナはそう言って空家から出ていき、かすかな物音を立てながら、手斧についている紐を使って屋根まで一気に登っていく。

その間に天狼とセイラが水分を補給して、アテナは団長と話し込む。


「王子様が戦場に出るのはまだ分かりますが、まさか王子様の妹様である姫君まで戦場に出るとは思いませんでした。勇ましいのは知っていますが、大丈夫なんですか?」


アテナの時間潰しであろう質問に、団長は床に突き立てたレーヴァテインに寄りかかりながら答える。


「ここだけの話、姫君には予知があると言われているからねぇ。私からしたら予知というより直感に思えるがね。とにかくその予知のおかげで部隊の危機を回避した前例があるから、それを見込まれてだろうな」


「予知、ですか。それが本当なら凄い話ですね」


「凄いことなのかねぇ?嫌味な言い方になるけど、王国都市の消滅だけならず、一番上の兄の行方不明も予知できなかったんだ。それなのに予知に頼るようなことをするなんて、王様も相当切羽詰まってるさ」


「実際、危機的状況ではありますからね…。何かにすがりたくなる気持ちは俺でも分かります。まして予知なんて、普通ではありえないからこそ信じたくなる。俺も、そんな気持ちから今の実力を手にしていますから」


「……あー私もそんな思いからレーヴァテインの力を知るきっかけになったかな。そう思い返してみると、私の口から非難する言葉が出るのは変な話だ。人間にとっては遥かにも長すぎる時間を生きようと決めたのも、何かにすがってたからだ」


そういえば団長はほとんどは昏睡してとはいえ、三百年以上の時間を生きているのだ。

団長はあまり昔のこともレーヴァテインを手にした経緯も語らないから、気軽に聞いていいことではないのは分かる。

ルナさんなら何か聞いてはいるのかもしれない。

だからといって、アテナが聞いていい理由にはならないのだが。

ここで会話を打ち切ると、ルナがすぐに空家へと戻ってきた。

見張りに出ると言って、まだほんの数分しか経っていない。

あまりにも早いが、ルナはすぐに戦闘を始まるのを予感させる言葉を口にした。


「もう狼煙が上がったわよ。南の方に紫色の狼煙と、更に東の方に黄色の二つ」


この言葉にいち早く反応したのはセイラだった。

その反応は理解してのものではなく、疑問によるものだ。


「紫色、ですか?黄色はさっき聞いたので分かりますが、紫というの何ですか?」


セイラの疑問に団長は少し気まずい表情をしては、トーンを低くして喋る。

団長にはすでに最悪な事態が起こっていると分かりきっているみたいだ。


「紫は…非常事態ってことなんだよねぇ。ここから南ってことは炎帝が現れたんだろうさ。そして黄色は氷帝が予定の場所に……、確実に仕留めたい所ではあっても、どちらも後手に回すことはできない」


「どうするのですか?」


「………いっひっひ、炎帝の相手は対策している私とルナで仕留めるしかないさ。氷帝はセイラと天狼、そしてアテナで相手をする。ちっと無理はあるかもしれないけど、今はこれが精一杯さね。他に意見があればどうぞ」


団長は見渡して周り全員の顔色を伺うが、誰も文句がある様子はない。

それどころかこれから起きる戦いに全員が意志を高めていて、引き締まった表情だった。

そのことを察して、団長はレーヴァテインを床から引き抜いて赤く輝かせ始める。


「どうやら満場一致みたいだね。なら氷帝がいる目的地に先に転移してアテナ達を置いていき、すぐにルナと私で東南の方へ行く。その後は、王子様か姫君の部隊に合流。以上」


団長は簡単に作戦について言うと、レーヴァテインとガラス玉の力を使って転移を発動させた。

最初に行き着く場所は、氷帝がいるであろう場所だ。

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