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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第二章・侵攻、そして防衛
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悪魔の血と鉄の輪

大悪魔が二体の人形が戦闘している所に着いた頃には、猿型の魔物はほとんど死んでしまっているか、撤退をしているのかのどちらかだった。

見渡せば森の中が血まみれで、普通に戦闘しているだけではこうまでも惨劇の様子にはならない。

明らかに意図的に残酷に殺害している。

大悪魔は姿を木の影に隠しながら、まずは様子を伺った。


「あれは人形か。珍妙な物を使うのだな。しかし悪魔である我が言うのも何だか、ずいぶんと悪趣味な趣向を持つものだ」


息を殺し、静かに大悪魔は悪魔の虫を呼んでは潰して、手に血の結晶で槍を作り上げた。

そして片方の人形の動きを見定めて、先制攻撃を仕掛けるために血の槍を投げようと構える。

それからすぐに腕に力を込めては振りかぶり、投げようとした時だ。

遥か上空である真上から、大悪魔の頭上を目掛けて数本の矢が空を裂きながら落下してきた。

大悪魔は間一髪でそのことに気づき、慌てて身を逸らして避ける。

すると避けた矢は地面を抉って刺さり、まるで砲弾のような破壊力を物語っていた。

だがそのことに大悪魔は驚く間もなく、一体の人形が鉄の輪を手に襲って来る。


「ちっ!」


大悪魔は舌打ちをしながら、血の槍を襲ってきた人形へと力強く突く。

しかし人形が鉄の輪を振るうと、まるでガラスのように血の槍にヒビが入っては砕けてしまう。

こうも簡単に血の結晶が砕かれると思わず大悪魔は困惑したが、一瞬で態勢を整えて人形を殴りつけようとする。

その動作に反応してなのか、襲ってきた人形は予備動作無しに後ろへと飛びながら下がり、二つの鉄の輪を高速で投げ飛ばしてきた。

大悪魔は先ほど血の槍が破壊されたことにより、鉄の輪の強度と切れ味はおおよそ予想がついている。

おそらく直撃すれば、いくら強固なる皮膚を持つ大悪魔でも致命傷となるのは避けられないだろう。

ならば受け止めるまでだ。


大悪魔は大量の虫を呼び出し、それらを周りに飛ばさせた。

すると鉄の輪は大悪魔より先に虫を切ることになり、悪魔の虫の体内にある悪魔の血がぶちまけられることとなる。

虫は壁にもならないので一見、無意味のように思えるがそうではない。

悪魔の血の操作は何も結晶化や形状変化だけではないのだ。

粘液にすることも可能だ。

それもかなりの粘質力のある粘液。

鉄の輪に付着した血はスライムのような妙なネバつきを見せ始めては、二つの鉄の輪は大悪魔に当たる直前で静止した。

鉄の輪は絶大な切れ味はあれど、引っ張られる力には弱いということだ。

そして悪魔の血が数滴、鉄の輪を投げた人形の片腕についているのを大悪魔は感覚で認識する。

その血が人形に付着したのは、血の槍が壊された後に大悪魔が人形を殴ろうとした時だ。

破壊された時はまだ血は結晶として存在していたために、殴ろうとすると同時に結晶も殴り飛ばしていた。

だから後ろに下がっても結晶は飛んでいくことで人形に当たり、同時に液体に戻すことで付着が可能だった。


「まずは一体、破壊させてもらうぞ」


大悪魔はにやりと笑って呟くと、手ぶらの人形の腕に付着していた血は形状を変えて刺となり関節部分の動きを鈍くさせる。

所詮は操り人形。

万全な状態の操作なら何ともないが、動きに支障が出始めたら操作者の感覚は狂ってしまう。

つまりは一部分でも関節部を壊してしまえば、その人形の動きが全て異常となり極端に鈍くなる。

大悪魔は血で受け止めた鉄の輪を二つを掴みとり、動きが鈍くなってしまった人形へと鉄の輪を二つとも投げ飛ばした。


「返すぞ、受け止めれるものならな。できないだろうが」


大悪魔が言うとおり、血が付着した人形に鉄の輪を受け止めることはできない。

思うどおりに人形の片腕が動かないために、一つの鉄の輪を受け止めることができても、もう一つの鉄の輪で首がはねられることになる。

すると更に首がなくなった人形は動きがおかしくなりだして、もうまともに動けるようには思えない。

あまりにも脆い。

この人形の操作者である金髪の少年のアルコルはすぐに人形の頭がはねられたことに糸の振動と感覚で気づき、憎しみを込めたように目を細めて舌打ちをした。


「ちっ!あの生意気な魔物、僕の人形を壊しやがった。一つの人形を作るのにどれだけ手間がいると思ってるんだ!本当にムカつくよ。僕の人形と同じ目に合わせてやる!」


アルコルの怒りに気づいた金髪の少女のミザルは弓を下げて、アルコルの頭を撫でる。

そうするとアルコルは怒りの表情から、少し顔を赤らめながら驚く表情と変わるのだった。


「アルコル冷静に!ね?今度はあたしも人形作り手伝うから!でも、ちょっと壊されるの早いね!どうしようか!」


アルコルは元気に話すミザルの小さな手を頭から払い除けて立ち上がり、木々の先の遥か遠くにいる大悪魔の方向を見つめながら喋る。


「僕自身が行く。やっぱり目が使える距離じゃないとダメだ。糸から伝わる振動だけだと、罠みたいに静止したものへの反応は遅れるから」


「接近して大丈夫?相手、かなり身体能力に自信ありそうだよ?」


「ミザルお姉ちゃんがちゃんと援護してくれるなら大丈夫だよ。僕たち二人がいれば倒せない敵なんていない」


そのアルコルの言葉にミザルは幼さが残る笑顔を浮かべて、弓を手にしたまま大きく両腕を上げる。

精一杯の喜びの表現らしい。


「おー!今日はお姉ちゃん日和だねぇ!もう今日だけでお姉ちゃん呼ばわりは二回目だよ!これは絶対にうまくいく前兆だね!えへへ、お姉ちゃん張り切っちゃうよー!」


「うん、信頼してる。じゃあ、行くから。いつもどおり直感で」


そう言ってアルコルは足踏みをしてから跳びだして行き、木々の上を駆けていった。

駆ける姿は年も半端な少年とは到底思えないもので、熟練された兵らしいものだった。

速さはルナに劣れど、身のこなしそのものはルナと大差ない。

しかし距離があるせいか、大悪魔に向かっている途中で猿型の魔物が二匹だけアルコルに襲いかかってきた。

力は猿型の魔物の方が上だろうが、アルコルには関係ない。

アルコルは武器すら手にせずに素手のままで、襲ってきた猿の一匹の腕を掴む。

もちろん猿型の魔物は抵抗しようとするが力が入りきらず、体が思うどおりに動かせていなかった。

これは神経の条件反射を利用したものだ。

説明するならば腕を下げようと頭では思っているはずなのに、外部からの刺激により肉体が腕を無意識的にあげてしまうというもの。

この現象と同じで猿型の魔物は拘束を解こうと動くが、動けずにいた。

武術の一種の技だ。


それでもこれはせいぜい数秒しか効果がない。

だからすぐに猿型の魔物の拘束は解けるはずだったが、戦闘中の数秒の隙は致命的な時間で充分に命を落とせる。

その数秒の隙の間に遠くから一本の矢が直線に飛んできて、拘束していた猿型の魔物の頭を貫いた。

更にもう一匹の猿型の魔物が襲ってきたが、アルコルは素早く飛んできた矢を引き抜いてもう一匹の猿型の魔物の胸を矢で差し貫いた。

そして刺した猿型の魔物の顔を殴り飛ばし、その衝撃を利用して矢を抜きとる。

更に殴った猿型の魔物へと抜いた矢を投げ飛ばすと、矢は喉を刺し貫いて魔物を強制的に沈黙させる。

そのことを確認したアルコルはすぐに走り出した。


今の矢を撃ったのはミザルだが、これは見えたから撃ったわけではない。

何となくアルコルが撃って欲しいと思っただろうから撃った、その程度の認識だ。

しかし今の射撃は完全にアルコルの望む通りのもので、文句のつけようのない物だった。

これがアルコルとミザルの双子の共有感覚とも言うべき直感と思考力。

この二人にはこのコンビネーションがあるから、倒せない敵はいないとアルコルが豪語したのだ。


アルコルは大悪魔が投げた鉄の輪を途中で受け止めて、すぐにその大悪魔の姿も視認した。

同時に大悪魔もアルコルの存在に音で気づき、視認する。

互いは初対面だが、お互い共にすぐにさっきまで戦っていた奴はこいつだと理解する。

だから余計な言葉など発することもなく、殺気を漏らしあって構え合う。

その大悪魔とアルコルの両者の表情は殺してやろうとする殺意のある顔であると同時に、楽しそうな表情でもあった。

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