引き金を引け!
化け物に対して引き金を引いた俺は、動悸が止まらなくなってしまった。
なぜなら、生まれてきてから今日にいたるまで。
俺は銃を触ったことも、引き金を引いたこともないからである。
そんな少年にかかってきたものは、銃を撃った後に広がる白い煙と、たばこのような火薬のにおい。
そして、肩にいじめっ子が殴ってきたあの時と同じ痛みが、ジンジンと伝わる。
どっしりとした重みのあるmp153を右手で持っている少年は、周囲の目が気になり始めた。
周囲は時が止まったような状態で、人間の姿は見当たらない。
曇天の空で、遠くから聞こえるのは――
民間警備自治組織「セーフティー」の、青白く光るダサいライトをつけたパトカーらしきものである。
ピーポーピーポーと、あの時以来のサイレンを噛み締めながら、少年は思った。
(捕まることだけは、避けなければいけない――)
デブった身体を必死に動かし、まるで豚のようなドスドスという足音を、コンクリートのひび割れた道路の上に響かせながら、彼は走り出した。
ヒイヒイという、恥さらしの息子にふさわしい呼吸音をたてながら、走り続けている。
「なんで、化け物みてえなクソを倒したくらいで終われないといけないんだよって……」
「……銃声をたてたから、か」
ぼそぼそと元気がなくなった声を上げながら。
ヒイヒイという呼吸音が、苦しそうなゼイゼイという呼吸音に変化するほど走りながらも、相変わらず逃げ続ける。
セーフティーのパトカーらしきものは、どんどん遠くまで広がる。
曇天色の空の向こう側へと、消えてゆきそうな感じだ。
ピーポーピーポーという緊張感を高めるいやらしいサイレンはどんどんと遠くに響く。
青白いパトランプは遠くへ移り、ついには見えなくなってしまった。
少年は少し元気が戻り、にかっとした表情で少しずつ走る速度を緩める。
これ以上走ると肉体がビーフジャーキーを引っ張った時にようにホロホロとさけてしまいそうだからだ。
少しずつ走る速度を緩めるが、それと同時に徐々に学校であった嫌なことを思い出してしまう。
「お前は何でまともに座れないんだ!」
学年主任のやくざみたいな風貌である、時岡が周囲に聞こえる声で喚き散らす。
少年はいつものことだ。すぐ終わると思い、黙って時岡の不細工なやくざみたいな風貌の日焼けした顔をじーっと見つめる。
周囲の人間は少年に対して「目を付けられてしまってかわいそう」「馬鹿なお前にはお似合いさ」
という視線を容赦なく一人の少年に送り込む。
少年は周囲の痛々しい視線を感じながらこの状況がさっさと終ることを願う。
だがそんな期待はやくざみたいな風貌の一言でかき消されてしまった。
「おい。放課後残れ」
少年は絶望し体育館の中に残らされた。




