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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第三章・安寧と秩序
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襲いかかる敵達

ルナの額に冷や汗が流れ、武器を持つ手にいつも以上に力が入っていた。

大地の揺れだけで腹部の傷に痛みが走るせいだ。

本当は安静にしていないといけないほどに、すでにルナの全身は傷んでいる。

一体この状態でどれくらい戦えるのか、どれほど時間を稼げるか分からない。

何より地帝とルナの相性が悪いことをルナ本人は理解していた。

ルナは敵がいくら速かろうと対処できる眼が強みだが、地帝は速さなど全くないためにレグルスのような一撃に重みがある戦闘スタイルの方が相性がいい。

ルナは辺りを警戒して見回すが揺れはおさまらず、地帝の気配もうまく掴めない。

だから焦りながら何度も同じ光景を見渡すばかりだった。


「くっ!」


ルナが地面の揺れで姿勢を崩しそうになったとき、どこからか岩がルナに目掛けて飛んできた。

その岩の大きさは大人一人分ほどの大きさはあり、とても手斧で斬って防げるものではない。

そのためルナは二本の手斧の柄の尻を連結させて、両剣の手斧へと武器を変化させた。

そして両剣の手斧を地面に突き刺し、脚と腕の力で体を飛び上がらせて岩石を避けてみせる。

更に空中にいる時に、同じ大きさの岩石が猛スピードで飛んでくる。

それでも慌てずにルナは両剣の手斧を飛んでくる岩石に突き刺して、わざと斬るのではなく岩石の勢いに身を任せる。

吹き飛ばされるような状態になるが、ルナは体を回転させて姿勢を崩すことなく、荒れた地面へと着地した。

そこで着地すると同時に地面はわずかに陥没する。

あまりにも不自然な地形の変化にルナは体勢を崩して転んでしまいそうになるが、両剣の手斧の刃を地面に刺すことで体を支えた。

このままだとまともに動くことができもせず、ルナはすぐに両剣の手斧を引き抜いて移動しようとしたが、奇妙なことに地面から土の手が生えてきた。

その手は人の形をしていて、とても不気味なものだった。

土の手は両剣の手斧を掴み、更に多くの土の手が生えてきてルナの足も掴もうとさえしてくる。


「これはっ…!」


ルナはすぐさまに両剣の手斧を引き抜こうとしたが、土の手が刃を掴んでいるために離れてくれない。

だからルナは両剣の手斧そのものを手放して、後方へと大きく跳躍した。

そこで武器を手元から無くなってしまったルナは自分のミスに気づく。

接合を離せば、片方の手斧は手元に残しておくことが可能だった。

そのことに気づいたルナは舌打ちをしながらナイフを手に持つ。

しかし問題は武器より地帝が姿を現さないことだ。

隠れていながらこちらを探ってきているのか。

でも今の土の手は、明らかにこちらの動きを捕捉したものだった。

更にここでルナは天狼の言葉を思い出す。

地面から流れ込んでくるような臭いがするという言葉。

見当たらないことも含めて、推測するに地帝の居場所は限られてくる。


ルナは爆破の式術を地面に撒き散らしながら、拙い足取りで地面を蹴りあげて移動していった。

そして手当たり次第に地面を爆発させてルナは回避に専念していく。

足場が悪いせいもあって、少し動くだけで息が切れそうになる。

この程度なら訓練にも劣るというのに、それほどに現状では体が辛い。

ルナは次々と襲いかかってくる岩石と土の針を避けていくが、ついに足場を取られて動きが鈍くなった。

そのとき、何か大きな物が地面から勢いよく這い出てきてルナに噛みつこうとしてきた。

すかさずルナはボウガンを取り出して、襲いかかってくる物へ狙いつけて矢を素早く撃ち放った。

だがボウガンの矢は這い出てきた物に刺さりもせずに弾かれて、せいぜい相手が撃たれた反動でわずかに仰け反るだけだ。

でもルナはその僅かな怯みのおかげで避ける時間を充分に取れた。

ルナは突如現れて襲いかかってきた物から距離をとり、その物体の姿を見る。


「亀…?」


思わずそう言ってしまいそうになるほど、それは亀の姿をした魔物だった。

ただ尻尾は蛇の頭の形をしていてるし、全身がまるで土や岩で出来ているために生物的ではなかった。

それに大きさで言えば四つん這い時の高さは三メートルで、全長は九メートルほどあるように見えて亀の姿をしているには大きすぎる。

それに土の巨大な亀の頭には、茶色の宝石が埋め込まれるようにして飾ってある。

どうやら状況を考えるに、この蛇の頭の尻尾を持つ巨大な亀が地帝のようだった。

これは攻撃が通りそうにないね、と思いながらルナは時間稼ぎとして地帝に話かけた。


「あなたが地帝?見たことはなかったけど、そんな姿をしているのね。まるで陸亀だわ」


「んー、どぉうかなぁ。陸亀、見たことないんよねぇ」


間延びしているだけではなく、どこかの地域の訛り交じりに地帝はルナに言葉を返した。

その声はどこかこもっていて聞き取りづらい。

それより地帝という質問に否定をしないということは、どうやら本当に地帝のようだ。

炎帝のように気性は荒くなさそうだからまだ助かるが、姿を現したということはやる気は充分にあるはずだ。

ルナは警戒してナイフを構え直す。


「ところで地帝さん。できれば見逃してくれないかしら。もう人間が戦争に負けたのは知ってるわよね?だから私は戦うつもりは毛頭ないのよ。寛容な心をお願いするわ」


「あーあ、駄目だぁよ。僕、知ってるからねぇ。君さぁ、星の騎士団の一員でしょう?なら、始末しておっかねぇと面倒なんだよねぇ。僕は面倒、嫌いだからさ。大人しく倒れて貰うんだよー」


「それは残念」


ルナが薄く笑って答えると、大地は盛り上がっていき再び地帝が攻撃を仕掛け始める。

それに対してルナは全力で地面を蹴って地帝へと飛び込んだ。


そして同時刻一方では、アテナを乗せた天狼とセイラは枯れた木々の中を駆けていった。

普通なら天狼の速さにセイラがついていけるものではないのだが、天狼がアテナを落とさないようにと気遣っているためにかなりの速度を落としているからだ。

走りながらも天狼は視線を動かし、周りの気配に感づく。

地帝がいるのなら、その部下も当然いるだろう。

そのことに天狼がいち早く察知した。


「セイラとアテナ、敵だ。気をつけろ」


天狼が呟くとほぼ同時に、植物のツタが不自然に伸びて天狼とセイラに襲いかかった。

植物型の魔物だ。

今の天狼は攻撃に移れないために、代わりに戦闘態勢としてセイラが火炎の式術の札を巻いたナイフを手に持つ。

そして四方八方から襲いかかってくるツタを切ると同時に、式術の発動により燃やしていった。

次々と襲いかかってくるツタを、セイラは体を回転させて切っていきながらも天狼のカバーをしていく。

更に天狼はセイラの動きに合わせてツタをおびき寄せていき、セイラが切っていけるようにと調整をかけていった。


「セイラ、後ろだ」


天狼の言葉により、セイラは視界外から襲いかかってくるツタにも反応して素早く切り裂く。

単なる敵の誘導だけではなく、天狼の察知能力は何より便利だった。

おかげでセイラの動きがより俊敏で鮮やかなものとなる。

しかし更に魔物は襲いかかってくる。

今度はツタだけではなく、一メートルはありそうな蜘蛛やサソリ、蛇と昆虫や爬虫類の魔物がやってくる。

どれも嫌に硬そうな見た目をしていて、普通の動物とは姿がかけ離れていた。


「このままだと敵が増える一方だ。先に急ぐぞ」


「うん!」


セイラは爆破と火炎の札を巻いたナイフを適当に辺りに散らして、先走る天狼の後を追った。

セイラの巻いたナイフは爆発と火炎を撒き散らして一時的にだが魔物たちを怯ませることになり、おかげで距離を離すのが容易となる。

そして息を切らしながら走っていくと、一つの洞窟が見えてきた。

それは自然にできているものではあったが、多少は人の手が加えれらている所だ。

カモフラージュか分からないが、洞窟の入口には枯れ木がやたらと植えてあって見づらい物となっている。

天狼は洞窟をへめがけて走りながらアテナに言った。


「あそこだ、アテナ。入るぞ」


天狼とアテナ、セイラが洞窟に入ろうとしたとき巨大なスライムと武装したオークが洞窟の上から飛び降りて襲いかかってきた。

この奇襲に天狼は早く気づいて、アテナをセイラの方へと放り投げながらオークとスライムを足蹴りにして体勢を崩させた。

そのスライムとオークはすぐに地面に着地するなり、体勢を直して攻撃をしてきた天狼を睨みつける。

それに天狼は睨み返しながら、松葉杖として持ってきた支え木を手にしたアテナとセイラに声をかけた。


「お前らは早く先に行け。この先、魔法陣がある。そこで準備の時にルナに渡された物を飲んで強く願え。それだけで充分だ。俺はこいつらの相手をする」


「……わかった、行こうアテナ」


戦えぬアテナがいるために、ここでセイラも一緒に戦っては危険が大きすぎた。

それは後ろからさっきの魔物が追って来てもいるためで、この開けた場で戦っていては間違いなくアテナが襲われる。

そのことを避けるためにも、セイラとアテナは天狼を置いて先を急ぐしかなかった。


「天狼やられるなよ!すぐに俺も戦えるようになって応戦しに来る!」


アテナの激励に天狼は鼻で笑った。


「ふん、応戦した頃には終わっているさ。さぁ行け!邪魔だ!」


天狼の叫びを聞いて、アテナとセイラは遅い足取りながらも洞窟の方へと駆けていった。

しかしオークが槍の武器を手にして、アテナとセイラに襲いかかろうとする。

すぐにそんな行動をさせまいと天狼は消えたと思うほどの速さで走り、オークの腕に噛み付いた。

意外にもオークの腕は力強く、噛みちぎることができないために天狼は反撃をくらう前に口を離して再び距離をとった。

そして挑発するように嘲笑いながら、嫌味たっぷりにオークとスライムに声をかける。


「貴様ら、部隊長のオーク長とエンシェントスライムだな?こんな僻地で活動とはよほど使えないのだろうな。せっかく戦うんだ、せいぜい一分は持ってくれよ。ズタズタに噛み砕いてやるからよ」


あからさまな挑発ではあるが、オーク長とエンシェントスライムは魔物として部隊長としてのプライドがあるために侮辱は聞き流せない。

それにオークは特に目の前の敵を潰したがる。

だから敵の思惑通りと分かっていても、攻撃の矛先を天狼に向けて襲いかかった。


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