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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第三章・安寧と秩序
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魔人と炎帝の弱点

炎帝と魔人が初めて出会った時も、二人は刃を向け合い戦闘をおこなった。

あの時は少なくとも炎帝は殺す気で対峙していたが、結果は魔人の勝利という形で終わっていた。

この結果があるということは、また魔人が勝てる、といういい方に働くわけではない。

むしろ逆だ。

魔人に一度負けてるからこそ、炎帝は油断や遠慮をしない。

人間だからと侮らずに全力で、本気で魔人を殺す。

その思いだけで前の戦いとはまるで状況が違っていた。


「しかし魔人よ、愚かだなァ!?お前なら騙し討ちを狙えただろうによぉ!」


炎帝は手元から炎を強烈に噴出させて、一つの形を作り上げた。

それはまるで炎の大剣。

ただ猛烈で苛烈なる炎を灯しているだけではなく、激しい上昇気流を巻き起こして風圧で辺りを吹き飛ばしている。

通常では考えられない現象でも、炎を自在に操る炎帝にとっては造作もないことだ。

しかしこのように炎を操ることは今までなかった。

普通なら炎を撒き散らすだけで敵を殺せるからだ。

でもルナや魔人のようにそれでは倒せない相手がいると分かると、炎帝は炎を更に上手く操れるようイメージをした。

どうすれば戦えるか、どうすれば最強でいられるのか。

相手に炎が届かなければ意味がない。

なら、炎で炎以外の力すらも操るまでだ。

炎以外の力を流動させ、相手に絶大なる炎を届かせる。

それが炎帝の新しい戦闘スタイルだった。


「いやぁ、そうはしたかったんですけどねぇ!でも扉の前に立つだけで警戒されては騙し討ちなんて無理でしたよ!」


魔人は炎をレーヴァテインで裂いていきながら炎帝へと駆け走り、長刀の形のままレーヴァテインを振るった。

すると炎帝は手にある炎の大剣を振り返し、見事に剣同士で打ち合った。

このことに魔人は一瞬だけ驚くが、炎の音しか聞こえないので、すぐにどうして打ち合えたのか理解して炎の大剣を振り払って構え直す。

その構えはまるで居合いのように、刃を腰へと回して手を柄と刃に添える。

そして目つきを鋭くさせながらも無表情で、囁き声で呟いた。


「月の型、新月(しんげつ)


その声が炎帝の耳に届くよりも速く、魔人は鋭い高速の一閃を放った。

あまりにも速く、その振りが横か縦かも分からない。

構えからすれば横の振りなんだろうが、炎帝にとっての問題はそこではない。

急に構えを取ったことに炎帝は魔人の攻撃に感づいて、かすかに一歩間合いを取っていた。

そのおかげで魔人の居合い切りは炎帝の体に届かず、炎の大剣を真っ二つに斬っただけだ。


「ちっ、所詮は空気の密度を高めた炎の剣か。風圧だけでは完全に打ち合えん」


炎帝は更に距離を取りながら炎の大剣を手放すと、炎の大剣は空中へと四散して部屋で燃え盛る炎の一部となった。

それから魔人は辺りの炎に対してレーヴァテインを振るうことで寄せ付けぬように吹き飛ばして、一気に近くの炎を鎮火させた。

それでも部屋の中で燃え盛る炎が消え去ったわけではない。


「いっひひ、やはり今のは風で刃を防いだんですか。通りで金属音はならないし、炎を焼き切ったのに防がれたわけだ。いやぁ厄介だ」


「ふん、居合いでその風も断ち切ったくせによく言う。だがな魔人、俺はそのレーヴァテインの弱点をいくつか見つけたぞ。今のたった一度の打ち合いで全てを確信した」


「…へぇ、そうですか。果たしてその弱点とやらは正しいんですかねぇ。案外、その弱点は私のカモフラージュで、攻撃を誘い出しているだけかもしれませんよ?」


「悪いがお前の性格は理解してるぞ。その言葉こそカモフラージュだ。弱点を隠すためのな!」


炎帝はそう叫んで身に纏う炎の火力を盛大に上げていき、魔人へと突進していった。

かなり素早いが、直線的な動きで攻撃の狙いを予測しやすい。

だから魔人は炎帝の攻撃に対処して防いだり避けるのではく、打ち迎えるようにしてレーヴァテインをタイミングよく振るおうとする。

炎帝が大きな腕を構えて振り下ろすのに合わせて、魔人はレーヴァテインの刃を炎帝に向けた。

しかし刃は炎帝の腕を切り裂くのではなく、すり抜けてしまう。

レーヴァテインの能力を使ったわけではない。


「へっ、陽炎ですかい!」


魔人は笑いながら、少しずれた高さから来る炎帝の腕の振りをレーヴァテインを盾に形状変化することで防いだ。

炎の燃え上がる音に混ざって鳴り響く金属音。

盾で防ぎはしたのだが、炎帝が遠慮なく自慢の豪の力を振るったおかげで、魔人の体が後ろへと吹き飛ばされる。

そこで飛んでいく魔人に追撃をかけまいと炎帝は前へと跳び進み、魔人と影が重なる位置になると更に腕を振り下ろした。

これも盾で防ぐが次は魔人の背中が床に叩きつけられて、強い痛みが体中を走る。

魔人の体がバウンドすることで宙に浮いてる間、炎帝は床に着地しながらも魔人の足を掴んでいた。

ここで腕に炎を流し込めば、魔人の体はほぼ一瞬で黒い炭と化すだろう。

でもそんなことをさせるよりも速く、魔人はレーヴァテインの形状を槍へと変化させて、炎帝の首を狙って鋭く突いてみせる。

どちらの攻撃も今の自分の行動を優先すれば、避けられない攻撃だ。

けれど先に炎帝は炎を流し込むことはせずに、魔人の体を投げ飛ばす。

投げられた魔人の体が壁に衝突する直前、魔人はレーヴァテインを槍の形にしたまま衝突先の壁を能力で焼き切ることで崩してみせた。

ちょうど大人一人が通れそうな穴を作り上げることで、穴を通れば衝突は避けられる。


魔人は体が外へと放り出される瞬間、かすかに槍の刃を壁へとこすらせた。

壁に接触した刃はそのまま建物に接着したようにくっついたままではあるが、魔人の体が砦の外へと宙を舞う。

しかし槍の刃は形状変化しているようで、どんどんと刃と柄がしなりながらも伸びていき、建物の壁に刃が接着しままで魔人の手元からレーヴァテインは離れない。

炎帝は壁にできた穴へ駆け出しながら、両手に炎の玉をつくりあげていく。

そして炎帝が壁の穴から魔人の姿を見下ろそうとしたとき、魔人はレーヴァテインの刃と柄を縮めていくことで、まるでロープで引き上げられたように壁の穴へと舞い戻った。


「あっはは!面白いことするものだな魔人!」


その奇抜な動きに炎帝は高笑いをしながら、手元に作り上げていた二つの炎の玉を魔人へ放り投げるように撃ちだした。

魔人はレーヴァテインを長刀の剣へと形状を素早く戻して炎の玉を切り裂いた。

しかし激しく燃え盛る炎で視界不良を起こしていたのか、炎帝が爆炎で吹き飛ばした酒瓶の破片に魔人は気づけなかった。

酒瓶の破片が脇腹をかすっていき、皮膚と服を裂いて血を垂らさせる。

魔人は痛みを堪えながらも砦内へと着地するとレーヴァテインを振り上げた。

同時にぶつかる炎の大剣。

炎帝が間髪入れずに、続けて炎の大剣を作り上げて振り下ろしたのだ。

鍔迫り合いと共に暴風と爆炎が巻き起こる中、炎帝は大声で叫んだ。


「あっあはははは!どうだどうだ、これがレーヴァテインの弱点よ!あくまで特殊なのは武器に過ぎない!だから扱う本人が誤認を起こせばそれまでだ!先ほどの陽炎で攻撃が見きれなかったのだろう?答えてなくても俺には分かるぞ!そして更に今こうして鍔迫り合いしているのも弱点の一つだ!もし違うと言うなら風を焼き切って見せろ!」


炎帝はそう言って挑発してみせたが、魔人は苦しそうに苦笑いをするだけだった。

炎の大剣が生み出している暴風による抵抗を、レーヴァテインで焼き切ることは可能だ。

でも今はできない。

しようと思えばできるのだが、するわけにはいかなった。


「返す言葉もないか!やはりな!お前のその奇妙な力は同時に使えぬと見た!つまりは風を焼き切ろうとすれば、今している炎の焼き切りをやめなければいけない!そんなことをすればお前は消し炭となるだろうなぁ!?同時に二つの事象を焼き切るのは余程体力を奪われるのか、それともその行為自体が不可能なのか、どっちでもいい。このまま外へ落とすか焼き殺してやろう!」


「…いっひっひ、よく喋りますねぇ。でもよく私の弱点を理解できましたなぁ。正直、驚いたさ。しかし私が炎帝の弱点を知っていることも、お忘れなく」


魔人はニヤリと不敵な笑みをしては、先ほどレーヴァテインの能力で崩した壁の破片を蹴り上げた。

力をかけられた小さな瓦礫は見事に炎帝のあご下の当たり、僅かに怯ませる。

その隙を今の魔人が見逃すはずもなく、わざと身を引くことで炎の大剣にかかる力の感覚を狂わせた。

炎帝は炎の大剣に大きな力をかけていたために、前へと身を乗り出すことになって不格好な前かがみとなってしまう。

姿勢のバランスが崩れては、すぐに次の行動に移れないだけではなく、反応すら遅らせる。

魔人は足だけで体勢の軸を保ちながらレーヴァテインを振り上げて、すぐさま炎帝の首を狙って振り下ろした。

このままでは炎帝が斬られるのは間違いない。


しかし炎帝は機転を効かせて、脚力だけではなく腕力も使ってそのまま前へと飛び込んで砦外へと出る。

前かがみになっていたおかげで飛び出すのは速く、レーヴァテインの刃は炎帝の後ろ足を浅く斬るだけになってしまう。

空振りでないだけいいかもしれないが、できれば今ので仕留めておきたかった。

何より広い空間であればあるほど炎の燃え上がり方は激しく、炎帝にとっては有利なのだ。

炎帝は宙へと飛び出るなり、そのまま地面へと落下していく。

普通に着地すれば炎帝も大きなダメージを負うはずではあるのだが、着地する一瞬、下に炎を噴射させることで勢いを殺して緩やかに着地してみせた。

しかも炎が地面へと噴射されたことで、一気に一帯へ炎が広がっていった。

更に上がっていく火力。

早くしないと、常に炎や熱を焼き切っていないと戦っていられなくなる。

そうすれば形状変化もできず、不利になっていく一方だ。

それでも焦って不用意に突っ込むわけにはいかない。

真正面からの戦いは炎帝が最も得意とするがために、意表を突く必要がある。

ルナが土砂崩れという突然の災害を起こすことで炎帝を退けることができたように、今の魔人みたく足元から瓦礫を飛ばすという視界外による攻撃をしたように、何かしないと炎帝に勝つことはできない。


「…やーれやれ、すぐ勝ちに焦ったりして、目の前のことに集中しすぎるのが炎帝の弱点だったのに。こうなってはやりづらいさ…」


魔人は見上げてくる殺意に溢れた炎帝の表情を眺めては、数秒だけ考えてすぐに次の攻撃に移るべく、魔人は行動を起こし始めた。

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