違和感
南の地で炎帝が出陣している戦場にて。
炎帝は妙な気配を感じ取っていた。
それは星の騎士団が出てくるとか、人間に秘密兵器があるという気配や違和感ではない。
相手が完全に防備に徹していて、なかなか討って出ようとしてこないのだ。
まともに攻撃らしいことをしてきたのは最初の騎馬隊だけだ。
後は砦や拠点に篭るなど、大きな動きはない。
それはおかしな話だった。
「妙だな。なぜこうも攻めの手が緩い?元は人間が攻めてくるはずではなかったのか?」
炎帝の思わず呟いてしまう言葉は、まさに違和感を覚える原因だった。
南の戦闘は人間が仕掛けてくるという情報があったから、こちらもそれに対抗しようとしたものだ。
いくらこちらが入念に準備や仕掛けをしたとはいえ、人間軍に動きが無さ過ぎる。
まるで魔王軍が人間軍をサンドバッグにしていて、一方的にも程があるのだ。
攻撃はしてくるが奪還はしてこない。
何か……狙っているようにも思えた。
これは魔人の策を聞いてから、何かと人間の動きにも意味があるものだと知ったからこその違和感だった。
炎帝は雨が降ってきていたので、通常の火力を出すには余計に体力を使ってしまうため奪取した砦で待機する。
そして魔王へ戦況の進行具合と状態の報告を鳥族に任せて飛ばし、数時間の間は休戦することにした。
休戦とは言っても炎帝が率いる部隊だけで、他の部隊はまだ戦闘をしている。
すぐに動けるようにと炎帝は食事をした後は、違和感のことを考えながら大人しく仮眠を取るのだった。
時を同じくして、中央地のサキュバスと雷帝がいる場所でも違和感はあった。
それは炎帝と似た違和感の覚え方だ。
サキュバスは食パンを一斤丸ごとかじりながら、中央地の王国がある方向を支城の窓から見てぼやいた。
「ん~?どうも人間のアクションが弱いなぁ。てっきり南にいる魔王軍を挟み撃ちにすると思って対策してたのにぃ」
サキュバスは南が主戦場になると思っていたので、人間軍は中央地からも多くの戦力投入をして、南の魔王軍を挟み込む形で戦おうとしてくるだろうと考えていた。
実際、サキュバスが人間側ならそのような作戦を取るし、その方が効果的な攻撃だと睨んでいた。
そのための準備はしていたが、肝心の人間軍に全く動きが見られない。
動きがあったのはこの大規模戦闘の前日までだ。
まるで見せかけのようなフェイクで、南で動きがあると思わせていただけのように思えた。
でもそんな方法、無駄と浪費が多すぎて人間がとる手段とは考えれない。
「如何した?」
同じく食事として野菜を口にしていた馬の姿である雷帝はサキュバスの言葉に反応して、問う言葉をかけた。
それにサキュバスは食パンを丸呑みして、喉に通してから答えた。
「なんかぁ、人間の動きが無いんですよねぇ~。もっと、こう……大量に攻めて来たりと物量で押してくるのかと思ったんですけどぉ」
「妨害で遅延した可能性」
「うーん、そこまでこっちの妨害が効果あったとは思えないんだよねぇ。東の方の氷帝のおばさんは警備がいい加減過ぎて、ルートは確保できていたと思うしぃ。なんだかなぁ…」
サキュバスは人間の狙いを読むために別の手段を考え始める。
自分が人間側ならどうするか。
この基本思考が搦め手を確実なものとする。
南で戦うと言って、前ぶりだけして本番では動かない。
これはまるで詐欺のような手法だと、サキュバスは最初に思った。
典型的な騙しの方法でこちらの動きを意図的に誘導させるもの。
では、もし南の戦闘が狙いではなかったらと仮定したら何が狙いになるのか。
………そんなの決まっている。
戦いは常に総大将か本拠地を崩せば勝負を決する。
なら、人間は魔王軍の本拠地と呼べる北の魔城を攻めるしかない。
そこで出てくる疑問は北に対しても人間は動きがないことだ。
前々から入念に監視や調査はしていたけど、大きな戦力を動かしているような報告は無かった。
だとしたら南の戦闘は見せかけに過ぎないとは思えない。
何か……、人間に戦況をひっくり返す奥の手があるのか。
そんなの…………、あった。
「まさか、星の騎士団…!」
サキュバスは気づいて少し驚きの表情を見せた。
前々から北の魔城を攻めるつもりなら、魔王に対しての対策をしていてもおかしくはない。
だけど、今は魔王が北の魔城は不在でそれ以前の問題だ。
対策など不要で北の魔城を攻め落とせる。
それに星の騎士団程度の少数隊なら偵察の目も掻い潜れるし、変装で旅人にでもなれば報告に無くてもおかしくはない。
そもそも星の騎士団が中央地から南へと移動した様子はなかった。
まさかとは思うけど、ありえない方法ではない。
命令違反になるけど、念の為に対策は打っておかないといけない。
「雷帝様。多分中央地の人間はしばらくは動きませんから一緒に行きましょう」
サキュバスは真剣な表情で雷帝に言う。
それに雷帝はただならぬ雰囲気を感じ取って再び問う。
「どこに?」
「北の魔城にですぅ。雷帝様の速さなら間に合うでしょうから」
「……承知」
雷帝は特に理由を聞かずに、サキュバスの言うとおりに動き出して外に出る。
そしてサキュバスは他の魔物たちはにはこの中央地の支城の守りと待機を命令して、雷帝に乗り込んだ。
一応、特性の革を雷帝の背に掛けて電気を通しづらくしているがそれでも少し痺れる。
その痛みを我慢しながらサキュバスは雷帝に命令した。
「疲れない程度に全力で精一杯スピードを出して下さいね」
「了解、落ちぬように注意」
雷帝は体から電気を放電して、猛スピードで四本脚で駆け出した。
あまりの速さにサキュバスは振り落とされそうになりならがも雷帝にしがみつき、どこか焦燥する。
なにか今まで以上に嫌な予感がして、それが拭えずにいたのだった。




