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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第三章・安寧と秩序
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魔王と地帝

魔王が洞窟から出ると、どこから持ってきたのか水の入った水筒をシャルは手に持っていた。

そしてエンシェントスライムに中身の水を勢いよくかけて、まさに水分を補給というより直接与えていた。

スライムには水分が一番の命の源になるとは分かっているが、無表情で黙々と水をかけるシャルの姿に何とも言えない気持ちに魔王はなるのだった。


「その水筒、他の魔物が持っていたものか」


魔王が声をかけると、シャルは魔王が戻ってきたことに気づいて水筒を投げ捨てる。

かなりの水分を与えたのか、エンシェントスライムの体が洞窟に入る前と比べたら見違える程に大きくなっている。

もはや元の大きさより大きいのでは思うぐらいだ。

シャルは魔王に駆け寄り、魔王の体をまじまじと見ながら呟いた。


「魔王…、服に血が……着いている。何かあったの?」


「いや、何もなかったぞ。この血は洞窟内にあった魔物の死体を調べた時についたものだな。特に気にかけるものではない」


魔王は適当に嘘をついてシャルの心配をあしらい、エンシェントスライムに歩み寄って洞窟内のことについて意図的に省きをいれながら話した。


「エンシェント、洞窟内に関してはこれ以上の探索をするな。ただ人間も魔物も、如何なる者も入れないようにしろ。誰も近寄らせてはいけない。いいな?」


「分かりました、しかし何かあったのですか?」


「手がかりというべきか、少しばかり見当をつける材料はあった。とにかく今俺が言ったことは絶対に守れ。俺はこれから地帝の方に確認しに行く。シャル、俺に近寄れ。とりあえずはここから南の森を抜けた先に転移する」


シャルは言われた通りに近寄ると、魔王は転移魔法を発動させて瞬間的な移動をした。

着いたのは西南辺りの開けた場所だ。

そこは地面が荒れ放題で、明らかに地帝の能力によるものだと理解する。

シャルは突然の足場の不安定さに姿勢のバランスを崩しかけてしまうが、それを魔王が手で支えてあげながら周りを見渡した。


「さてと、地帝はいるだろうか。……と思ったが、探すまでもなくいたな」


「あれが地帝…、なんですか?昼寝……?」


魔王とシャルの目線の先には崩れた岩山の上で、姿勢を横にして寝ているようにしている兎の姿をした小人がいた。

小人の身長はわずか60センチほどしかなく、蛇の頭をした尻尾が生えていて、頭に兎の耳が生えているという奇妙な姿だった。

体型は人間に近い見た目で黒ずんだ茶髪のショートヘアで、全身は黒く短い毛で包まれている。

更に顔や細かな部分はどことなく兎に似ており、人というにはかけ離れている。

魔王は地帝に近づいて行こうとすると、突如足元の地面が盛り上がり始めた。


「シャル。お前はちょっとの間だけ空を飛んでいろ」


「…はい」


シャルは魔王の意図が分からずにいたが、とりあえずは命令通りに羽を羽ばたかせて空を飛ぶ。

すると魔王の足元の地面は鋭利な刃物のように尖って、大きな針山として突き上がった。

しかし魔王はその地面を足踏みで潰して、盛り上がるどころか逆に地面を陥没させる。

続けて魔王の周りの地面が囲むように盛り上がっていき、壁を作り始めた。

どういうことかその四方八方の壁からは石のつぶてが魔王にめがけて発射され、魔王の体を撃ち貫こうとしてきた。

とっさに魔王は全身に結界魔法を張って石の弾丸を防ぎ、そのまま魔法結界を展開させていくことで範囲を広げていって土の壁を結界魔法で押し砕いた。

そこから魔王は転移することで一気に地帝へと近づいた。

だが続けて魔王が地帝の兎の耳を掴みとろうとしたとき、まるで地帝を守るかのように土のドームが突如できて地帝の姿を飲み込んでしまう。


「休憩は終わりだ、地帝よ」


それでも魔王は関係無しに腕を伸ばして土のドームへと腕を突っ込むことで、土のドームにヒビを入れてしまう。

更に土のドームは形を変えていって、ドームの表面上には鋭利な土の針山が発生しようとしている。

けれど土の刃の尖端が魔王に届くよりも早く、魔王は腕を払うことで土のドームを壊してしまう。

これでもう地帝の防衛が無くなったと思ったが、土のドームの中から姿を現したのは地帝だけではなく、岩の角が生えた土でできた兎たちの姿だった。

それら土人形の兎は、地帝の能力で生み出した擬似的な使い魔たち。

生命体ではないのに土の兎達はまるで生物のように脚をバネにして動き出し、角を突き出して魔王へと飛びかかった。

とっさに魔王は土の兎を殴りつけることで造作もなく全て破壊する。

破壊して散る土が飛び通う中、魔王は滑り込むようにして移動しながら、地帝の兎の耳を片手で掴んだ。


「おい、いい加減に起きろ。これ以上手間取らせるとその耳に氷を突っ込むぞ」


魔王が僅かにイラついた口調で言いながら、もう片方の手に魔力を溜めて微かに氷を発生しだした。

そのことに感づいてか魔王の言葉が聞こえたなのか、地底はゆっくりとまぶたをあげて黄色い瞳を露わにした。


「ん~、あぁ~魔王様だったんだねぇ。すまねんなぁ。眠っとる時は無意識で攻撃を仕掛けてしまうんだよぉ」


「まったく、敵の多い外ばかりで眠るからそのような癖がつくのだ。お前の部下に被害が出ていないのかと心配になる」


「あっはは、それは大丈夫ださぁ。部下が僕の眠りを邪魔するのはいないんし、それに犠牲になったのはせいぜい十二体ぐらいだよ」


「…それは、その犠牲により部下が睡眠の妨げをしないようになったのではないのか?」


魔王がそう言うと、地帝は一瞬だけきょとんしてからすぐにあっけからんに笑った。

そして眠そうな目でまじまじと魔王を見て、地帝は何度か瞬きをしながら喋る。


「どうだかなぁ。それより魔王様。会うのは数ヶ月ぶりだが、なんだか弱くなってねぇか?昔ならこんなぁ散らかすこともなく僕を起こすことできただろうし、明らかに速さ落ちてるんだよ。魔王様から感じる威圧感だか不思議な感覚も、相当弱っちいしなぁ」


この言葉はシャルにも聞こえていたが、シャルは不思議に思うしかなかった。

別に魔王は全力ではなかっただろうし、いつものような驚異的な速さと力をみせつけていた。

でも確かに、一緒にいることで慣れ始めただけかと思っていたが、魔王の魔力にシャルは特別な強さを感じることは無くなっていた。

この失礼そうな地帝の言葉に魔王は腹を立たせることはなく、神妙そうな顔をして少し自嘲気味に笑うのだった。


「寝ていたお前に言われるほど、俺に変化が出ているか。………最近の魔法の調子もやはり、そういうことになるな。なに、俺の手加減が上手くなっただけだ。気にすることではない。それより聞きたいことがある」


「なんだべさ。って、できれば先に地面に降ろして欲しいんだよ」


魔王は地帝の言われた通り耳を手放すことで、地帝を地面に落下させた。

地帝が着地したとき、シャルも空から舞い降りて魔王の隣へと降り立った。

ここで地帝はシャルの存在に気がついて、シャルより小さな手をあげて挨拶のような動作をしてみせた。


「お、あんたが魔王様と同じように魔法を扱えるって話の半精霊のシャルちゃんだねぇ。報告で聞いてるよ。僕は黒兎(こくと)精霊の地帝ってもんだよ。よろしくねぇ」


「はい、地帝さん。よろしくお願いします」


「それで地帝、お前は誰にやられた?ルナか?」


魔王が訊くと、地帝は蛇の頭をした尻尾を動かし寝ぼけ眼で答えた。


「えぇっと、ルナじゃなく勇者として有名なアテナだよぉ。亀の鎧に隠れていたけど、しっかりとこの目で確認したんだべ。すんごいびっくりする動きで、とても僕では戦える相手じゃなかったんだ」


「となると、アテナはあの力を身につけた可能性があるわけか。しかし、魔法の血など手に入れようが無いはずだがな…」


魔王はそう呟きながらシャルの顔を見て、数秒だけ固まった。

そのことに気がついて、疑問そうにシャルは魔王に言った。


「魔王…、私の顔がどうかしましたか?」


「シャル、お前人間に捕らえられたとき何をされた?」


「あの時ですか…?私の持ち物と魔法について……研究と調査されただけです。あとは……、そうですね。ルナさんに血を少し…採取されました」


「……やはりそうか。なら、アテナはその時が来れば、いずれまた俺の前に姿を現すか。面白い」


この言葉の意味はシャルも地帝もどういうことか分からなかった。

ただ、この時の魔王はどことなく楽しそうなものとなっていて、波乱があるのだと思わせるものだった。

魔王が含み笑いをしたとき、地帝はまだ眠そうにしながら魔王に頼みごとをする。


「あー魔王様。もうしばらく僕は姿をくらましていいんかなぁ?また勇者に襲われたら、今度は確実に殺されるさ。それだけは勘弁だぁ」


「分かった。しばらくは休暇として姿を隠して休んでろ。何かあれば俺から連絡を飛ばす。それまでは待機だ。では、シャル。お前の前に住んでいた小屋に行くぞ。用事があるのだろ?」


「あ、もう…大丈夫なんですか?それなら、行きましょうか。地帝さん、またいつか……会いましょうね」


「んだ、魔王様もシャルちゃんも元気でなぁ。じゃあ僕は穴ぐらにでも隠れて寝てっかなぁ」


地帝はそう言うとのんびりとした足取りで歩き始めて、魔王とシャルも別方向へと歩き始めた。

シャルは魔王の前を歩き、魔王は少し気難しい顔をしながらシャルの後をついて行くのだった。

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