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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第三章・安寧と秩序
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魔王とシャルのひと時

「いかにもお前の言う魔王だが、まさかこんな矮小な子供にまで顔を知られているとはな。俺も随分と有名なものとなった」


「何を呑気なことを言っている!お、お前が魔王なら刺してやる!み…みんなの仇だ!」


青髪の少女は両手でナイフを持ち直して、歩きながら魔王に近づく。

しかし青髪の少女の体は震えているし、顔色も悪い。

冷や汗も出ていて、酷く緊張しているのが見て分かる。


「なんの仇か心当たりがありすぎて分からんが、手が震えているぞ。恐怖しているならやめておけ。まだ死ぬ以前に戦うことすら早いということだ。このままでは無駄に命を散らすだけだ」


「黙れ黙れ!勇者様も星の騎士様も軍人さん達も戦えない今、私がやるしかないんだ!だから死ぬなんて怖くない!」


「口だけは勇ましいガキだ。だがな、お前のは無謀でも蛮勇ですらない。単なる愚行だ。食べる物がなくて苛立っているなら、この魚をやるから行け。悪いが俺は人間の子供と遊ぶほど寛大ではない」


「なにさ!小さいからって馬鹿にしてっ!」


青髪の少女は怒声をあげて、ナイフを魔王へ向けて全力で振った。

でも所詮は幼子な少女で、ナイフに振り回されているみたいで自分を傷つけてしまいそうな動作だった。

このまま避けてしまえば、少女は自分の体のどこかに刺すのは間違いない。

そのためか魔王は足でナイフを蹴り飛ばして、大きく弧を描かせながらナイフを湖へと落下させた。

手元を蹴られた少女は怯えながら尻餅を着き、反動による痛みで手をさする。


「やれやれ、刃物の扱いにも慣れていないのなら相手に向ける物ではないぞ。ほら、魚をやるから家へ帰れ」


魔王はそう言いながらさっき湖から獲った魚を放り投げて、無理矢理に青髪の少女に受け止めさせた。

すると青髪の少女はむすっと険しい表情と目つきをしながらも、しっかりと魚を抱えて立ち上がった。


「絶対にいつか私があなたを殺すんだから!首を長くして待っていてよね!」


「それは首を洗ってというべきではないのか。別に俺は、お前がまた襲ってくるのを心待ちにする事はないぞ」


「ふ、ふーんだ!なによ、魔王だからって偉そうにして!今回の事も含めて本当に許さないんだから!じゃあね!魚は貰っていくんだから!お腹を減らして死んでしまえー!」


青髪の少女はそう叫びながら走っていき、魔王から離れていった。

何度か振り返って警戒はしてきたが、魔王が特に興味なさそうに見ているだけだと気づいて、森に姿を消す前に最後にべーっと舌を出して挑発してきた。

もちろん魔王は気にせず、ただ一言呟くだけだった。


「飢えて死ねと言われてもな。テーブルの上にある料理に目がいかなかったのか、あのガキは」


こうして妙なやり取りに一段落着いたとき、ちょうどシャルが湖から上がってきた。

シャルのその手にはナイフの刺さった魚が抱えられている。

どうやら魔王が蹴り飛ばしたナイフが、偶然にも魚に刺さったようだ。

少し得意げな表情をしながらシャルは魔王に近づいて、自信満々に魚を見せつけてきた。


「魔王、私の……勝ちですね……。私が先に獲りましたよ」


「なに?魚なら俺が先に………しまった。さっきのガキにあげてしまったか。いや、待てシャル。この勝負は俺の勝ちだ。それか無効にしろ。証明はできないが、俺が先に魚を獲ったんだぞ」


「珍しく魔王もでまかせを言うんですね…。そんなに…負けて悔しいんですか?」


「……くっ」


魔王は少し唖然とした。

まさかこんな態度をされるなんて、余程シャルには自信があったようだ。

勝ち誇った顔や口調が、シャルの内心を全て物語っていた。

特に意地を張ることではないのだが、魔王としては釈然としないのは事実だ。

だからいつもなら負けても何とも思わないはずなのに、余計に悔しいような気持ちにさせられる。


「……確かに、今はただの言い訳にしかならん。ならもう一度しようではないか。それなら問題ないだろう」


「ダメです、勝負は一回です…。そしてたとえ、もし偶然にも次は魔王が勝っても…、この勝負の勝敗は……変わりません」


「……くっくく…っくはは。痛いことを言う。わかった、俺の負けでいい。しかしな、別に褒美はないぞ。よくよく考えれば勝敗に拘る意味などない!」


「え、褒美ないんですか…?」


「何?」


シャルが褒美があって当然というリアクションをするために、魔王はつい疑問形の言葉を口から出した。

勝敗うんぬんは決めるものではあったが、勝ったら褒美という約束などはしていない。

約束は極力は守るが、していない約束を守る道理はない。


「うむ、褒美などまったく一片とも考えていなかった。なにか、ねだりたい事でもあるのか?余程でなければ望む褒美をしてもいいが」


「そうですね……。魔王から何かプレゼントが欲しいです……。前貰ったローブも、結晶石も…王国都市で紛失しましたから」


確かにシャルに最初にあげた魔法のローブや結晶石は文字通り紛失した。

それどころか王国都市を潰した魔法により、塵も残らずに消えただろう。

魔王はシャルの返答を聞いて少し考え素振りをみせた。


「プレゼントか。何でもいいとしても持ち合わせなどないぞ。北の城は燃えてしまって、鷲の側近の金庫に入っていた書類や資料以外は炭だ」


「別に…物じゃなくてもいいんですよ」


「ほう、それは例えばなんだ?遊びなら充分に付き合っているぞ」


「キスです」


シャルは平然とした顔で言いながらも、声色のどこかが嬉しそうなものでトーンが高めだった。

ただシャルの言葉に、魔王はしかめっ面をしてしまう。


「キス、だと?それはつまり接吻ではないか。それは勘弁してくれ」


「なぜです?恥ずかしい……のですか?」


「そうではない。南の戦いの前の軍議といい、奪還した後の口づけといい、あのあと妙に魔法が安定しなくなるのだ。なぜかは分からんが、シャルに関係していると思ってな」


「魔法は精神に…影響します。だから…きっと魔王は照れて動揺してしまって……、魔法が安定しなくなったんですよ……。そうです、きっとそうです」


「シャル…お前、なんだか変なことを言うようになったな」


魔王の記憶では、南の戦いの前はもう少しお淑やかで大人しい性格だったはずだ。

流されるだけの姿勢ではなくて強引な面はあったが、冗談を言うようなタイプではなかったのは間違いない。


「駄目…なんですか。サキュバスさんから……こう言えば良いと聞いたんですけど。表情や声の練習もしたのですが、冗談が見え見えでしたか?」


「そうか、サキュバスの入れ知恵か。あとで調教しておかなければな。では、早速サキュバスを問い詰めに北の支城に戻ろうではないか。いくぞ、シャル」


「え、褒美……」


「何も聞こえん、いくぞ」


そう言いながら魔王は転移魔法を発動させて、シャルと共に北の支城へと転移していった。

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