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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第三章・安寧と秩序
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過去の戦争、これからの戦闘

王様は白いヒゲをうっすらと口元と鼻の下に綺麗に生やしてあるが、とても不格好さや不潔はなくてより威厳さを際立たせている。

それに老人にしては体つきはしっかりとしていて、怠慢や怠惰で体を丸くをしているような様子は全くない。

むしろ引き締まっているくらいで、まるで常に力仕事をしてきた男性みたいだ。

ただ白髪なあたりは相応の年齢を感じさせる。

そして王様の第二子の王子はショートの金髪で王様と同じように青い瞳をしていて、全体的にスリムな体型をしている。

でも長身でそのスリムさは無駄のない体型であると言っていい。

優しい雰囲気と顔つきをしているが、まさに一流の騎士らしい筋肉のつき方をしているのだと見て分かる。

人間の王族は、戦争が長く続いているせいか厳格なる教育を施されている。

そのために、王様や王子自身も厳しい鍛錬をしていた。

だからこその体格である。


「ご苦労、騎士団長殿。そしてよく来てくれた。アテナ、ルナ、天狼、セイラ」


王様は突然のアテナ達の登場に驚きはせずに、平然とした表情で言葉を発した。

その声を聞いて顔を見るなり、アテナ達はこの人物が誰か理解する。

団長とルナが頭を下げると、遅れてアテナ達も慌て気味に頭を下げた。


「王様…それに王子様。よくご無事で…!」


アテナは本心からの言葉を漏らした。

王族が無事だとはルナから聞いてはいた。

それでもこの目で見るまでは無傷かどうか不安はあったし、いつ魔物に襲われてもおかしくはない。

だから常に内心ではいつ王族に危機が及ぶかと思い、肝を冷やしていた。


「いい、楽にしなさい。このやり取りの間にも、私たち人間は滅亡の道を歩み続けてしまっている。早速で悪いが、本題に入ろうではないか。早く新しい道を作らなければいけない。息子よ、お前の口から要件を伝えるといい。お前ら兄妹の考案だ」


「はい、父上」


王様に言われるなり、王子は席を立ってアテナたちへ向き直る。

そしてアテナ達に歩み寄るなり、顔をあげたアテナへと握手を求めた。

アテナはすぐに握手を返し、軽く挨拶をする。


「おはようございます、アテナさん。僕とは初めましてですね。それで要件なのですが、明日東の地にて大きな戦いを起こします。残った軍兵全てで氷帝を打ち破り、まずは東の地を確保する狙いです。そのために力を貸して頂きたい」


「……大きな戦いを、ですか。もちろん、力はできるだけ尽くさせて頂きます。ただ一つよろしいでしょうか?具体的な勝算はあるのですか?」


「もちろんです。これが間違いなく存亡を賭けた一戦になりますから。これ以上とない程に手を打ちます。この間の北の地の戦いのようにはいかせません」


アテナはその言葉を聞き、一瞬理解ができなかったのでそのまま聞き流すようになりかけたが、すぐに疑問を抱いた。

そのせいか、つい不躾な質問をしてしまう。


「北の地の戦い?この間と言ったら、南の地の戦いのことではないのですか?」


「…あぁ、そうか。そうですね。それは…」


王子はどこか困った表情をしながら言葉を濁し、王様の方へと視線を送った。

すると王様は数秒だけ目を閉じて考えてから、小さく頷いて何らかの合図をしてみせる。

その了承か何かの合図があったにも関わらず、王子はどこか言いにくそうにしながらも言葉を続ける。


「実はこの前の南の戦いは全てが囮だったんです。星の騎士団と南の地で指揮していた将軍と僕たち王族だけしか知らないことなのですが、南の地で大規模な戦闘を仕掛けることで魔王軍の戦力を南に集中させ、北の地の魔王の本城を壊滅させる作戦でした。途中までは狙い通りに壊滅はできたのですが、魔王の力がこちらの想像を圧倒的に上回っていたために、失敗となりました。本来は北を壊滅させれば、魔王軍の指揮系統に潜伏させていた星の騎士団長により、南の統率を乱すつもりでした。それにより北と南が機能できない内に、東を制圧する予定だったんです」


「あぁ…それで東に物資を…」


「そうです。そのために中央地には、東へ進軍させる軍事力を大きく保持させたままにしていました。戦力の保持により、中央地にいた魔王軍は南を挟み撃ちにするだろうと睨むと考え、南の通路だけを仕掛けさせる誘導にもなっていました。それら保持していた戦力も、魔王によって全て殲滅させられましたが……。それだけではなく氷帝は薄々感づいていたようで、わざとこちらの弓兵の騎馬隊などを見逃すことでこちらの誘導には引っからずに、東から戦力を割かなかったようです。そのため、上手く事が進んでも厳しい戦いになっていたでしょう」


「俺たちは東と中央地から戦力を南に向けることで、囲む形で波状攻撃を仕掛けて南を制圧すると聞いていた。だから東と中央地には多くの戦力があるのだと。実際は捨て戦だった、か。…確かに、勇者の部隊がいれば南が捨て戦だと思うことなんて無いだろうな。敵にも、味方にも囮だと知られないで済む」


特殊部隊というのはただのお飾りだった。

いつしか魔王が言っていた通り、特殊部隊は戦力としては期待されていなかったのだ。

戦力として期待されていないとしても、頑張ってやろうとしていたアテナとしては少なからずショックな事実だ。

でもこうでも利用しなければ、戦争に勝てないのは分かっている。

戦力が無いなら無いなりに、囮でも何でも使わなければいけない。

そうだと分かっていても、本人達にとっては心地いいものではない。

その心中を察してか、王子は頭を小さく下げた。


「すみません、アテナさん。ただ一つ言い訳をさせてもらうと、誰も南の人たちは死んでもいいとは思っていないのです。囮ではあれど、できるだけ被害が出ないようにと将軍には念押しでお願いしていました。魔王の幹部ほどになれば囮だと気づく恐れはありましたが、攻撃そのものを控えるようにもさせていました」


「大丈夫です。その謝ろうとする気持ちだけで、充分すぎるほどです。それより話の腰を折ってしまって、こちらこそすみません。それで、今回の東の戦いは俺たちはどうすればいいのですか?」


「……勇者アテナさん率いる特殊部隊は、氷帝の撃破。そして可能性の話ではありますが、援軍で来るであろう炎帝を星の騎士団長と共に仕留めてもらいます」


「炎帝もですか」


「騎士団長が炎帝の近くに潜伏していたせいか、ここ最近は炎帝が東を強く警戒しているみたいなんです。東が人間の最後の地なので警戒されて当然なのですが、こちらの兵が何度か東の地へと足を運ぶ炎帝を目撃していたりと、意識の仕方が普通ではありません。高い可能性、いやほぼ間違いなくと言っていいほどに介入してきます」


アテナは炎帝の姿を輸送隊の護衛の時の一度しか見たことがない。

だがあの猛々しい獣の動きを思い出せば、どれほどの強さだったか大方予想はつく。

それにルナから少しは炎帝について話を聞いているので、特殊部隊全員が炎帝の性格や行動については僅かながらも把握している。

きっと炎帝の近くに潜んでいたという星の騎士団長から更に詳しいこと聞けば、対策は立てられるはずだ。

となると、問題は氷帝だ。

すでにアテナが魔王軍の最高幹部のことを考えているなか、王子は説明を続ける。


「騎士団長の転移を使えば、氷帝と炎帝ともすぐに接触できるはずです。あとの他のことは、こちらに任せてください。氷帝と炎帝との戦いに支障がでないように死力を尽くします。ですので、おおまかな軍の動きだけを把握して、氷帝と炎帝の戦いだけに集中してください。それで充分です」


「わかりました。作戦開始時刻はいつですか?」


「明日の明朝。今のこの時間と同じくらいですね。そのときに招集をかけて、東の地の戦闘を開始します。どうかよろしくお願いします。貴方たちの力が、全人類にかかっていると言っても過言ではありません」


「了解です。氷帝と炎帝の撃破、必ず成し遂げます」


「お願いします、勇者アテナさん」


王子が言葉を言い切ると、アテナと王子はもう一度握手をして強い覚悟を决め合うのだった。

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