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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第二章・侵攻、そして防衛
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勇者の死

「うおおおぉおおぉぉおぉおおおぉおぉぉ!」


雄叫びをあげながらアテナは魔剣を構え、ダークドラゴンへと走っていく。

声に気づいたのかは不明だが、ダークドラゴンは向かってくるアテナの方を向いては尻尾を振って攻撃してくる。

しかし尻尾の攻撃は地面を擦ってのものではなく、僅かに地面との間に隙間がある。

アテナはそのことに気づいてスライディングしながら尻尾の振り回しを避けつつも、魔剣を上に振って尻尾を斬りつけた。

すぐに立ち上がってアテナは再び走り出すが、次はダークドラゴンが腕をなぎ払うように横に振ってきた。

今度は避けようがない。

なら逆に、ダークドラゴンの力の強さを利用してやるだけだ。

アテナは突きの構えをして、ダークドラゴンの攻撃に合わせて手のひらに魔剣を刺してやった。

すると魔剣はダークドラゴンの手のひらを貫き、壁に刺さった釘のようになる。

だからアテナは魔剣と共に衝突することなく、ダークドラゴンの手のひらに持って行かれていく。

ダークドラゴンの赤い血が噴き出して、アテナの顔に飛び散ってきている。

それは確かな手応えとアテナは感じていて。闘志を更に燃え上がらせた。


ダークドラゴンは手のひらに刺さって付いている魔剣とアテナを共に潰してやろうと、手を振り上げて地面へと叩き潰そうとする。

しかしアテナは手を振り上げられた所でダークドラゴンの手のひらを蹴り押し、魔剣を抜いて落下した。

落下する地点はダークドラゴンの頭だ。


「くらえぇえええええええぇぇぇえぇ!」


アテナは叫びながら魔剣を地面にでも突き刺すように構えて、ダークドラゴンの顔を狙う。

そして叫びながら落下していくと、魔剣の刃が見事にダークドラゴンの片目に刺さって抉った。

同時に大量の血飛沫が噴きでて、魔剣もアテナの体も赤く染まる。

これはダークドラゴンにとってはさすがに激痛となったようで、悲鳴をあげて首を大きく振った。

それでも離してやるかとアテナは魔剣の剣先を動かしながら傷を広げていき、振りほどかれないように懸命に全身に力を込めた。

片目に魔剣を刺されて叫ぶダークドラゴン、赤く染まり決死の覚悟で戦うアテナ。

まるで英雄が巨大な敵と戦う光景を連想させられて、セイラは言葉を失う。


「わん。セイラ、いくぞ」


「え、あ…うん!」


いつの間にか移動してきていた天狼に声をかけられて、セイラは現実に引き戻された。

そしてセイラは天狼に跨り、ダークドラゴンへと駆けていく。

戦っているのはアテナ一人ではない。

今はルナがいないが、部隊で連携して戦うのが人間の強みなのだ。

セイラはナイフに札を巻きながら走る天狼に何本か咥えさせて、自分の手にもナイフを持つ。

天狼に咥えさせたのは全て爆破の式術だが、セイラの手元にあるナイフは少し違う。


「天狼、足場を作るから指示を」


「暴れるドラゴンにどうやって乗ってやろうかと思っていたところだ。高さは四メートル、距離は十メートル感覚で障壁を作ってくれればいい。あとはできるだけ接近できるように囲む形で頼む」


「了解」


セイラはタイミングを見計らってナイフを宙へ投げていく。

その投げられたナイフには札が巻かれていて、発生させる式術は障壁。

宙に発生させられていく障壁を足場にして、天狼は跳んで駆けていった。

その速さは驚異的なものだが、それはセイラのナイフの扱いとタイミングが完璧だからこそだ。

並大抵の人間には認識すら難しい速さをもつ天狼の上で、更にその速さに合わせて的確にナイフを投げては障壁を発生させているのだ。

少し前のセイラには不可能だったであろう芸当。

魔王に負けてからのセイラの訓練の賜物であった。


ダークドラゴンはアテナがどうしても離れないので混乱でもしているのか、焼けた翼を羽ばたかせて飛ぼうとしだす。

しかし飛ぶには遅すぎた。

すでに天狼とセイラはダークドラゴンの背の方にまで昇っており、そこで天狼は宙から飛び降りて咥えていたナイフ全てを背に刺してやる。


「天狼!翼の付け根まで移動して!」


天狼はセイラに言われた通りに、ダークドラゴンの片方の翼の付け根に駆ける。

そこでセイラは何十枚と爆破の札を括りつけた長い紐を取り出して、先端と後端にナイフをそれぞれ付けて投げた。

すると投げられたナイフはうまく翼の付け根の近く通っていき、ナイフの重さで紐が引っ張られていく。

これにより札が括りつけてあった紐はダークドラゴンの翼に絡みつき、避けることができない攻撃となる。

天狼はすぐにセイラを乗せたままダークドラゴンから飛び降りていくと同時に、ダークドラゴンの背に刺していたナイフが複数回に渡って爆発を起こした。

更に連鎖爆発を起こして翼の付け根に巻きつけていた紐の札も、爆破の式術を発生させる。

その爆発は今までに比較にならないほどに凄まじいもので、思わず耳を塞いで身を隠したくなる爆発音と熱気と衝撃が起こった。


「ギィイィィ゛ィィャギャギイイイィィギギギギギィ!」


ダークドラゴンの悲鳴も凄まじく、地面へとへばりつくように倒れてしまう。

しかしそれは仕方ないことだろう。

片方の翼は爆発により爆ぜてもげてしまい、激しい痛みと熱に襲われているはずだ。

気づけば雨が本格的に降り始めているが、それは身を冷やすためのものには到底ならない。

アテナは雨に濡れながらダークドラゴンが顔を地面に伏せたのに気づくと、魔剣を引き抜いて深く顔を切り裂いた。

だがダークドラゴンは決してこれ以上は怯みはせず、少ない力を振り絞って顔を振りアテナを落とした。

アテナは魔剣を抜いてしまったせいで振り落としに抵抗できるわけもなく、無防備な状態で一瞬だけ体を宙に浮かせた。


その一瞬が、アテナの命運を分けたと言っていいだろう。


すかさずダークドラゴンは口を開けて、無防備となっているアテナの体を噛み付いた。

それは鋭い歯がアテナの体の半分を抉り貫き、人間から出たとは思えないほどの血が大量に流れ溢れ出していた。

死んでしまうと思うほどの激痛がアテナの体中を巡る。


「あぁああぁぁぁぁあ゛ああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあああぁああああぁぁぁぁぁぁあっぁ゛ぁ゛ああぁ!!?」


それはどうしようもないほどの痛みで、アテナは絶叫する。

セイラも天狼もその悲鳴でアテナの状態に気づくが、視線を向けても赤く染まった腕しか見えない。

状況を理解するのに時間を要してしまうほどだ。

アテナはそれでも力を振り絞り、魔剣を振ってダークドラゴンの口を斬った。

これでダークドラゴンは痛みで口を開けて、血まみれのアテナを開放する。

さらにアテナは全力で魔剣を口の中へと投げ込み、内側から喉を貫いてみせた。

渾身とも言える一撃。

それでもダークドラゴンは力を振り絞って腕を振るい、アテナの体を吹き飛ばした。

開放されたことは幸運だっただろうが、追撃の攻撃はあまりにもアテナにとっては不幸だっただろう。

ダークドラゴンの爪がアテナの片目を潰し、すでにアテナの意識は完全に飛んでしまっていた。


「アテナ…!アテナァああぁあぁあぁ!」


セイラは叫んだ。

アテナはあまりにも遠くにふき飛ばされて、姿が見えない。

でもあれでは死んで……いや、瀕死なのは間違いない。

だからすぐに助けに行こうとしたが、ダークドラゴンの瀕死に駆けつけたのかワイバーンやタイガーの魔物が立ち塞がってきた。

セイラは大量のナイフを手に取り、大声で吠えた。


「邪魔だぁあぁぁ!どけぇええええぇ!」


セイラは全力で死に物狂いにナイフと式術を使って、一緒にいた天狼と共に魔物を蹴散らす。

その姿はまさに悲運の戦士そのものだった。


そしてアテナは……資源地の川で少しずつ流されていた。

雨のせいで水量が増していて、勢いも増している。

その流され出していくアテナの体を、誰かが引き上げた。

それはマントとフードを羽織り、赤黒く薄い刃の剣を持った人間、魔人だ。

魔人は、血だらけで片目にも体にも穴ができてしまっていたアテナの姿を見て、薄く笑った。


「いっひっひっひ、やれやれ…ダークドラゴンを倒すのは驚きましたがやっぱり凡人だなぁ。魔剣を使ってこのざまとは。まぁ勇者と言われているだけはありますさぁ」


魔人はレーヴァテインを手に取り、刃をアテナの首に向けた。


「放っておいても死ぬとは思いますけど、私が止め刺してあげた方が情けってもんかねぇ。それともすでに死んでるのかな?」


じっと魔人はアテナの様子を見る。

意識はない、呼吸もしていない、心臓は確かめるまでもなく止まっているだろう。

偽りの勇者もこれで終わりか。

そう思いながら魔人は少しだけ悲しそうな目をして、落ち着いた口調で呟いた。


「勇者ねぇ…。本当に人間の希望になれるのなら、賭けてあげてもいいかもしれませんさ」


魔人の持つをレーヴァテインは一瞬だけ赤く光るが、そのまま魔人は何もせずにレーヴァテインを腰へと差した。

そして小型のドラゴンにふらつきながらも乗り込み、空へと飛んでいく。

こうしてただ雨が降る中、呼吸もなく心臓も止まったアテナの体が川の近くに残された。

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