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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第二章・侵攻、そして防衛
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レグルスとアケルナル

付加魔法展開、硬度強化、筋力増強、重量低下、速力低下。

ほのかな輝きが大悪魔とレグルスの体を包む。

すると血の大剣でレグルスの大剣を受けたにも関わらず、血の大剣は折れるどころか押し返した。

不思議と衝撃が軽かったのだ。

大悪魔はこの輝きと現象には見覚えがあるために、すぐに理解しながらもレグルスを弾き飛ばす。

レグルスはなぜ防がれたのか、そして体を包む妙な違和感に襲われながら地面へ着地して大悪魔と距離をとる。

体の感覚だけではなく、大剣の重さもいつもと違う。

この異常に、レグルスは敵である大悪魔に思わず問いの言葉をかけてしまうほどだった。


「なんだ、何をした大悪魔」


「さぁな?知らぬ内に我の策略にでもはめられたのだろうな」


大悪魔は不敵に笑いながらも、周囲の気配を探った。

神経を研ぎ澄ませれば確かに感じる。

最近は特訓に付き合っていたせいか、魔力というのを肌で感じ取れる。

何気なく周りに視線を移しても姿は見えないからどこかに隠れてはいるのだろうが、大悪魔は確信していた。

シャルが近くにいる。

なぜここに来たのかは分からないが今は好都合だ。

このまま一気に攻め込むしかない。

ただ、シャルは少し前までは複数の対象に付加魔法をかけることはできなかった。

できてもせいぜい自分の身につけているものとか、そういうレベルだった。

今は距離の離れた他者にも付加魔法は可能となってはいるのだが、それは単体にかける付加魔法よりは距離が近くでなければいけない。

つまりはシャルは遠くではなく、非常に近い距離にいて付加魔法を発動させている。

それもシャルが目視で、大悪魔とレグルスの位置を確認できる場所だ。

更に言うと、この付加魔法の持続時間は大悪魔が知る限りでは短い。

短期決戦でレグルスを追い込むしかない。

大悪魔は血の大剣を手にして、勝負を急ぐようにしてレグルスへと飛び込む。

その様子を、シャルが木の上から緑に紛れて見ていたのだった。


「絶対に守る…!みんなの…居場所…!」


この時のシャルの集中力と真剣さと熱心さは凄まじく、その精神力が付加魔法をより強力な効果を発揮させていた。


一方で北の魔城では、鷲の側近は魔城の頂上で辺りを見渡していた。

鷲の側近の眼は驚く程の視力を持っており、血の一滴でも見逃さずに警戒するのなら数キロメートル先までは常に見張れた。

一箇所に集中して見るのなら、それは百キロメートルに達するほどの距離を視認することが可能だ。

当然、鷲の側近はシャルの抜けがけには気づいていた。


「シャルさん、あれほど言ったのに行ってしまいましたか。…しかし、実践でしか積めぬ経験というのもあるでしょう。経験とはその生物を心身共に技術も飛躍的に成長させることがあります。知識も心構えもそうでしょう。そして経験を積めば、まるで別人のようになれる可能性だってあります。そう、私のように…」


鷲の側近は目を細めて、一人の人間が北の魔城に近づいて来ているのを察知した。

距離は一キロメートルほどか。

すでにだいぶ近い所を見ると、余程気配と身を隠すのが上手な人間だ。

鷲の側近はするりと北の魔城の頂上にある部屋へと入り込んだ。

そこは灯台のように突き抜けていて、ただ天井があるだけで壁のない空間だ。

そのために直接外への視認が常に可能。

そしてその空間には、四方に据え付けられた巨大な砲台があった。

この砲台の形状は矢を撃ちだすボウガンに近いものだが、あまりにも大きくて装填した矢の一発で民家なら崩せそうな兵器だ。

それほどに強力な兵器ではあるのだが、北の地が山脈が多かったり森林が多いなどの理由で使えたものではなかった。

しかし数キロメートル先にある裁縫針の糸穴を視認できる鷲の側近には、適した兵器と言える。

鷲の側近は狙いを定めて、敵の動きを捕捉する。

撃ちだす矢はあまりにも大きく強力だが、その分に空気抵抗が大きく狙いが逸れやすい上に決して早いものではない。

だからそれを感覚で補い、近づいてくる人間の移動する場所を予測する。

この兵器を実際に使って撃ちだした経験は少ないが、撃ったことがあるのならそれで充分だ。

文句も言い訳も不要。

ただ、魔王の側近として敵を排除するのみ。


鷲の側近は兵器の装置に触れ、矢を撃ちだした。

発射された矢はまるで老木の丸太のように太く、力強いものだった。

空気を裂いていき、風の音を鳴らしながら接近してくる人間へと一直線に矢は飛んでいく。

その音に人間は気づいたのか、魔城を見上げて丸太のような矢を察知した。

矢に合わせて避けるだろうがそれでいい。

鷲の側近の入念な準備は何も砲台だけではない。

人間が矢を避けた先には、細いワイヤーで張り巡らさせられた大量の罠を仕掛けている。

それだけではない。

すでに猿型の魔物の隊長のグノンマンキー、加えて熊型の魔物の隊長であるキラーベアも隊を連れて向かっている。

鷲の側近は魔城の中へと降りて行き、次の手はずを整える。

今は各地の戦闘が激化しているせいもあって、魔城内の魔物はほとんどいない。

それに敵襲を仕掛けてきてるのは服装を見る限り、人間最強の部隊である星の騎士団だ。

なら戦えるのは自分しかいない。


鷲の側近は防衛を突破されて侵入されることも想定しており、武器庫から二本の曲刀を拝借して腰に差し、ひと振りの剣を手に取った。

そしてもう片方の手には盾を取り、ボウガンも身につけては式術の札とナイフも懐のポーチにしまう。

その戦闘準備する装備は人間に近いスタイルだった。

決してそれが鳥族の戦闘スタイルというわけではない。

他の鳥族は持ち前の爪を使うのが基本だ。

しかし鷲の側近はそれだけでは生きていけない環境を送っていたこともあり、結果的には武器の経験も豊富となって使いこなすようになっていた。

盗賊のように生きていたこともある。

家畜や奴隷のように生きていたこともある。

ただの兵として戦い、仲間を見捨ててでも生きたことがある。

裏切り者と罵られようと、他の魔物に侮辱されようと魔王に忠誠を尽くして生きてきた。

魔王を狙う魔物の反乱分子を潰し、人間の村を単独で焼き払い、拷問だって何だってしてきた。

それが鷲の側近の生き方だ。

全てを代償として、ただ身も心も焼き焦がし尽くすだけだ。


しばらくして魔城の正門が開かれる。

堂々と正門から入って来たということは、二匹の隊長は早くも仕留められたか。

さすがに強い。

きっと敵わないだろう。

だからと言って、今更魔城を自由に闊歩(かっぽ)させる気はない。

鷲の側近は真正面から立ち向かうように、堂々と玄関ホールへと向かう。

玄関ホールは何もない広間のようなもので、空を飛ぶ高さも充分にある。

自分の実力を存分に出せる。

玄関ホールに着くと、そこには数体の部下の魔物が血まみれになって倒れていた。

森の魔物が人間を追って場内で戦闘したようだが、あっさりと撃退されたか。

鷲の側近は人間を見据える。

その人間は群青色のマントとフードを身にまとい、黒い短パンを履いた女性だった。

身長は女性の割には高く、髪はオレンジ色で背中に届くほどに長髪だ。

女性らしい体型をして綺麗な顔ではあるが、顔つきは勇猛なる戦士らしくて目つきが鋭いものだった。


そして手には長き棒を持っていて、柄の先端と後端にも槍のような刃が付いている。

特殊な武器か。

鷲の側近はその女性を見据えながら声をかけた。


「お見受けしたところ星の騎士団ですね?…なるほど、つまりは南の戦闘は囮ということですか。正直、驚きました。まさか人間がこんな手を出すとはこの数日、考えもしませんでしたよ」


鷲の側近の言葉に、相手の女性は男勝りな声で返した。


「そうかい。これは我らが騎士団長様と南で戦闘している将軍様の案なんだけどね。褒めて貰って嬉しいよ。そのご褒美として魔王がこの城にいるのか知りたいんだが、いるのかい?」


「……いませんよ。今は南の地で戦闘の指揮を執っています。おそらく、しばらくはお戻りになられないでしょう」


「なら好都合だね。この城、落とさせてもらうよ!雑魚はどきな!」


女性は槍らしき武器を振り回し、鷲の側近へ刃を向けて構えるのだった。

しかし鷲の側近はそんなことに動揺もせず、ただ淡々と冷静に受け答えた。

その時の鷲の側近の眼は冷酷で、一切の揺らぎはない。


「それは困ります。ですので、魔王様に代わってこの側近めが貴女をおもてなしさせて頂きます。どうか果てた骸としてお帰りください」


「はっ!上等な言い文句だね!面白い、この星の騎士団が一人アケルナル、行くわよ!」


アケルナルと名乗った星の騎士団の女性は楽しそうに笑い、両刃の槍を手にして鷲の側近へと向っていった。

それに対して鷲の側近も戦闘体勢を示す。

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