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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第二章・侵攻、そして防衛
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アルコルとミザル

アルコルは鉄の輪を振りかぶり、高速で投げ飛ばした。

でも鉄の輪は大きく孤を描くだけで、全く大悪魔の方へと向かっていない。

何か考えがあっての攻撃だと大悪魔は分かっているがために鉄の輪へと視線を追尾させたいが、この視線の誘導こそが狙いの恐れがある。

だから大悪魔は鉄の輪に対して意識の警戒だけを向けて、アルコルの動きに集中する。

そのことに気づいたアルコルは悪役のような嫌な笑みを浮かべて指先を動かした。

すると倒れていた頭の無い人形が唯一持っていた鉄の輪を投げ飛ばして、アルコルがその鉄の輪を受け取る。

このまま襲ってくるかと大悪魔は更に集中するが、今度はアルコルと人形だけに意識を向けすぎていた。

鉄の輪の空気を裂く音に混ざりながら数本の矢が、アルコルがなびかせているマントをめくりあげて飛んでくる。


「ふん、その程度…!」


大悪魔の足元の周りには、鉄の輪を受け止めた血の池ができている。

その血を形状変化と結晶化をさせて、大悪魔は目の前に大きな壁を作ってみせた。

これで血の壁で矢を防げはするが、視界が完全に阻害されてしまっている。

だが大悪魔の能力を少なからずアルコルは把握しているために、容易に血には触れてはこないはずだ。


「無駄だよ」


アルコルが呟くと血の壁を飛び越えるジャンプをして、血の壁を乗り越えてきた。

互いにかなりの至近距離となる。

だが、空中では身動きが簡単に変更できないので今のアルコルは隙だらけといっていい。

大悪魔はアルコルが空中で鉄の輪を振るより速く、長く鋭利な尻尾を振った。

この大悪魔の尻尾は並大抵の刃物より鋭い切れ味持っていて、大悪魔の強大な力もあって当たれば体を切断できるほどの威力だ。

だからアルコルはこの攻撃を防がなければいけない。

それを知ってなのか、もう一体の人形が身代わりで尻尾に向って行き、身を呈してアルコルより先に当たる。

人形は大悪魔の尻尾により見事に上半身と下半身が分離されて、使い物にならなくなった。


これでもう二体の人形はゴミ同然だ。

さすがに大悪魔の尻尾がこれほどの攻撃力があるのかとアルコルは思っていなかったらしく、少し驚きの表情を浮かべながらも鉄の輪を振るった。

だがアルコルの誤算はこれだけではない。

基本的な身体能力はアルコルは確かに高い方だが、それ以上に大悪魔は身体能力が高く圧倒的に上回っていると言っていい。

そのために、大悪魔がアルコルの腕を掴んで攻撃を防ぐことも容易だった。

大悪魔はアルコルの腕を大きな手で掴み、へし折ってやろうと力を込める。

でもその時にさっき投げた鉄の輪がUターンして戻ってきたようで、大悪魔の背へと高速で向かっていた。

このままでは大悪魔は背に鉄の輪が当たって切り裂かれるはずだったが、アルコルが一瞬だけ鉄の輪へと視線を動かしてしまった。

この視線の動きはアルコルにとっては完全に失敗だ。

大悪魔はアルコルの不自然な視線の動きを察知して、瞬時に背後からの攻撃を理解する。

この理解の速さは鉄の輪への警戒を怠らなかったからこそだが、それでも反応は素早いものだった。


大悪魔はアルコルを投げ飛ばしながら身をかわして、背後からの鉄の輪を避ける。

そして鉄の輪は血の壁を切り崩しながら、投げ飛ばされたアルコルへと向かっていった。

アルコルは木で受身を取って鉄の輪を手に掴むことで、戦闘態勢をすぐに整える。

しかし大悪魔は余裕の笑みを浮かべて笑うのだった。


「その武器はもう使えんな、小童」


大悪魔がそう言うと、血の壁を切り崩した鉄の輪には血の欠片がついていた。

そして血の欠片は刺となり、鉄の輪に傷をつける。

たったそれだけのことだが、問題は鉄の輪に悪魔の血が付着したことだ。

これにより悪魔の血が手に付着することや、投げて飛沫でもしたら不利になる。

だから、その鉄の輪は捨てざるえない。

アルコルは一つの鉄の輪を捨てながらも、壊れた人形が持っていた二つの鉄の輪を投げ飛ばさせて受け取った。

これでアルコルの手にある鉄の輪は三つだ。

片方の手には一つだけ掴み、もう片方の手には二つ持ってみせる。


「ほんと、生意気な魔物だよ。僕の道具をこうも不良品にしちゃうなんて」


「あいにく、我は魔物ではなく悪魔なのでな。生意気なのは許せ、小生意気なクソガキめ」


大悪魔の安い挑発に、アルコルは眉をひそめながらも不愉快そうな顔をする。

まだ幼さが残るせいか、悪口の内容より侮辱されたという行為自体に大きく腹を立たせた。

そしてその怒りはアルコルの行動を安直にさせる。

アルコルは手に持っている鉄の輪を三つとも全て大悪魔へと投げ飛ばして、更に跳んで接近した。

近づくとは馬鹿な奴だと思いながら大悪魔は鉄の輪を避けていき、崩れた血の壁で手に血の結晶剣を造り上げた。

距離が縮まっていく。

大悪魔はアルコルの動きに限界まで警戒してみせたが、不敵に笑っているだけでアルコルは手ぶらのままだ。

だから大悪魔は躊躇いなく、血の結晶剣を力強く振るった。

だが、二人が通り過ぎた時に血を流したのはアルコルではなく大悪魔のほうだった。


「なに…?」


大悪魔の手に持っていた血の結晶剣は砕けると同時に、肩から血が流れた。

肩の傷からして斬られた跡だ。

そんな馬鹿な。

大悪魔は少し驚きながらも振り向くとアルコルの手には新しい鉄の輪が、それぞれ一つずつあった。

アルコルがさっきまで使って投げていたのは、人形が持っていた鉄の輪だ。

その鉄の輪を、アルコル自身が別に隠し持っていないわけがない。

通り過ぎる寸前にアルコルは鉄の輪をマントの下から取り出して、大悪魔を斬ったのだ。

この事実に大悪魔は意識を取られてしまった。

それは隙を生み、数秒後には大悪魔の背には矢が刺さっていた。

注意はしていたが、振り向いたことにより飛んでくる矢の方向へ背を向けてしまっていたか。

そのことに後悔する時間もなく、アルコルが先ほど投げた鉄の輪を受け取っていきながらも、また更に鉄の輪を全て投げ飛ばした。

投げたのは五つ全部だ。

いくら大悪魔が素早かろうと、巨体で五つもの鉄の輪を避けるのは至難の技だ。

そのために移動して避けようとしても、体のあちこちに深い切り傷を大悪魔は新しく負うことになっていた。

そして大悪魔が移動した先の上空から矢が降ってくる。

これにも避けきれず、大悪魔は体の複数箇所に矢が刺さって血を撒き散らすことになる。

一気に大悪魔は深手を負ったが、ただでやられるわけにもいかない。

大悪魔は自分が出血した血を結晶化させて、鋭利な破片としてアルコルへと投げ飛ばした。

でもアルコルはそのことを意に介さずに、大悪魔に追撃をかけようと戻ってきた鉄の輪を二つ手に取って飛びかかる。

大悪魔の血の破片はアルコルの皮膚に傷をつけるが、アルコルは笑った。

そして叫ぶ。


「死ね!その首を落としてやる!」

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