電撃戦
雷帝から放たれた雷が地面へと衝突する瞬間の直前に、星の騎士たちは散開して避けてみせる。
レグルスだけはシャルを背負っているために後ろの方へと下がって身を隠すが、サキュバスがレグルスの後を追う。
同時に避けながらも、ミザルは弓矢を雷帝に向けて撃ちだしていた。
そのことに雷帝は気づいており、続けて角から放つ電撃で矢を打ち砕く。
更にアルコルとアケルナルはミザルとは反対の方へと跳んでおり、ミザルと挟みかける位置に移動する。
しかし挟みかけなど雷帝には意味がない。
彼は単純に馬の姿なだけではなく、馬の持つ生来の能力もある。
それに加えて高い知力による分析からの情報処理能力。
視界は馬同様に350度あり、片目それぞれで相手を捉えることが可能だった。
これはいつしかの人間との戦闘でも活用している能力だ。
数日前に騎馬の弓兵部隊に全方位から矢を放たれたとき、電撃で全ての矢を逸らしたが何も適当に電撃を放出したわけではなかった。
目視で一本一本の矢を捉えて、正確に雷撃を打ち出していたのだ。
「アルコル!」
ミザルが雷帝の後ろへ回り込むように動き出しながらアルコルの名前を叫んだ。
その呼びかけに反応して、アルコルは二つの鉄の輪を投げ出した。
一つは雷帝へと真っ直ぐ飛んでいっているが、もう一つは大きく逸れている。
それに対して雷帝はとりあえずは向けられた攻撃に対処するべく、体から電撃を放出させながら瞬間的な移動をしてみせた。
遅れて電撃の音と地面を蹴る音が聴こえてくるほどの速さ。
当然、星の騎士達にはこの移動の速さに目が追いつかず一瞬だけ雷帝の姿を見失う。
雷帝との戦闘では一瞬の差が大きい。
気づけば雷帝は青い電撃を放出する構えのように頭をあげて角を振るおうとしていた。
雷帝の現在地はアルコルとアケルナルの後ろだ。
アルコルとアケルナルは電撃の音で後ろに雷帝がいることに気づくが、行動が間に合わない。
しかしアルコルの姿を見ていたために、ミザルは誰よりも雷帝の居場所に早く気づけた。
だから弓をほぼ構えもせずに、アルコルの後ろにいる雷帝に狙って撃ちだしていた。
それも単純に雷帝を狙ったわけではない。
矢は最初に雷帝に向かっていた鉄の輪の間を通り、途中で鉄の輪が引っかかる。
そして鉄の輪を連れて行きながらも雷帝へと矢は向かっていった。
これで当たれば単純に矢が刺さるだけでは済まされなくなり、鉄の輪が雷帝の身を裂くだろう。
このことに雷帝は気づき、すぐに攻撃をやめて矢の射線上から離れようとする。
別に攻撃はしようと思えばできるが、攻撃したあとは電撃の消費もあってすぐに移動ができるわけではない。
そのため避けに徹する必要があった。
速さも攻撃も絶大なものだが、移動と攻撃が同時にできないのが雷帝の欠点と言える。
雷帝はミザルを先に仕留めるべき敵だと判断して、今度はミザルの前へと移動する。
対象との距離が近く、わざわざ目の前なのはその方が電撃の燃費がいいからだ。
それに今度は妨害や反撃をされるとも思っていない。
雷帝は先ほどから電力を溜めていたこともあり、ほぼ動作無しで雷撃を角から光線のように放つ。
だがミザルは雷帝の姿がアルコルの後ろから消えたと同時に、群青色のマントで身を包む動作に入っていた。
その先を読んだ行動が功をそうして、雷帝の雷撃がマントに当たる。
強烈な痺れと痛みがミザルに伝わってきた。
しかし星の騎士が扱う道具全ては特殊なものだ。
マントで言えば電撃を通さない性質を持っている。
そのおかげでミザルは気を失うことはなく、痺れはあれどすぐに体を動かすことができた。
ミザルは腰からボウガンを引き抜いて、雷帝に向けると同時に引き金を引いて矢を発射させた。
動作は速いが、雷帝を仕留めるのにはまだ遅い。
ボウガンの矢は雷帝がわずかに横に動くだけで避けられてしまい、ミザルは無防備になる。
だがこのタイミングで、最初に投げて逸れていた鉄の輪がターンして戻ってきており、ミザルの首元へと向って飛んできていた。
ミザルは鉄の輪の動きを、アルコルの視線の動きを見て察知する。
鉄の輪の軌道はこのまま受け取らなければミザルの首を斬り落とし、次に雷帝へと当たる。
そのためミザルが首を斬られないように雷帝に鉄の輪を当てるには、ぎりぎりまで自分の体を影にして、鉄の輪を雷帝の視界に入らないようにしないといけない。
雷帝の速さを考えれば限界まで鉄の輪を避けないようにしないといけないが、一秒でも避けるのが遅れたら自分の首が宙を飛んでしまう。
危険すぎる一手。
でもミザルは別に恐怖はしない。
アルコルとの連携は最高だからと自負しているからだ。
雷帝はミザルのボウガンを注視しながらも角でミザルの体を貫こうと角を突き出し、頭を下げて走り出す。
この時までミザルは動かずに、攻撃を受け止める動作だけはしておく。
あくまで見せかけだ。
そしてアルコルが右目だけを瞑ると、それがミザルにとっての合図となった。
ほぼ直感的に右に避けろという意味に捉えて、ミザルは首を右の方へと傾けながら体を逸らした。
すると鉄の輪はうっすらとミザルの首に傷をつけながらも、雷帝へと向かっていった。
気づくこと自体が遅ければ、移動が速いとか以前の問題だ。
雷帝は鉄の輪が目の前まで接近を許したことに気づくが、すでに避けようがなかった。
それは、雷帝の移動経路は必ず前方に出るものだからだ。
馬の姿であるがために、後方に走り出すなど到底できはしない。
もし一般人には雷帝が後方に移動しているように見えても、それは旋回しているに過ぎない。
だから雷帝は角で鉄の輪を叩き落とそうとするが無意味である。
鉄の輪は基本的に内側の円に触れるか、アルコルが付けている特殊な手袋をつけていないと全てを切り落としてしまう。
それは電撃を纏った角も例外ではない。
鉄の輪は雷帝の角に当たると、ゼリーに差し込んだスプーンのように綺麗に割れ目を入れていく。
そのことに雷帝は反応してとっさに回避行動に変え、頭を動かしながらミザルの隣を突っ切っていった。
この回避行動により鉄の輪の軌道から離れることはできたが、角が三本の内の一本が切り落とされていた。
雷帝の角はあらゆる雷撃の放出や充電、増幅で使っているがために一本の角の損失は大きい意味を持つ。
一本無くすだけで出力は実質半分にまで落ちる。
「まだだよ!」
ミザルは叫んで雷帝の切られた角を手にとって、それを武器として雷帝に投げつけた。
しかしさすがに雷帝は連携や攻撃を受け続けるわけもなく、振り向きもせずに体から放電させながら姿を消した。
またどこかへ移動したか。
ミザル、アルコル、アケルナルの三人はすぐに周辺を見渡す。
でも見渡しきって雷帝の姿を見つける頃には強大な電撃の音が聴こえ始めていて、そちらの方を見ると離れた所から雷帝が角を振るおうとしていた。
角と体には周囲の地面に迸るほどの電気が放電されていて、これから今までで一番の電力が放出されるのが見て分かった。
距離から考えて妨げるのは不可能だ。
なら回避か防御しかない。
だが電撃に対しての回避方法などあるのか。
普通に考えたらあるわけもない。
だけどそれでも持っている道具を使うと同時に行動するしかなかった。
「散れ」
猛獣の眼をしながら雷帝は呟き、角を振るった。
すると体からの電撃は地面全体に走って行き、角からの雷撃は蜘蛛の巣のように宙を張り巡りながら三人を襲った。
その光景は爆音と共に発生し、いつしかの電撃だけの嵐と同じ光景となる。




