王様の行方
非常に最悪なできごとだ。
しかしルナと団長は至って冷静に燃え続ける家を見ては、状況に似合わずゆっくりと話した。
「ずいぶんと敵の動きが早いようださ。私たちが留守になるのを狙って動き、キングを取りにいくとはね。煙で合図なのが見抜かれていたのか、それとも情報そのものが漏れていたのか。どちらにしろ、ここからは知略戦になりそうだ。いや、知略というより、これは…」
「団長、悠長に話す余裕があるんですね。王様を助けに行かなくて大丈夫なんですか?」
「んー、大丈夫だとは思うけど、一応見には行っておくか。ルナはまだ動けないだろうから待っているといいさ。手斧は回収しておいたから渡しとくよ」
そう言って団長は座り込んだまま動けないでいるルナに手斧を放り投げた。
ルナは手斧を受け取るなり、すぐに投げるような構えを取る。
見渡しても敵の姿はない。
普通なら警戒か何かだとは思うが、それは団長にとってはルナとの意思疎通になる。
だから団長はルナの意思を読み取って、すぐにルナに背を向けて燃え上がる家へと歩き出した。
「じゃあ、私は行くからルナはのんびりとしてな。のんびりと、ね」
「えぇ、気をつけて」
団長が燃え上がる家の玄関に立つと、そこからは大量の煙が漏れ出していた。
火の熱さもあって普通では突入できそうにもない。
そのため団長はレーヴァテインを使って煙を遮断するようにした。
熱さについては痩せ我慢だけで耐えるしかない。
「うっへぇ、熱いなぁこれは。ほんと、これだけ熱い建物に入るなんて自殺行為もいい所だ。もう炎はこりごりさ」
愚痴りながらも団長は燃える家に入って、奥の居間へと足を運んだ。
視界が悪いし、炎で音がうるさい。
それに何より、嫌な気配がプンプンしている。
団長は炎の中を歩きながら王様を探しはするが、その王様の姿はどこにも見当たらない。
あるのは王様の護衛だった人間の兵士の死体だけだ。
「護衛はやられているのか。これはさすがに王様が少し心配だねぇ。…さて、どう来るやら」
団長がその言葉を発したとき、燃え上がる家の玄関は崩れ落ちた。
それは自然に崩れたのではなく、意図的に何者かが崩したのだ。
誰が崩したのかは姿を見るまでは分からないが、どこに所属する者が崩したのかは見るまでもなく分かる。
更に玄関が崩れた衝撃で火の粉が舞い、床に転がっていた兵士の体に隠すように貼られていた式術の札が着火した。
爆破の式術の発動だ。
怒涛の爆炎が家内を包もうとしてきて、咄嗟に団長はレーヴァテインを振りかざした。
そして外では団長が探索に入った家で爆発が起こると同時に、ルナは手斧を片方だけ投げ飛ばしていた。
飛んでいく手斧は、空家である家の屋根の上を通り過ぎようとする。
しかし手斧が屋根の上を通過した時に赤い血飛沫が飛び散っては、屋根から地面へと一つの死体が落下した。
落ちたのは蛇型の魔物だ。
その死体を見て、ルナは息を切らしながらも呟いた。
「こちらの様子をのぞき見していたようだけど、バレバレよ。それだと私を騙し抜くことなんてできないわ。それにしても、罠を仕掛けて待ち伏せとはずいぶんと手際がいいわね。まだ…、たくさんいるようだし」
蛇の魔物を仕留めると、それに気づいてか元からその作戦だったのかまでは不明だが、他の家からも多くの魔物が出てくる。
街は襲われるだろうと王子は予見していたので、この街の人たちはすでに他の場所へと避難は済んでいる。
だとしても、短時間でこうも占拠してしまうのは異常だ。
王様がいるということで、この街には市民がいなくてもある程度の人数の兵士はいた。
それを短時間でほとんど倒して制圧すると考えたら、相当の戦力がここに集められていることになる。
つまりは王様の場所が明確にバレていたという考え方ができる。
王様や王子、姫君でもいなければ戦力を一点に偏らせる理由がほとんどないからだ。
単純に人が住む街だから捕虜を多く捕らえるつもりだったとも考えられるが、すでに今はそのことを思考して費やす時間はない。
魔物達がルナの方へと走ってきている。
でも肝心の脚はまだ動かない。
戦うどころか逃げることもできない。
あと数秒で魔物が襲いかかってくるであろう距離になったとき、団長はルナの手を握った。
「また転移するぞ」
燃える家からの脱出も転移を使ったようで、すでに疲れきっていた顔の団長はまた転移を発動させた。
こうして魔物の集団から逃げて、東のどこかの湖の近くへとルナと団長は着地する。
そして着地すると団長はルナと同様に息を切らしては、額から汗を垂らした。
「いっひっひっひ、予想以上に敵が多かったさ。おかげでわざと死地に飛び込んだってのに目新しい情報はゼロだ。分かったのは、王様の護衛は何人かやられたってぐらいだねぇ」
「…今の私たちでは戦うことすらままなりませんからね。それより団長、大丈夫ですか?炎帝との戦闘から転移を連続で使っていますが…」
「あー体はまだ大丈夫。でもこれ以上の転移は無理だね。軽減してるとはいえ、元は一回でも転移したら死ぬ可能性があるほどの消費だからなぁ。これからどうすればいいやら」
「さっきの完全に待ち伏せされていましたね。どうも相手は一筋縄で行ける魔物じゃないみたいです」
ルナの言葉を聞きながら、団長は尻餅を着いてはレーヴァテインを鞘に納めた。
今いる場所の湖には敵の気配はない。
だから少し落ち着いて団長は話した。
「魔王軍に忍び込んでいるとき、だいたいの魔物の特性を把握していた。だけどこうも段取りよくしてきそうな配下の魔物は、私の知る限りでは二体くらいしかなかったよ。サキュバスってお嬢ちゃんと体の大きな鷲さ。それと他には魔王を除けば、王子が作戦を看破してきたと言っていた幹部の氷帝くらいだねぇ。多分、氷帝が何らかの方法で王様の場所を特定したんだろうさ。それですでに配置を済ましていて。いつでも攻撃できるようにしていたのか」
「何らかの方法って…団長らしくないずいぶんといい加減な言い草ですね」
「いやいや、予測は着いてるよ。魔物の偵察は基本的にずさんだから、ほぼ間違いなく魔物以外を使ったとは思うさ」
「魔物以外ってなんですか。もし市民をスパイ代わりにしても、人間軍に寝返られたらおしまいだと思いますけど…」
「なら市民以外をスパイに使ったんだろうさ。どういうツテなのかは皆目見当つかないけど、人間軍に寝返ったり助けを乞うことができないような、やましいことがある人間をスパイにね」
そう言っては、団長は軽薄に笑って立ち上がる。
休みたいのは山々なのだが、今はその時間がない。
いつどこで襲われるか分からない状況であるし、何より王様の足取りを掴まないといけない。
「ルナ、少しは歩けるかい?」
「もう、大丈夫です。走るのは無理そうですけど、行きましょうか。どこかの部隊と合流すれば情報も入るでしょうから。それにこれは大事な一戦です。少しの無理くらい何てことないですよ」
「さすが星の騎士最強の人間様だ。俺が死んだら、是非とも次の騎士団長をやってもらいたいねぇ」
「何言っているんですか。私にとっての騎士団長は団長だけですよ」
冗談を言い合ってはルナと団長は手持ちの武器をしまいこみ、辺りを警戒しながら他の部隊を探しに歩き出したのだった。




