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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第二章・侵攻、そして防衛
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北の魔城に迫る者達

北の魔城周辺の警備は猿型の魔物がしている。

それは森や山が多く寒い北の地では、その種類の魔物が適しているからだ。

それに猿型の魔物達は人間と比べてずっと力も強く俊敏な上に軽快で、大きいタイプとなれば豪腕な腕であっという間に人間をねじ伏せる。

もちろんそれは相手がただの兵士だったらの話ではあるのだが。

群青色のマントとフード、丈夫なブーツを身につけた二人の人間が猿型の魔物以上の軽快さで森の中の地面を駆け走っていた。

その二人が向かって先とは、明らかに北の魔城の場所。

二人共フードを深く被り、マスクもつけているために顔は完全に見えない。

だが容姿を隠して人間離れの動きをしてようと、猿型の魔物達は気配で人間だとすぐに気づく。

そして仲間達を呼ぶ声をあげて、数匹が先行して二人の人間に向かっていった。

すると群青色の衣を纏う人間二人共、マントの下から鉄の輪を片手に一つずつ、計四つの鉄の輪を取り出した。


「キキキキィキィイイイィー!」


猿型の魔物たちはそんな取り出した道具など気にせずに、手に槍やら斧やらと凶器を手にして真正面から攻めていく。

まず攻めてきたのは合計五匹の猿型の魔物。

一匹が様子見として木から飛び降りて、槍を振り回しながら二人に襲う。

だから二人は互いに離れながら飛び上がって、木へと移動して避ける動きを見せた。

それだけなのに、最初に襲いかかった一匹の体が細切れとなり、原型を無くして血まみれで地面へと崩れる。

あまりの出来事に他の猿型の魔物は何が起きたか理解できなかった。

それは躊躇いと戸惑いを生み、すぐに行動できる状態ではなくなるということ。

だから魔物はこの二人の動きを眼で追うばかりで、次への行動が遅れてしまう。

そして二人が木々の上を跳んで回っていくと、次々と猿型の魔物を細切れの肉片とされていく。

しかもそれはどれも接近せずにやっていくので、猿型の魔物はどう対処すればいいのか分からなくなる。

二匹ほどは抵抗しようと武器で攻撃する動作をしてみせたが、その時には腕はなくて武器を振ることすらできない。

そのまま、ほぼ無抵抗の状態で五匹の猿型の魔物が瞬時で死に至る。


あまりの早業。

それでも次々と猿型の魔物は集まってきていて、魔物の数が増えていく。

なのに二人は視線をろくに動かしもせずに動き出して、全員の位置を把握しているかのように赤くなった鉄の輪を猿型の魔物へと投げ飛ばした。

投げられた鉄の輪は木の枝すらへし折っていき、先にある猿型の魔物の体を通り抜けていった。

そして通り抜けられた猿型の魔物が動こうとすれば体がズレていき、やがて肉片として地面へと落ちる。

更に投げられた鉄の輪を、もう一人の人間が受け取ってすぐに投げ返していた。

これにより鉄の輪による攻撃の速力と軌道の変化を生み出しやすくなり、猿型の魔物には一筋縄で対処できないものとしている。

だが片方の人間が木々を移動している途中、何か細いワイヤーに足を引っ掛けてしまう。

すると引っ張られたワイヤーの動きに合わせて爆破の札が着いたナイフがどこからか投げられたように飛んでいき、足を引っ掛けた人間へと向かっていく。

そのことに気づいたのかは不明だが人間は木からすぐさまに飛び降りた所で、爆破の式術が発動して頭の近くで爆発する。

躱したことで爆破の直撃はないが、爆風でフードが煽られて外れてしまった。

それにより一人の表情が見える事となるのだが、猿型の魔物達はその顔を見て驚いた。

口の付近にマスクだけではなく、両目にもマスクをつけていたのだ。

これでは完全に見えないはずなのだが、猿型の魔物が驚いたのはそんなことではない。

よく見れば顔の皮膚には樹脂のような光沢があって、とても生き物には見えなかった。

そう、人形だ。

この二人は人間ではなく人形だったのだ。


人形のフードが取れたことに気づいたようで、遥か遠くにいたもう一人の群青色のマントとフードをつけた少年らしき男の子がクスッと笑った。

その男の子はとても小柄で、綺麗な金髪に青い瞳をしている。

そして手には仕掛けが施されている変わった手袋をつけていて、指先をさっきから動かしていた。


「あーあ、僕の人形の顔…まだできてないのに見られちゃった。雷帝と戦った時に壊されてからまだ未完成だったてのに。まぁ……、相手が死ねば関係ないんだけどね!魔物が罠なんて生意気なんだよォ!」


男の子は口元が裂けているのではと思うほどに引きつらせた笑顔を見せて、手を大きく動かした。

するとその手と指の動きに合わせて二人の人形達は高速で動き出して、さっき以上の速さで猿型の魔物を翻弄して鉄の輪で引き裂いていく。

まるでかまいたちのようだ。

防ぎようのない切り裂きに猿型の魔物には打つ手がなかった。


しかしさっきの式術の爆発が出した結果は、何もフードを煽っただけではない。

その爆発の微かな音の響きを北の魔城にいた鷲の側近は聞き取っていた。

魔王の執務室にいた鷲の側近は手に持っていた資料と報告書を机に置き、すぐに歩き出して執務室から出た。

罠を仕掛けたのは鷲の側近であり、南の戦闘開戦日のせいでもあって誤作動ではないと確信する。

つまりは敵が来たのだと。


「魔王様の留守の間は守らせて貰いますよ。この側近が必ず」


鷲の側近は呟いて自らの意思の強さと決意を固めて、まずは大悪魔の自室へと向かう。

北の魔城の周りを警備をしている猿型の魔物は優秀であると理解しているが、わざわざこの魔王の本城に攻めて来るということは敵もただの兵士でないということだ。

だから今、この北の魔城に現存する最強の魔兵である大悪魔の力をすぐに借りなければいけない。

普通の兵じゃないとしてシャルもいるが…、まだ使えたものではないのが悔やまれる。

鷲の側近は大悪魔の自室の前に立ち、急ぎの用ということもあって扉を強くノックする。

すると扉の先から、大悪魔の低い声が返ってくる。


「む、側近か?我に何のようだ。入れ」


「失礼します」


断りを入れてから鷲の側近が大悪魔の部屋に入ると、そこには大悪魔だけではなくちょうどシャルの姿もあった。

付加魔法の特訓でもしていたのか、どちらにしろ手間が省けて好都合だ。


「あ、側近さん……どうかしましたか…?」


「シャルさん、大悪魔様、敵襲です。大悪魔様はすぐさま迎え撃ってください」


「ほう、魔王が留守だと知って攻めてきたのか。それともいようがいなかろうが関係なく来たか。どちらにしろ我がいる限り返り討ちだがな。わかった、すぐに出よう。どこだ?」


「魔城の正面から出ての森です。今は部下の魔物たちが戦闘しているのですぐ分かります」


「了解した。任せてもらおう」


大悪魔はすぐに行こうと、自室から出ようとする。

しかしその後ろにシャルもついて行こうとするものだから、慌てて鷲の側近はシャルの肩を掴んで止めた。


「シャルさんは待機していて下さい。あなたはまだ戦えるレベルではありません。非情なことを口にしますが、今出ても大悪魔様の足でまといです」


「でも……、私……付加魔法使え…。う、うん…わかった。魔王にも、出たらダメだって言われてから……大人しくしてる…」


「お願いします。何かあれば私から命令を出しますので、それまで自室に篭っていてください。大丈夫ですね?」


「……うん」


鷲の側近の念押しの言葉に、シャルは青い瞳の視線を鷲の側近から逸らしながら頷いて返事した。

ここは魔王の命令もあって大人しくしないといけない。

それでも、この大切となった場所が攻められていると知ったシャルには妙な不安感があった。

そしてその不安感は、これからのシャルの行動に影響を与えるのだった。

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