第三話 世界の滅亡について何かご存知ですか?
「こ、これ校長先生が書いたんじゃないの?」
青蜜は声を振るわせて日記を指差す。
「俺も最初はそう思ったけど、校長はこの日記には指一本触れてなかった」
青蜜に日記を手渡したあとは、ずっと喚いてたからな。
「それにこのインク。 もう乾き切ってるし、少し掠れた跡もある。 今さっき書き足した文字じゃないと思う。 もちろん、青蜜さんが見落としてなかったらだけど」
俺は指でその文字を触る。
「私が見落とすわけないじゃない。 じゃあ、まどかちゃんその日記は本当に――」
「本物じゃよ」
背後から聞こえた低い声に、俺は驚いて振り返る。
ついさっきまで床で喚き散らしていた校長は両肘を机につきながら、俺たちに鋭い眼光を向けていた。
何でちょっと偉そうにしてんだ、この人。
……いや、まぁ実際には偉い方か。
校長は、そのまま小さくため息を漏らすと噛み締めるように続けた。
「これでわかって貰えたかのぅ。 その日記が本物であることを」
「そうね。 少なくとも普通じゃないのは確かね」
青蜜がゆっくりと校長室の扉を閉める。
「今はそれだけで十分じゃ」
そんな青蜜を見て、校長は何かを悟ったかのように声を出した。
「わしには、幼い頃より受け継がれてきたある預言があるのじゃ」
「預言ですか?」
「あぁ。 この日記の内容が現代に追いつけば……世界は滅亡するという預言じゃ」
俺の喉が静かに音を鳴らす。
「日記に文字が現れたのは、今から一年前のことじゃった。 あの日のことは今でも忘れもせん、この学園の入学式の日でな。 学園のグラウンドに桜の木が――」
「ちょっと、まさか今から回想とか始めないでしょうね? 私言ったわよね? 妄想には付き合わないって」
目の前の机を叩いて、青蜜が校長の言葉を遮る。
「……いや、じゃがな」
「じゃがな、じゃないのよ。 さっきからずっと同じこと繰り返してるだけじゃない。 御託はいいからさっさと用件を言いなさいよ」
「わ、わかったのじゃ」
鬼気迫る青蜜の声に、校長は観念したように肩を落とす。
まさか回想飛ばすとは、ちょっとおっさんが気の毒だな……いや、そんなこともないか。
「とにかく! わしが言いたいことは一つじゃ! お主たちにはどうにかしてこの日記を止めて欲しいのじゃ!」
「ど、どうにかですか?」
困り声で結衣ちゃんが返す。
「どうにかって言われても、流石の私でも困るわよ。 何かヒントとかないわけ?」
なんだかんだやる気はあるんだよな、青蜜。
もしかして意外にこういうの好きなのかな?
「な、ないのじゃ! わしだってこの一年遊んどったわけじゃない。 わかってるのはこの日記の更新が、毎月二十五日のお昼頃に行われることだけじゃ! それ以外は全く何もわからないのじゃ!」
「なるほどね。 だからこそ、この私を頼ったってわけね。 ふふっ、あなた意外に見る目あるじゃない」
おっさんの言葉に、青蜜はなぜだか機嫌よくそう答えた。
「その通りじゃ! これはお主らにしか頼めない最重要事項なのじゃ! 是非ともわしに協力して欲しい!」
そんな青蜜の姿を見て、おっさんはチャンスとばかりに頭を下げる。
「任せなさい。 実は私、少しだけ心当たりあるのよ。 そろそろゴールデンウィークだし、早速調査してくるわ。 大船に乗ったつもりで待ってなさい!」
青蜜はそう言い残すと、勢いよく校長室から飛び出して行った。
あいつ、滅亡を止める心当たりなんてあるの?
「わ、私も自分なりに調べてみますね。 行きましょう、まどかさん」
「え? あぁ、そうだね」
俺たちは互いに頷き、校長室から逃げるように出て行った。
クラスまでの通路を結衣ちゃんと歩く。
世界の滅亡かぁ……俺も聞き込みくらいはするか。
誰に?
……うん。 大船に乗ってるからな、青蜜。




