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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第三章・安寧と秩序
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人間の可能性

「そういえば王子様。一つ大事な事をお尋ねしても、よろしいでしょうか?」


王子からの一通りの大まかな説明が終わると、アテナにはある一つの懸念があった。

それは最も重要なことで、まさにこれから起こそうとする東の地での戦いにおいて、必ず想定しておかなければいけないことだ。


「なんでしょうか?」


「魔王のことです。魔王が東の地へ来る、または居る可能性はないのでしょうか?」


「……そのことですか。魔王が東の地にいるという報告は、まだありません。あまり不確定的な言葉は好きではないのですが、おそらく魔王は北の地か南の地に居座っているはずです。炎帝が独断気味に行動しているせいか、または騎士団長が南の魔物の指揮系統から抜けたせいか、魔王が警戒してるのは東より高い確率で南です。それに北の地の本城を壊滅させて日にちも経っていませんから、優秀な参謀でもいなければ北の地から下手に動けるとは思えません」


そう言われたらそうかもしれない。

けれど、それだけでは魔王は東に居座っているという可能性を潰すだけであって、東へ転移してくるという可能性が充分すぎるほどに残っている。


「王子様もよくご存知でしょうが、魔王は転移を使えます。それも騎士団長より使いこなしているのは間違いありません。東の地で戦闘が始まれば、数日足らずで魔王は東の戦闘を知って転移してくるのではないのでしょうか」


「こちらも転移を使えますので、今回は短期決戦です。ですので、魔王の耳に情報が入る前に終わらせる手はずです。どうやって短期決戦に持ち込むかは追ってお伝えします。とりあえず今言えることは、魔王が東の戦闘に参加する可能性は極めて低いということです」


「しつこいようですみませんが、それでももし…。もし魔王が東の地へ来たらどうするのですか?」


「そのときは…、騎士団長に魔王の相手をしてもらうつもりです。魔王が転移を使う以上、こちらも転移を使えて、それ以上のことをできる力を持つ者を当てなければいけません。場合によっては僕の妹の部隊に任せてもいいのですが、中央地の軍隊の二の舞になるのは目に見えてます。そのとき炎帝の撃破も勇者達だけになりますが、よろしいでしょうか?」


「……わかりました。何が起ころうと、俺たちは魔王幹部の相手をするということですか」


「そうなります」


王子はレーヴァテインを扱う騎士団長に任せると言ったが、アテナとしては自ら魔王と対峙したい気持ちがあって僅かに表情を曇らせた。

それは王国都市のみんなの仇を討ちたいからか、戦いを終わらせたいのか、個人的な何かの気持ちでもあるのか分からない。

もちろん、力を身につけたとは言っても今はまだ魔王に敵わないのは分かっている。

それでも未だに焦る気持ちが自分の中にあった。

しかし、これらはあくまで魔王が東の地に居たらの話だ。

王子の話通りなら、魔王は東の地の戦闘のことを関知する前に終わるはずなのだ。


「アテナさん、大丈夫ですよ。魔王は来ません。それより幹部の戦闘について集中してください。対策としての道具はこちらで用意してありますので、後で騎士団長から受け取って必ず身につけて下さいね。では、僕はこれから妹と共に軍を動かす準備に入りますから、これで失礼します。この戦い、絶対に勝ちましょう」


「はい…、もちろんです」


王子は軽く頭を下げると他の者達へも視線をやって頭を下げてから、別室の方へと足を進ませた。

そして王子がこの居間からいなくなると、ずっと座って黙ったままだった王様が口を開く。


「アテナ。今、息子が言ったとおりだ。お前たちにはすまないが、魔王の幹部を仕留めてもらう。確実に頼む。本当の勇者として、本物なる勇敢な人間として、ぜひともその力を振るって欲しい」


「任せてください、王様。本当の意味で勇者という呼び名に相応しい者となるよう、この戦いで示してみせます」


「本心からの頼もしい言葉だ。私は王様の立場であれど、人間の希望にはなれない。単純な力がないわけではない。私には荷が重すぎるのだ。ここだけの話、私にはそこまでの覚悟はない。たとえ王様だろうと、どこまで優秀であろうと、この身は一人の人間に過ぎないと分かっているからだ。だから恐ろしい。誰が責めるわけでもないのに、私は人間の示しになることを恐れている。できないと分かりきってるから恐れている」


「そんなこと…ありませんよ。王様は充分に…」


アテナは世辞か分からないが、半端にフォローをかける言葉を発した。

でも王様は首を横に振った。


「違う、そうではない。示しをできているようには見えるかもしれないが、私のは不完全な示しに過ぎない。一人では不可能なのだ。真の意味で人間の道を示すにはもっと多くの力と、心が必要だ。私はどれも不足している。だからだ、アテナ。お前がそれらを補って欲しい。勇者として、だ。私は最初から、そのつもりでお前に勇者の名称を正式に授けている。私や私の子供達にはない勇気ある心を信じている」


「王様……」


この言葉は抽象的であろうと、アテナには嬉しかった。

軍から蔑ろなる扱いを散々受けていたから、王様は本心では勇者として認めていないと思っていた。

それは当然のはずだ。

アテナが勇者として正式に名称を受けたのは、初めて魔王と会って間もなくだ。

当時、アテナはただの若い傭兵に過ぎなかった。

だからただのお飾りなんだと思っていた。

でも、王様はアテナに願いを託していたのだ。

本当の勇者になって、人間の希望になってくれと。


「すまないな、余計な話をしてしまった。準備に時間をかけたいだろう。あとは騎士団長殿が全て整えてくれる。では、行くがいい。近くに勇者達用にと空家にしてある建物がある。そこで準備をするといい」


「ありがとうございます」


アテナは明るい声で頭を下げて、優しい表情で頭を上げる。

なんだか吹っ切れたような、重しが外れた雰囲気があった。

そのことにルナは眉を潜めながら気づき、セイラはハッとして目を見開いて気づく。

まだ、自分が勇者だからという理由で物事を焦っていた。

アテナはこの人間の存亡に関わるときに及んで、未だに自分が勇者に相応しいかどうか悩んでいたのが馬鹿らしくなって、口元を緩めるのだった。

こうして話に一区切りが着くと、団長は軽薄に笑い、玄関の方へと歩いて行きながらアテナ達の先導を始めるのだった。


「いっひっひっひ、じゃあ行きましょうかねぇ。戦闘を仕掛けるのは明日とは言っても、時間はいくらあっても足りないくらいだ。そしていくら時間があっても多すぎることはありませんさ。ではついて来て下さいな。ひとまず空家へ案内しますよ」


「お願いします、騎士団長」


団長が玄関を通って家から出て行くと、その後ろをアテナ達が追っていく。

その後ろ姿を王様は頼もしく思い、良い笑顔をしてみせる。

きっと、勇者ならやってくれると王様は不思議と思ったからの笑顔だった。


そして一方、同時刻、北の地の支城の魔王の自室にて。

魔王とシャルはちょうど朝日で目覚め、互いに着替えを終えた時だった。

シャルが朝食へ行こうとするとき、魔王はシャルを呼び止めた。


「シャル、朝食が終わったら東の地へ行くぞ。お前もついてこい」


「東……ですか?急にどうして?」


「魔人が魔王軍から抜けて数日が経った。そしてアテナも馬を使っているなら、そろそろ東の地へと着く頃合だ。近いうちに人間が動き出すだろう。一週間ほど東の地に居座り、俺自ら警戒する」


「一週間以内に人間達が動き出したら…?」


「俺自ら人間の軍隊どもを殲滅して全てを終わらす」


魔王は笑みもなく、淡々とそう言い放った。

それは魔王らしいといえば魔王らしく、シャルにとっては特別驚くことではない。

その言葉の意味は重いと知っているし、本気だと分かっているがシャルからは言うことなどない。

でも、人間にとっては言いたいことが山ほどになってしまうぐらいに最悪だろう。

人間の王子は魔王が来ないと、ほとんど言い切ってしまっている。

騎士団長が相手するとは言っても、魔王はレーヴァテインをどういうものか知ってしまっている。

だから騎士団長が相手になるわけもない。

そもそも人間を殲滅する気になった魔王の相手が務まる人間などいない。

もはや戦闘が始める前から、人間の勝利できる可能性が砂の一粒より小さな物となってしまっていた。

けれどそんなことを知らず、明日。

事前に魔王が東の地にいることに気づかずに、東の地にて人類の命運を分ける戦闘を始めてしまうのだった。

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