↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/6

第二話 星の日記


「め、滅亡って……一体どういう意味なのかしら?」


 校長に詰め寄りながら青蜜が話す。


「そのままの意味じゃな。 君たちには、是非とも世界の滅亡を阻止してほしいんじゃ」


 校長は真剣な眼差しで青蜜と向かい合う。


 この人、大丈夫か?

 

 いくら新入生を揶揄う目的だとしても、こんな小学生みたいなやり方しなくても。

 

 こんなの信じる奴いない――


「私は何をすればいいのかしら!」


 俺の思考を遮るように、青蜜の大きな声が校長室に響いた。


 ……青蜜?

 

「そうじゃな! 先ずはこれを見てくれ!」


 校長はそう言うと、手に持っていた古びた本を青蜜に手渡した。


「なによこれ? 日記かしら? これがどうかしたの?」


 パラパラと中身を捲りながら、青蜜は首を傾げる。


「ちょっと、まどかちゃん! 顔が近いわよ!」


「え? あっ、ごめん」


 気が付けば俺は青蜜が持っている本を覗き込んでいた。


 ……めっちゃ読みたい。


 いや、わかってるよ? 校長のおふざけなのはわかってるさ! でも、気になるんだもん!

 ちょっとくらい見たっていいじゃん!


「それにしても、ずいぶん昔の日記なのね。 しかも途中までだし、まどかちゃん黒船来航っていつだったかしら?」


「一八五三年、だったかな」

 

「流石の目の付けどころじゃな。 これはな、わしの一族に伝わる秘密の日記なのじゃ」


「で? これが何なのよ?」


 少しだけ苛ついた声で青蜜が校長を睨む。

 

「こほん。 それはな……この星の日記なのじゃよ」

 

「ほ、星の日記ですか? 何だかロマンチックな響きですね」


「あのね、あんまりぐだぐだと話してると私も怒るわよ?」


「ひっ」


 青蜜のドスの効いた声に、校長の顔から笑みが消える。


「わ、わかったのじゃ。 端的に言うぞ? 今見てもらった通り、その日記には今まで起きた歴史の出来事が書かれておるじゃろ?」


「ええ」


「それがこの時代まで追いつくと」


「追いつくと?」


 校長の言葉に、俺たちは息を合わせて声を漏らした。


「この世界が滅亡するのじゃ!」

 

 ……この人、これしか言わないな。


 

「つまり……一体どういう意味なのかしら?」


 数分前と全く同じセリフを青蜜が漏らす。


「いや、だからの? この日記こそが星の日記なのじゃよ」


 青蜜と校長が同じタイミングで首を傾げる。


 いや、青蜜はわかるけどなんで校長まで不思議そうな表情浮かべてるんだよ。


 どう考えても言葉足らずだろ。


 仕方ない、ここは俺が間に入るしかないな。


「あ、あの……お話中すみませんが、ちょっといいですか?」


 俺は頭を低く保ちながら二人の会話に混ざる。


「君は……誰じゃ? なんでこの部屋にいるんじゃ?」


 俺の顔を見ながら、校長はきょとんした表情を浮かべる。


「え? いや、校長先生に呼ばれたからですけど」


「わしが?」


「ええ」


「本当か?」


「はい」

 

 俺と校長の間に無言の時間が流れる。

 


 あれ? もしかして俺は呼ばれてない?

 

「ま、まどかさんは確かに呼ばれてましたよ! 私も聞いていたから間違いありません」

 

 その言葉に校長は目を丸くして俺を見つめる。


「……まどか? 月代まどか?」


「は、はい、そうですけど」


「今年の外部入試で成績トップだった、月代まどかちゃんか?」


「はい。 あっ、でも本名は月代円人――」


「うわぁー!」


 校長が急に頭を抱えて叫び出す。


 な、なに? 本当に何なの、この人。 めっちゃ怖いんだけど!


「き、急にどうしたのよ」


 膝から崩れ落ちる校長を見て、青蜜が心配そうに声を漏らす。


「だって、月代まどかじゃぞ? 普通女の子だと思うじゃろ! 黒髪ロングの清楚で冷静な女の子だって思うじゃろ!」


「別にそんなイメージないわよ」

 

「うぅ、男子生徒は全て落としたつもりじゃったのに……まさかこんなところに伏兵がおったとは」


 目に涙を溜めながら校長が項垂れる。


 ……ご、ごめんって。

 

 なんかこんなに落ち込まれると、男で悪かった気がしてくる。


 でも俺は自分の名前はちゃんと書いたはずだし、ミスしたのはそっち側の……ん? いや、待て。 今このおっさんなんて言った?

 

「す、すみません。 今、男子生徒を全員落としたって聞こえたような気がしたんですが」


「聞き間違いじゃないわい! そもそもわしは共学にはずっと反対の立場だったんじゃ! 占い師に今年こそはやれと言われたから、渋々、断腸の思いで表向きだけ共学にしただけじゃ!」


「えぇ……」


 校長の言葉に思わず一歩引いてしまった。


 じゃあ、俺が入学できたのはたまたま名前を間違えられただけってこと?

 

 ……全然特別じゃなかった。


「校長先生、それはちょっと……」


 いつもより半音低い声で結衣ちゃんが声を漏らす。


「い、いや、わしだって配慮はしてるぞ? 他の学校とは受験日は被らぬようにしておるし、パンフレットにもこの旨は記載しておったし!」


 まぁ確かに割と大きな字で、男子の受け入れは極小の可能性がありますとは書いてあったな。 


 でも、こんな威張って言うことか?


 アフロやリーゼントの彼だって俺と同じく真剣だったはずだ!

 くそ、何か一言でも言ってやりたい!


「最低ね」


 そ、そうだ! そうだ! 青蜜さん、もっと言ってやってください!


「か、勘違いするでないぞ! 別に不正をしたわけではない! そもそも学力的に合格ラインに届いてない者も多かったし、面接ではどいつもこいつも鼻の下を伸ばしておった! わしにはわかる! 絶対に不純な動機があったはずじゃ!」


 その言葉に俺の心臓の音が跳ね上がる。

 

 ……やばい、これは言い返せない。

 なんなら俺もその一人だし。

 

「何言ってるのよ。 合格ラインに届いていた人もいたんでしょ? それに男子中学生なんて大抵はそんなものじゃない」


「うっ」


 青蜜は声色一つ変えずに、おっさんにそう告げた。


「う、うわぁー! 別によいではないか! わしはこの学園の校長なんじゃー!」

 

 泣きじゃくりながら喚き散らすおっさんに、俺たちは同時に一歩後ずさる。

 

「……あー、そう言えば私、用事を思い出したわ。 そろそろお昼休みも終わるから戻らないと」


「わ、私もそろそろ教室に戻ります! まどかさんも行きましょう!」


 二人はそそくさとおっさんから離れて、ドアノブに手を掛ける。


「ど、どこ行くんじゃ! 青蜜殿! さっきはわしに協力してくれるって言ったではないか!」


「い、いや、あれは……その、言葉のあやって言うか」


 珍しく歯切れ悪く青蜜が答える。


「ゆ、結衣殿! 君の道場の師範は、わしの古い友人なんじゃ! だからわしに協力してくれ!」


「……わ、私には手に負えないかと」


 目を泳がせる結衣ちゃんを俺は初めて見た。


「ま、まどか殿!」


「ちょ、ちょっと! 離してください!」


 二人に断れたおっさんが、俺の片足に抱きつく。


「は、恥を承知で頼む! 本当はお主なんかに頼みたくはないが、もう他に居ないのじゃ! 頭は下げたくないが、協力はしてくれ!」


「全然頼んでないし、恥捨ててないじゃないですか!」


「そう言わずに! 何卒!」


 くそ、こうなったら無理矢理にでも振り解いて……いや、力つよ!

 全然足動かないんだけど!


 ちょ、誰か助け――

 

「いい加減にしなさい!」


 おっさんの泣き言を一喝するように、青蜜は今日一番の大声を上げた。


「あなたね、少しは周りの迷惑を考えなさいよ! まどかちゃんが困ってるじゃない!」


「で、でも——」


「でも、じゃないわ! いい? これ以上、あなたの妄想に付き合ってる暇はないの! それにさっきの話は何よ! 共学にしておいて男子生徒を全員落としたですって? それが大人のすることなの?」


「……いや、じゃから最初から」


「言い訳ばっかするんじゃないわよ!」


「ひっ! す、すみませんでした」


 青蜜のあまりの剣幕に、おっさんは深く頭を下げた。


「頭を下げる方向が違うわよ。 私じゃなく、まどかちゃんに謝りなさい。 あなたのせいで、居心地の悪い学園生活になっちゃったんだから!」


 ……青蜜。

 

「ぐぬぬ」


 なんでそんなに嫌そうなんだよ。


「やれ」


「はい、すみませんでした」


 青蜜のその言葉に、おっさんは悔しそうに俺に頭を下げた。


「よくできました」


 ふいに、青蜜と目が合う。


 右目を軽く瞑り俺にウィンクを飛ばす。


 ……青蜜のファンクラブって、どうやって入るんだろう。


「じゃあ戻るわよ、二人とも」


「は、はい!」


 青蜜は再び、ドアノブに手を掛けた。


 俺はその後ろに続く。


 このおっさん、本当になんだったんだろうな。


 扉が少し開くと同時に、俺はおっさんの方を振り返る。


 泣き疲れた目の下には、少しだけ隈が見えた。


 ……本当にただのおかしい人ってだけなのかな?


「青蜜さん、結衣ちゃん」


「どうかしたの? まどかちゃん?」


「あの日記、もう一回読んでもいいかな?」


 俺は床に置いてあった日記を指差してそう言った。


「まどかちゃん……そうね、あなたはあまり見てなかったものね」


 青蜜がため息混じりの声を漏らす。


「ありがとう」


 俺は床から日記を拾って、ページを捲る。

 

「……青蜜さんが読んだ時は、日記はどこで終わってたんだ?」


 

「黒船来航ね」


「そうか。 じゃあ、このページはなんだ?」


 俺は青蜜たちに開いたページを見せる。


「っ――」


 結衣ちゃんは驚いたように目を見開き、口元に手を置く。


「ま、まどかちゃん……これって」


「あぁ、間違いない。 日記が進んでいる」


 俺が開いたページには、一言だけこう書いてあった。


 徳川慶喜、大政を奉還する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。