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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第三章・安寧と秩序
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斬り裂く魔剣

アテナが扉を開けると、多くの魔物の姿があった。

そしてその群れの中にセイラが囲まれながらも戦っている。

この瞬間、アテナとセイラの間の距離は数メートルあった。

しかしアテナがセイラの姿を見かけて、声をかけた時にはアテナの姿はセイラの真後ろへと移動していた。


「セイラ、無事か?待たせて悪かった」


「あ、アテナ!?まだ魔物が…!って……え?」


セイラは声をかけられて振り返ると、後ろにいた魔物の群れは全て切り伏せられていた。

それは二桁に及ぶほどの頭数だ。

さっきまで後ろからは魔物の声が聞こえていたから、ほんの数秒足らずで全て斬ったことになる。

こんな芸当はルナでも無理だ。


「すぐにみんなと合流しよう。あとは…俺が全て斬る」


アテナが優しい表情でそう囁いて、セイラの前に出ながら魔剣を握り直す。

そうして前に出たとき、一匹の大蛇の魔物がアテナに向って飛びかかった。

セイラは反射的に危ないと叫ぼうとする直前、アテナの表情は勇者に相応しいものとなる。

そして瞬きをして目を開けた時には、襲いかかって来ていた蛇の頭は切り離されていて地面に落ちていた。

速い、あまりにも速すぎる。

完全に今までのアテナとは別人だ。

ルナも充分に人間とは思えないレベルではあったけど、今のアテナはもはや人の領域を越えている。

それから巻き起こる洞窟内での旋風。

思わず手で髪を押さえてしまいそうになるほどの風圧が発生すると同時に、他の魔物達の体が切り落とされていく。

アテナの姿は分からない。

ただ魔剣の輝きが見えるだけで、次々と魔物たちが血を噴いて倒れていくことしか理解できない。

そして数十秒後、旋風が止んだときには魔物の死体に囲まれて立っているアテナの姿があった。


「ア、アテナ…?どうしたの、その……」


セイラはうまく言葉にできなかった。

なんと言い表せばいいのか分からない。

それほどに以前のアテナとはかけ離れている。

姿は同じだというのに。

動きは違えど、アテナはセイラの知る普段の表情で笑ってみせた。


「あぁ、今の動きか。なんだか体がよく動くんだ。感覚は何も変わらないのに、不思議な感じだ。戦いになると時間が遅く思える。集中力が増してるのかな」


アテナは魔剣を一度鞘に収めて軽く足踏みをする。

そしてセイラに背を向けて話した。


「悪いけど、先に行かしてもらうよ。天狼を洞窟前に待たせているから。あとで天狼と一緒にルナさんの方へ来てくれ。じゃあ、またあとですぐに」


アテナはそう言い残すと、一瞬で姿を消した。

まるで風になって消えたみたいに、静かに居なくなっている。

眼では捉えきれなかったが、おそらく走って移動したのだろう。

そのことに、何だかアテナが遠い存在になったようにセイラは感じていた。

そして数秒でアテナは洞窟外へと出た。

それと同時にアテナは魔剣を引き抜いて、近くにいたオーク長の頭を切り落とした。

この僅かな時間のできごとに天狼は察知して、近くにいたサソリの魔物を蹴り飛ばしてアテナの方へと駆ける。


「アテナか、どうやらうまくいったようだな。動きが万全なようだ」


「万全などころか、少し人間から掛け離れたような気がする。天狼、一瞬で片付けるぞ」


「ずいぶんとデカイ口を叩く。俺の速さについて来れるのか」


「今ならついていけるさ」


アテナの自信満々な言葉に天狼は驚いた顔をみせたが、すぐに余裕ある笑みを浮かべた。

冗談かと思ったが、アテナの顔を見る限り本当のことのようだからだ。

だから天狼はアテナの言葉を信じ、全力で脚を動かして速さを引き上げた。

天狼の速さはまさに驚異的で雷帝のような速さに特化した魔物ぐらいでしか、対処はできないだろう。

だから天狼に敵う魔物は少ないのだが、ただ天狼はその全速力を常にフルで出せるわけではない。

瞬発的な初速のみ、または数秒間の速さの持続に留めておかないと体力を消費し過ぎてしまう。

そのため、天狼は洞窟前の戦闘ではトップスピードは出さずに持続できるよう足止めに徹していた。

しかし殲滅となると、速さを制御する必要はない。

まして自分と同じ速さを持つ者がいるなら、ずっとトップスピードでもいいほどだ。

トップスピードを持続できるのはせいぜい一分足らずでも、二人でなら戦いを終わらすには充分な時間だ。


アテナは魔剣を振り抜き、一体の魔物を切断した。

切断された魔物の血が飛ぶより速く、天狼はアテナの近くを通り過ぎて更にもう一体の魔物の頭を噛みちぎる。

続けてアテナはオークが持っている槍ごと魔剣で両断して、切断された槍を手にとって近くの魔物に投げつける。

その投げた槍が刺さるとほぼ同時に天狼がステップを踏んで移動し、刺さった槍を引き抜いて他の魔物へと投げ飛ばして刺した。

更に天狼は身につけていたポーチからナイフの束を空中へとばらまく。

天狼の行動に合わせてアテナは魔物を踏み台にして跳躍し、ナイフの束を手に取って一気に周りに投げつけつつも、地面へと落下しながら魔剣で魔物を一体斬り飛ばした。

ナイフが空気を切る音が聞こえる中、天狼は全速力で駆けて飛び回り、魔物や地面に刺さっているナイフを口に咥えては他の魔物の急所へと突き刺していた。

この時の天狼はまさに閃光のように速く、魔物は目の前に天狼が来たと思う頃には首や胸にナイフが刺さっている状況だった。


「アテナ!もっと速くいくぞ!」


天狼は叫び、更なる加速をしてみせた。

今まで以上の速さとなっていて、アテナですら体が追いつかないレベルとなってみせる。

アテナは近くの魔物を回し蹴りで飛ばすと同時に、魔剣を投げつけて他の魔物を貫く。

貫いて尚飛んでいく魔剣を天狼は口で受け止めてアテナへと投げ返した。

魔剣が手元に戻るまでのわずかの時間、アテナは爬虫類の魔物を素手で殴り飛ばしながらも、その魔物に刺さっていたナイフを引き抜いて近くの別の魔物を斬りつけた。

そしてアテナはナイフを持ったまま魔剣を難なく受け止めて、目では捉えきれない速さでありながら、輝きが鮮やかな曲線を描くようにして舞いながら次々と魔物を魔剣で斬り伏せた。

その間に天狼は他の魔物どもを一気に牙で喉元を裂いていき、近くにアテナが通るとわずかに距離を開けるように後ろへ跳んだ。

間髪入れずにアテナは斬りながらも肘打ちを当てて、魔物を一体空へ高くあげる。

それをまるで分かっていたかのように天狼は打ち上げられた魔物にのし掛かり、魔物と共に落下しながら真下にいた魔物の上へと着地して巻きぞいを与えた。

続けてアテナが斬っていく途中、アテナは一体の図体の大きいスライムを魔剣で斬った。

しかし斬られたスライムは刃が通った瞬間に液状の体が接着していき、まるで何ともなかったようになる。

まさに水面に刃を通しただけで、攻撃が効いているようには見えない。

すぐさまアテナは魔剣をスライムから振り抜くと、全力の拳で叩き潰した。

するとスライムの体は飛び散り、あっけなく再生不可能となってしまった。


「こうも簡単にエンシェントスライムを倒すか、さすがだな」


天狼の牙では倒しきれないために接触を避けていた部隊長のエンシェントスライムを一撃で倒すアテナを見て、素直に驚嘆した。

こうしてあっさりと魔物を打ち倒していくと、あっという間に洞窟前に集まっていた魔物達を全滅させた。

一息ついたがアテナは魔剣を抜き身の状態にさせたまま、天狼に話しかける。


「天狼、俺は一足先にルナさんの所にいく。すぐにセイラが来るはずだから合流次第こっちに向って来てくれ」


「分かった、俺も少し休みたいからな。迷惑かけた分だけ活躍してこい。お姫様を助ける勇者みたくな」


「ルナさんがお姫様だってことか?ははっ、それはありえないな。じゃあ行ってくる」


アテナは駆け出し、ルナの元へと走って行った。

向かう途中も昆虫類の魔物がやって来るが、アテナは難なく魔物の全身の関節部を斬っていきながら突き進んで行く。

動きは何も直線に走るだけではなく、魔物の動きに合わせつつも速度に緩急をつけて体と脚を動かしながら斬っていた。

前なら一体斬る度に足を止めていただろうが、今はそんなことはない。

力や速度、体術だけではなく魔剣の切れ味も増しているように思える。

それほどにあっさりと魔物を切断できた。


一方、ルナは地帝との戦闘の継続はできていたが防戦一方だった。

回収した手斧で何度切りつけても大きな傷は与えれず、すぐに岩や土が亀の姿である地帝の体に付着して再生する。

まるで本体と戦っているような手応えが感じられない。

地面の盛り上がりを察知するとルナは手斧を投げ飛ばして、紐を枯れ木に絡ませて高く跳びながら回避してみせた。

しかし地帝はその動きをまるで読んでいたかのように、ルナの軌道に合わせて岩のつぶてを放つ。

ルナは無理に体を捻りながら手斧から手を離すことで、石つぶてを回避しながら枯れ木へと捕まった。

だが枯れ木は石のつぶてが当たると折れてしまい、ルナはすぐに脱出しなければいけなくなった。

ルナは飛び降りると同時に、手斧を手元に戻しながら着地して走っていく。

その走るルナの跡を追うように次々と地面が飛び出して貫こうとしてきた。

地面の衝撃も加わるせいで、ルナは走りが安定せずに速さがだせない。

だからルナの跡を追っていた地面の盛り上がりが足元にまで追いついて来る。

しかしルナは側転するかのように体を回しながら宙を跳び、手斧を地帝に投げつけた。

手斧がルナの手元から離れるとほぼ同時に地面からは貫こうとする山ができるが、回避行動しているために当たることはなかった。

そして飛んでいく手斧は地帝の甲羅に当たるが全く切断できない。

体に力が入らないせいで、威力が格段に落ちているからだ。


ルナはすぐに投げた手斧の紐を引っ張ることで引き寄せながら、手を着けながらも側転の状態から地面に着地した。

しかしすぐにまた石のつぶてがルナに向って飛んで来て、ルナはブーツの隠し刃を出して足で石のつぶてを叩き落としていきながら再び手斧を投げ飛ばした。

しかも投げたのは二本共両方の手斧だ。

すぐさまルナは地帝に向って走り出す。

速く、素早く、全力で駆ける。

二本の手斧は地帝に当たるもやはり弾かれるが、接近したルナは弾かれて舞った手斧を手に取って更に切りつける。

それに対して地帝は尻尾に岩をまとわせて長くして、ルナに頑丈な尻尾を振り落とした。

ルナはその尻尾を顔面ぎりぎりの紙一重で躱しながら爆破の札を地帝に貼り付けて、地帝の体を蹴り飛ばしては自身を大きく後ろへと移動させた。

離れている途中で式術が発動して、地帝の体についている岩石や土が弾けとんだ。

爆音と乱れる空気、そしてわずかな熱気と火や煙。

これで少しは地帝にダメージがあってもいいのだが、爆炎がおさまると無傷の地帝の姿があった。

あまりの硬さにダメージがなかったのか、それとも周りの土で補って体を再生したように見せているのか。

どちらにしろ効果的だった様子は見られない。


「はぁ……はぁ…、本当面倒ね」


ルナは息切れしながら手斧を構え直した瞬間、一つの閃光が舞い降りて地帝の体を完全に真っ二つにした。

崩れる音と物が落ちたような重々しい落下音に、岩が割れた音。

その音達が辺りに響くとき、アテナの姿が地帝の上にあった。

続けてアテナは体を回転させて地帝の頭であろう部分を切り落とし、続けて手足と尻尾も瞬間的に切断する。

すでに地帝の姿は無残な物となり、動くように思えない有様だ。

地帝の体が地面に崩れると、アテナは魔剣を鞘に収めてルナの近くへとかけよった。


「ルナさん、大丈夫ですか!?すみません、遅くなってしまって…」


「あっ…はははは、別に待たせるのはいいんだけどね。まさかそんな力を身につけてくるなんて予想外よ。まぁ、いいわ。全てが上手くいったようでよかった。…お帰りなさい、隻眼の勇者アテナ」


「どうしたのですか、そんないきなり……。いえ、…ただいま戻りましたルナさん。おかげさまで再び戦えるようになって、万全な状態となりました。本当にありがとうございます。それで、傷は大丈夫なんですか?」


「傷は平気だけど体力がどうもね…。天狼やセイラは?」


「今、こっちに向かって来てるはずです。あらかた魔物は排除しましたし、ゆっくり行きましょう」


「そうね、もう走る気力もないわ」


ルナは足元をふらつかせて、苦し紛れな笑顔の表情を見せた。

そのことにアテナは気づいて提案する。


「なら、背負っていきますよ。その方が早く休めますから」


「…あっははは、面白いこと言うわね。でも別にそこまで……」


「では行きますよ」


アテナはそう言うと、持ち前の強化された身体能力を使って無理矢理にルナを背負う。

戸惑うルナだったが、心身の疲労は大きくて言葉に甘えてしまおうかなと思ってしまう。

だからルナはアテナに身を任せて、素直に背中にしがみつくようにした。

するとルナの胸や甘い香りをアテナは感じて、いつも強者で猛々しいけどやっぱり女性なんだな、と失礼ながら思った。

アテナはルナの殿部(でんぶ)に手を回して抱え直してから、地帝の残骸を置いて歩き出した。

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