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呪われし魔王の安寧秩序  作者: 鳳仙花
第三章・安寧と秩序
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ルナはダブルセイバーの連結を外して二刀流の手斧に戻しては、その爆炎を冷静に見つめた。

団長の安否を心配をしていないわけではないが、これで団長だけが殺されてしまっていたら自分一人で戦うしかない。

だからそのためにも動揺しないようにと、最悪な場合を想定しながら油断をしなかった。


「……あれは」


ルナはある物が爆炎の中から飛んできたのを見て、言葉を漏らした。

飛んできたのはレーヴァテインで、その赤黒い刃がルナの目の前の地面へと突き刺さる。

炎を防ぐにはレーヴァテインが必要不可欠で、これがないと到底炎帝の火炎を耐えることはできない。

それがここへ飛んできたということは、団長は間違いなくと言っていいほどに焼かれて死んでいる可能性が高い。

続けて地響きを鳴らしては、獄炎から炎帝が飛び出してきた。

炎の息を吐き、溶岩のような血を大量に滴らせている。

それもそのはずで炎帝の体は縦に裂けるほどに大きな切り傷があって、生きてるのが不思議なほどに致命傷を負っていた。

それにも関わらず炎帝は大声で笑った。

何らかの境地に至った、本人以外には理解できない狂気の笑いだ。


「…あっはっはっはっはっは!全くもってお前たち化物はどうかしている!最期に真正面から俺とぶつかるとはな!本当に愚かな人間だ!あっはっはっあは!」


炎帝が声をあげて笑う度に、傷からは血が飛び散る。

なのに炎帝は笑い続けるのだから、すでに痛みは感じていないのかもしれない。

だとしても笑うのは異常だ。

頭がイカレてしまっている。


「何を笑っているの?まさか、私を殺せるつもりでいるのかしら?」


ルナは冷静に言っては、手斧を投げ捨てて目の前に刺さっているレーヴァテインを引き抜いた。

そしてレーヴァテインはルナのイメージに合わせてか、赤く輝いて形状を変える。

それはアテナに渡した魔剣の造形。

しかしその形になっているにも関わらず、レーヴァテインは輝きを止めない。

むしろより強く輝き、団長が使っている時には見られない現象を起こしていた。

ルナの何かに反応して、レーヴァテインは輝いているのだ。

でも何に反応して輝いているというのか。

それはルナ本人にしか分からない。

ただ、ルナの表情には出さないドス黒い心が、レーヴァテインにある作用を起こし始めていたのは確かだ。

ルナの言葉を聞いてか、炎帝は自分の体を炎に包ませながら吠えた。


「殺せるさ!お前を殺してやる!まさかお前こそ俺を殺せるつもりでいるのか!?笑わせる笑わせるぞ!思い上がりも(はなは)だしい!俺は炎帝!炎の獣精霊!獄炎を操る最も気高き存在!何よりも強く激しく、触れることすらできぬ崇められる者!最強にして最高の精霊!人間如きには殺せぬさ!人間など、火にくべられる薪同然よ!だから、俺を殺せるはずがないのだぁああああぁあぁ!」


炎帝は辺りを燃やし尽くしながら駆け出した。

ルナに一直線へと、殺意だけを想いにして襲いかかる。

それに対してルナはレーヴァテインを構えもせずに、剣先を炎帝のほうへ向けただけだ。

まるで隙だらけで、攻撃する動作には見えない。

それでもルナは焦らずに、淡々と言葉を口にするだけだった。


「炎帝、あなたは愚かよ。何も見えていない。目の前だけではなく自分の姿さえ、生きる意味も見いだせていない。だから勝てない。理由もなく、ただ戦うだけだから勝てない。少しは気づくといいわ。人間の方が強い理由を」


炎帝はルナに目掛けて突進してくる。

獰猛で速く、恐ろしい力ではある。

でもそれだけなのだ。

炎帝にはそれしかない。

ある意味戦闘においては純粋だから、炎帝はルナの言葉の意味に気づけないのだ。

炎帝がルナに向かって腕をふりあげた瞬間、ルナの姿は消えた。

炎帝の目の前にいる、はずだった。

気づけば炎帝の体を高く宙を舞っていて、真上にルナの姿がある。

気づかれぬ速さと力で打ち上げられたことに、炎帝は永遠に理解することはない。

なぜなら次にルナの発した言葉が、炎帝にとって最期に聞いた台詞になったからだ。


「さようなら、炎の獣精霊。月の型、月蝕(げっしょく)


ルナは無情なる刃を振るった。

何よりも素早く、何よりも鋭く、何よりも力強いルナの全力の斬撃が炎帝の身を切り崩した。

一瞬で振られた三十を裕に越える斬撃は完全に炎帝を切り裂いてから、ルナは地面に着地する。

同時に自らの炎で燃え尽きようとする炎帝の体が、ルナの後方の地面へと落下した。

ルナが振り向いた時には、すでにそこには火しか残っていない。

ただの残り火で、炎帝の姿は消滅しているに等しかった。


「………くっ、…はぁはぁはぁ…!」


炎帝が燃え尽きたのを視認すると、ルナは息を切らして地面にしゃがみこんでしまう。

元より月蝕という技はルナにとっては負担の大きい技だが、今の疲労はそれだけではない。

レーヴァテインの力のせいだ。

技を放ち終わったときには、すでにレーヴァテインは輝きを無くしていた。

そしてルナはレーヴァテインを見ながら息を荒くしては呟いた。


「…このレーヴァテインの呪いの力を体に借すってのは相当無茶があったみたいね。おかげで……、しばらく動ける気がしないわ…」


ルナはそのまま視界を霞めていると、レーヴァテインを誰かに取り上げられる。

魔物かと思い、ルナは反射的に腕を動かしてはその相手に手刀をしようとした。

しかし簡単に腕を掴み止められては、レーヴァテインを奪った相手は軽薄に笑った。


「いっひっひっひ、ひとまずはお疲れ様。ルナちゃん」


声だけで分かるが、本人だとは信じられずルナは驚きながらも顔をあげて相手の顔を見た。

するとやはり独特な笑い声をあげたのは団長で、無事に生きてる様子だった。

でも団長の片腕は焼け(ただ)れていて、全くの無事とは言い難い。


「団長…、生きていたんですか」


「その言葉、南の地での戦闘でも一度聞いたさ。なんて、今は茶化すことじゃないか。なに大したことじゃないよ。爆炎に飲まれる寸前に、爆風で体が吹き飛ばされただけさ。それにしても随分と無謀なことをしたもんだ。こんな使い方、人間が概念に触れると同じさ。ルナじゃなかったら死んでるよ」


「数秒でこれなら、あともう数秒発動していたら私でも死んでいましたよ…。私らしくもなく、少し感情的になってしまいました。それより転移できますか?このままでは他の兵士の邪魔になります」


「真面目なことだ。とりあえず、これで目的達成ではあるから、休憩を貰っても文句はないだろうさ。アテナ達のことも気になるが、空家へ一度転移しようか。まだ数十分しか経ってないけど、王様の安否も気になる」


そう言って団長はこの場所の戦闘を後にして、空家の前へと転移する。

すると転移し終えた団長とルナは、王様がいるはずの家が激しい炎で燃え上がっているのを目撃してしまうことになる。

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