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ヘレナとジュリアン

母のパーティーが終わってから数日。私の住まいである別邸は普段訪れる人など皆無に等しくとても静かな場所なのだが、先日のタートレイの御業を見てタートレイに興味を出した人達が会わせて欲しいとやって来たのだ。


「全く現金なヤツらですねー」


ため息混じりにタートレイが言う。それには私も同意だ。今までは興味なさげか見下したような態度を示してきたというのに、私の護衛騎士に価値を見出した途端に私の元にごまをすりに来た。

そんな現金な人たちとは面会する気が起きず、面会を断るようにリアムに対応をしてもらい、私とタートレイは奥の方へと引っ込むことにした。軽い話をしながら私は一呼吸を置き、意を決してタートレイにずっと思っていたことを聞く。


「⋯⋯⋯あなたって一体何者なの?」


部屋の中に沈黙が流れる。

タートレイの背後には父の影があったため、何か裏があると最初から思ってはいたし、彼の纏う不気味な雰囲気に気圧されたため、最初は警戒をしようと思っていた。深入りはしない方がいいと思っていた。

けれどタートレイは私に親身になって接してくれたし、彼が来てから私の生活は大きく様変わりした。今更彼を手放すなど考えられない。

しかもパーティーの時の父とタートレイの様子を見るとそこまで関係は深くなさそうに見えた。完全に私の味方につけることができればこれ以上に心強いものはない。

だから知りたい。タートレイのことを。

もっと。


「⋯知りたいんですか?」

「ええ、知りたいわあなたのこと。だから教えて」

「では教えてあげますよ俺のこと。でも誰にも聞かれたくない話です。ここだと先輩が戻ってくるかもしれないですし来客も多い。ですからここではない誰もいない場所でならお話します。誰もいない場所、ヘレナ様なら知ってますよね?」


そう問われ、別邸の外れにある朽ちたガゼボを思い出す。ジュリアンと過ごしたあの場所だ。

あそこには3年前のあの日から足を運んでいないが、あの時から誰もあそこに人が来ることなど滅多になかったから話をするにはうってつけの場所だろう。


「いいわ、行きましょう」


私たちは誰にも姿を見せないように人目を忍んで朽ちたガゼボへと向かった。




「どうして⋯」

「どうやら先客がいるようですね」


ガゼボが見えてきたと思ったのと同時にそこにはジュリアンの姿があった。このままではタートレイの話をすることはできないため踵を返し他のところへと行こうとしたのだが、後ろの方からジュリアンが迫ってきた。そのくせそっちが近づいてきたのに私を見下ろすだけで何も言わない。


「⋯どうしてここにいるの?」


ジュリアンはじっと私を見つめた後にタートレイの方へと目線を移した。一瞬眉を顰めたと思ったら再び私の方へと視線を戻す。


「あなたはまだここへと頻繁に足を運ぶのか?あなたをここで見ることは3年前からなかったと思うが」


ジュリアンは私の質問には答えず、逆に私に質問をしてきた。いつもなら質問をされたことに対して端的に答えるというのに。


「ここに来るのなんて3年振りのことよ。たまたまここに足を運んだだけ」


タートレイと話をしにきただなんて言えるわけはないと思い咄嗟に言い訳をする。それよりもジュリアンの先程の口ぶりだと私がここへ来なかった期間も彼はここに訪れていたと聞こえるがきっと私の勘違いだろう。


「なぜ急にここへと足を運ぶ気になったのか気になりますね。まさか、そこの護衛騎士と逢い引きでもしていたのか?」

「っ!?」


ジュリアンの言葉にカッとなり言い返そうとした時タートレイが間に入ってきた。


「ここでヘレナ様と一緒にいることは総隊長にとっては逢い引きであると感じるんですね。残念ながら逢い引きではありません。今別邸に多くの来客が来ておりましてあまりの騒々しさに誰もいない所へと行くことにしたのです」


タートレイは今作ったここへ来るための口実をつらつらと述べた。


「面会の要望などなかったはずだが?」

「おそらく他の用事でエルラメド家へやって来た人がそのまま別邸へと足を運んでいるのだと思います」


別邸への来客はジュリアンも承知の上なのだと思っていたがどうやら違ったらしい。ジュリアンは少し考え込むとタートレイの方へと向く。


「別邸への来客は先日の貴卿の行動に関するものだろう」

「おっしゃる通りです。ですからいつもヘレナ様にお供をしている先輩に来客の対応をお願いして私がヘレナ様のお供をしているのです」

「では貴卿はエイベル卿の元へと行き来客の許しはしていないと俺の名を使い伝えに行け。そして来客が全て去った後にここにヘレナ様を迎えに来い」


てっきり私もタートレイと共に戻るのだと思っていたので少し驚く。タートレイも私と同じことを思ったらしくどうして一緒に行かないのかとジュリアンに質問した。


「ヘレナ様は騒々しいからここへと来たのだろう。ならば別邸が静かになるまでここに居られればいい。それまで貴卿に代わり私がヘレナ様を護衛しよう」


そんなジュリアンの言い分に驚いているとタートレイは「総隊長が行った方がいいのでは?」と真っ当な質問をする。しかしジュリアンはその質問を黙殺し、観念したタートレイは仕方がなさそうに別邸へと向かうことにしたらしい。


「ヘレナ様、申し訳ありませんが先程の質問はまた今度に持ち越させてください。でも近いうちに分かると思います。あと⋯俺はあなたの味方です」


タートレイはコソッと耳打ちをしてきた。味方という言葉に素直に喜びを感じながら別邸へと向かうタートレイを見送った。



タートレイがいなくなりジュリアンと2人きりになってしまった。いつもならジュリアンと一緒になると胸が騒ぐか、ソフィアの顔がチラつき気分が悪くなっていたのだが今は不思議と心が凪いでいた。

ついに私もジュリアンへの想いに折り合いをつけることができ始めたのだろうか。

きっと昔はジュリアンしか心の支えがいなかったからここまで執着していたのだろう。だけど今はリアムとタートレイいう味方がいる。だからもうジュリアンを忘れられるはずだ。

そう思いながらガゼボから森を見ているとふとさき程の質問を答えてもらっていないと思い出し再度質問をする。


「さっき答えてもらえなかったからもう一度聞くけど、あなたはどうしてこんなとこにいたの?」

「ここへ来ることが日課になっていましたから。⋯俺も質問しても?」


なんだか最近はジュリアンに質問されることが多いような気がする。基本一問一答のような会話をする彼だが最近はよく喋る。


「ここへ来なくなったのは俺とソフィア様の婚約が決まったからか?」


この言葉にビクッと身体が跳ねる。どうやらその反応にジュリアンは気づいてしまったらしく続けて言葉をかけてくる。


「この婚約は政略てきたものです。本人たちの意志とは関係なく互いの家門の関係によって決まるものです。だから」

「だから仕方がないことだって言いたいんでしょう。ええ、知っているわこの婚約にどんな意義があるのかくらい」


ジュリアンとソフィアの婚約は父の正妻であったレアの遺言によって決まったものだが、レアが遺言を残さなかったとしてもきっと婚約をしていたはずだ。

ジュリアンの父とレアはいとこ同士という間柄であり繋がりが強かった。

そして私の父は不倫という愚行のせいで悪化してしまったヒューズ家との繋がりを再び強めたいと思った。だからジュリアンとソフィアの婚約は決まったのだ。


「だからあなた達の婚約が決まった時からここには来なくなったの。婚約者を持つ人に近づくなんて恥知らずなことはできないもの」


「母とは違って」と口には出さないがやはりそう思ってしまう。

ソフィアの幸せそうな姿を見ると腹立たしくて、絶望のどん底に落としてやりたいと何度も思った。私には無いものを沢山持っていて、多くの人から愛されている姿を見ると強い嫉妬を覚えた。私にとってたった一つの支えであったジュリアンだってソフィアのものだった。


何度もジュリアンにすがりつきたいと考えたけどその度に母を思い出してあんな風にはならないと己を叱咤した。


「だからこの状況も好ましくないと思っているの。あなたは皆からの評判がいいから何も言われないでしょうけど私は違うもの。私だっていつか政略結婚をするでしょうし、これ以上評判を落とすなんてごめんよ」


「そうですか」とか「わかりました」とかいつものようなぶっきらぼうな返答がくると思っていたがか返ってきたのは長い沈黙だった。どうしたのだろうとジュリアンの方へ向くとそこには表情が抜け落ちた顔のジュリアンがいた。

私は至極真っ当なことを言ったと思ったがなにが彼の機嫌を損ねたとのかと疑問に思う。


「結婚の話が出ているのですか?」


ジュリアンが低い声で尋ねてくる。どうやら私が結婚の話を出したから気になったようだった。


「まだ結婚の話はされていないけど、私だってこれでもエルラメド家の娘でいつかはエルラメド家のための結婚をするに決まってるでしょ?あなただってさっき政略結婚の意義をつらつらと話していたじゃない」


私がそう言い終えると再び沈黙が流れた。ジュリアンの顔色が悪くなっているように思えたが勘違いかもしれない。

気まずい雰囲気が流れている中その沈黙を破るヘラヘラとした声が聞こえてきた。


「ヘレナ様、お待たせしました」


「遅かったじゃない」とタートレイに声をかける。ようやく重苦しいなんとも言えない空気だったガゼボから出られると気分が明るくなる。


「すいません。来客にバレないように先輩を呼び出すのに思ったより手こずってしまって」


タートレイはそう言ってリアムを呼び出そうとした時に使ったジェスチャーや表情などを見せてきた。その姿が面白くて思わず笑みがこぼれる。


「総隊長、ヘレナ様のことありがとうございました」


タートレイはにこりとした顔をジュリアンに向ける。それに対してジュリアンはタートレイのことを睨みつけており、あまりの温度差に風邪をひきそうだなと思う。

ジュリアンは「当然のことをしたまで」と言い捨て足早に去っていった。


思えばここまで冷静にジュリアンと話すことができたのはそれこそジュリアンたちの婚約以来であるなと思い出す。胸の痛みはまだ完全に癒えてはいないが私も少しは大人になったなと思った。



✶ ✶ ✶



「おおーここまでの研究資料を生で見ると壮観だなー」


ここにある沢山の資料は外部から持ち込まれた研究内容の資料であるが、多くの研究対象たちの犠牲の元に成り立っているものに変わりはない。


ああ、ヘラヘラしてないとやってられない。


ここの研究部屋には認識阻害の魔法が何重にもかかっていたので見つけ出すのに時間がかかってしまった。この前クロエに接触することができ、さらには俺の魔力を込めた魔石をこの部屋で研究してくれたおかげで一発で目星をつけることができた。


「ええっーと、ここら辺かな」


実験部屋の奥まった部分に仕舞われた資料を引っ張り出す。そこには『魔力因子適合実験』についてのことが書かれていた。持ち出すことはできないため魔法道具に転写していく。

残念なことだが魔力因子適合実験とは色んなところで行われており、多くの被害者がいる。悲惨な様子を嫌という程見てきたが、その中でもクロエという女とは絶対に合わないと思った。彼女はこの件の大元であるにもかかわらず完全に安全な場所からただ見ているところが気に入らない。


実験資料を転写し終え元の場所へと完璧に戻す。そして次に気になっていた強い魔力を感じる場所へと足を運ぶとそこには濁った魔石がいくつもあった。


「魔石を人工的に琥珀色に染めようとした跡か」


しかし、強い魔力を秘めていることには変わりない。そしてそれが積み重なるほどある。


「これはちょっとまずいかもしれないなー」


強い魔力が込められた沢山の魔石、魔力因子適合実験で多大な魔力をその身に秘めることとなったヘレナ、それと俺⋯。

これじゃあ魔物をおびき寄せる格好の餌食じゃないか⋯。


面倒なことにならなければいいなとおもいながら実験部屋を後にしたのだった。


閲覧いただきありがとうございました。

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