ドレスと琥珀色
模擬戦の一件以来タートレイの周りに人が寄り付くようになった。どうやら当主の推薦という特別枠だったことといきなり料理を作るという破天荒な行動を取っていたため近寄り難かったのだろう。今では他の騎士達や使用人達と話す機会が多くなっているようだ。
「そういえば近々パーティーを行うそうですね」
タートレイの質問に気分が沈む。一週間後に母の誕生日パーティーを行う。そのパーテイーはそれはそれは豪華で寵愛の深さがわかるものになっている。
「そろそろパーティー用のドレスを決めないとね」
唯一母親に感謝している部分としては母親譲りの絶世の美貌で産み落としてくれたことだ。お陰でドレス選びが楽しいし、気合いが入る。
「衣装部屋に行くわよ。部屋の外で待ってて」
「分かりました」「はーい」
「⋯先輩、全然出てきませんけど」
「ヘレナ様のドレス選びは1回で4時間はかかるからあと1時間頑張れ」
「はーい」
ヘレナのドレス選びの長さにタートレイはさすがに痺れを切らし始ているとヘレナが二人を呼んできた。
「ドレスを選び終えたのですか?」
「まだよ、三着までは絞れたのだけど」
目の前に並べられた三着のドレス。一着目はワインレッドの宝石が散りばめられた豪華なドレス。二着目は空色のデコルテ部分が大胆に露出されたドレス。三着目は白い生地に金糸で刺繍を施された清楚なドレスで、魔石が散りばめられている。
「どれがいいかしら」
「どれもお似合いになると思いますよ」
リアムのぶっきらぼうな返答に不満を覚える。
「それだけ?」
「俺こういうの分かんないっていつも言ってますよね!?」
「ああ、そうだったわね」
リアムへ意見を聞くことは諦めて再びドレスの方へと目を移す。やっぱり一着目のドレスがいいかしら。こういう豪華なドレスが私のイメージ合うわよね。でももう18歳だし二着目の大人っぽい服の方がいいかしら。三着目は試着をしてみていいなと思ったけれど⋯。
「ヘレナ様には白いドレスが似合うと思います」
「⋯どうして?」
「ヘレナ様の金髪には白が映えると思いまして。金糸の刺繍も繊細で美しいですからきっとお似合いになりますよ」
この男は不思議だ。一緒にいる期間が短いにも関わらずどうして私の欲しい言葉をくれるのだろう。でも⋯。
「清楚なのって私のイメージじゃない、こういうのってソフィアとかの領域だもの」
ソフィアは私には無い正統な血を受け継いでいて誰からも愛されており、淑女に相応しい落ち着きと自制心を持っている。この服を着るということは確実に比較される。ただでさえ比較されながら今まで過ごしてきて息が詰まりそうだったのに。
「イメージなんて気にする必要なんてないですよー。着たいと思うなら着ればいんです。もし比較されるのが嫌だっていうなら清楚なドレスっていう印象を変えてしまえばいんです」
一体何を言っているのか分からず、私もリアムも訝しげにタートレイを見る。
「少し失礼しますよ」
タートレイはドレスに触れると魔石が琥珀色に染まりキラキラと輝きを放ち始めた。魔石の扱いは難しく、後から力を込めるとひび割れてしまったり、壊れてバラバラになってしまうため繊細な魔力操作が必要だというにも関わらずタートレイはやってのけた。
「どうです?これで清楚なドレスというよりは豪華なドレスっていう印象の方が強くなったでしょ?これで皆ヘレナ様に釘付けになりますよ」
タートレイの言い分に呆気にとられてしまう。だってこんなの⋯。
「これってドレスに使われる魔石の範疇を超えてるだろ」
「私もそう思うわ」
リアムは私が考えていたことを代弁してくれた。模擬戦の頃から薄々感じてはいたけれどタートレイは只者では無い。今更だがやっぱりこの男を警戒した方がいいのだろうか。でも今ままでのタートレイのことを思い出すとそんな思いも薄れていく。
「せっかくですから着てみてくださいよ」
タートレイに促されドレスの試着をしてみることにした。試着の手伝いをする侍女たちは先程の出来事を興奮しながら話してきた。いつもならうるさいと叱責するけれど今回は私も侍女達と同じ考えだったため共感しながら話を聞く。
ドレスの試着をして二人の前に戻ると、そこにはあまりの美しさに呆然としているリアムと満面の笑みのタートレイがいた。
「お似合いですよヘレナ様ー」
「本当に同じ人間とは思えないほどです」
二人の賛美に気分が良くなり思わず笑みがこぼれる。
「パーティーのドレスこれにするわ」
「「いいと思いますよ」」
無事にドレスを選び終わり上機嫌で部屋に戻る。
それにしても主人であるにもかかわらずタートレイに振り回されっぱなしな気がするが、不思議と悪い気はしなかった。
いつもは憂鬱に感じていた母のパーティーが今回は早く来て欲しいと思ったのは初めてのことだった。
✶ ✶ ✶
「ただじっとしてるのってしんどいなー。何かやってた方が性に合ってる」
そう言って伸びをしていると魔道具の通信機が反応を示した。周りに人の気配がないことを確認し通信に出る。
「どうしたんです?大将」
「さっさと今の進捗の報告をしろ。」
不機嫌そうな声が聞こえてきた。これはこの任務が終わったらこってりと絞られること間違いなしであろう。
「例の件に関しては順調に証拠は集まってます。あと件の子ですが、やはり星の子で間違いありません」
まあ元々見ればわかるのだが、ちゃんとした物的証拠がないと信用は得られない。何ともめんどくさい事だ。
「どうやって件の子が星の子であるという確認をとったんだ?」
「運が良かったんですよ。今日たまたま魔石があったのでそれに力を込めて琥珀色に染めました。でも蓋をしなかったので本来ならばすぐに輝きを失ってしまいますよね。でも俺の手から離れた魔石は輝きを失うことはありませんでした」
「琥珀色のままか」
魔石とは様々な色をしている。その中でも最上な色が琥珀色なのだ。琥珀色の魔石など滅多にお目にかかることができない。魔石が琥珀色に染まるまでには長い年月を要する。
琥珀色とはこの星のありのままの色、琥珀色の力を持つということは莫大な力を持つ証拠。そのような子を我々は星の子と呼んでいる。
「それほどの力を持った子を冷遇するなんて一体何を考えているんだか」
「身体の防衛反応で力が発現することはなかったのでしょう。あれは後天的に入れこまれた力ですから。ですが俺との接触で少し蓋が開きつつあります」
「⋯つまり魔力因子適合実験の被害者ということか。」
「はい」
本人も知らない力。まだ何も知らないまっさらな赤子の時に無理やり入れこまれた力。力が発現することがなかった失敗作と興味を持たれなくなった少女の映像が頭の中を駆け巡る。
どす黒いものが腹の底を這いずる感覚がする。
「なるほど、お前が直接協定の締結にエルラメド連盟へと赴いたのはこれが理由か。それで件の子をどうするつもりだ?」
「俺としては星の子と勘付かれる前に保護したいと思っています」
「分かった。こちらの方でも検討しておく」
そう言ってプツッと通信が切れる。これからも着々と計画を進めていかなければ。魔力因子適合実験にはヘレナの両親が関わっている。主に先導していたのはヘレナの母親であるクロエだ。今まで顔を合わせる機会なかったが、1週間後に誕生日パーティーがある。そこから情報を抜き出し、物的証拠をさらに集めよう。
弁解ができないように抜け目なく。
閲覧いただきありがとうございました。




