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初恋の終わり

「《光属性魔法、癒しの光(ルクス・サナティオ)》」

「ヘレナさんってやっぱり飲み込みが早いわね。素晴らしいわ」

「お褒めいただき光栄だわ、デイジーさん」


ユダとの訓練から1週間ほどたち、私は第2救護部隊で光属性魔法を教えてもらっていた。今は戦闘で怪我をした隊員たちを癒している真っ最中だ。右大将が率いる右軍は最近魔物討伐の仕事が増えたため、それに比例して怪我をする人も増えたのだ。あまり良くない思考だろうが、おかげで実践を積みぐんぐんと成長をすることができている。


「あ、ありがとうございました。ヘレナさん」

「次は俺、俺の治療をお願いしますヘレナちゃん」

「いや俺だぞ、俺が先にヘレナちゃんの治療のために待ってたんだからな! 」

「鼻の下伸ばしてんじゃないわよ!あんた達はこっち!」


そう言って不躾な怪我人をデイジーさんは引きずって行った。私自身、自分の容姿の良さを自覚しているためさっきの人たちが私を目当てにしているのが分かる。ああいう人達の相手をしながらの治療は骨が折れるから、ああやってデイジーが引っ張り出してくれるととてもありがたい。


「面倒をかけてごめんなさい」

「いいのいいの、あなたのせいじゃないんだから気にしないで。ったく、あいつらはヘレナがユダの婚約者だって知ってるはずなのに何考えてるんだか」


デイジーの言葉に苦笑いをしてその場をやり過ごす。一応私はユダの婚約者として連合に広く周知されているので分をわきまえた態度を取られるのだが、最近はユダと行動を共にしていないこともあって先程のように羽目を外した態度を取ってくる人が多くなってきた。


「ああ、今日こそユダとの恋バナ聞かせてよ」

「え、いやだから私たち全然そんなんじゃないですから」


この前ユダが手ずから魔法の指導をしたためにユダは私を掌中の珠のように大切にしているのだとデイジーから思われてしまった。ユダはどんなに有望な人材でも一度も指導をしたことが無かったらしく、ユダが私のことを特別な存在であると判断したらしい。確かにユダが私のことを特別扱いをしているのは事実だが、デイジーが想像するうな甘い関係ではない。むしろ私たちの関係は様々な陰謀が渦巻いた結果のものなので反応に困ってしまう。


「ユダのやつが部下達に仕事を振ったのはいいけど、その分、救護部隊の仕事が増えちゃったは予想外だったわ。ユダの仕事は減るからいいかなって思ったけどあいつ結局他の仕事し始めちゃうし」


そう、ユダは最近戦闘に出ることが少なくなった文デスクワークが多くなったのだが、最近さらに連合総議決という連合全体の方針を決める会議に向けて何かを用意しているらしく、家に帰ってくることが遅くなるのもしばしばだった。


「あいつが右大将になってから初めてのでっかい会議だから気合いが入ってるのね」

「どうしてあんなに気合いが入っているのかしら」

「右大将みたいな幹部の立場になって発言権が強くなったのも関係してるのかしらねえ。そういえばヘレナってエルラメド連盟の出身でしょ?連合総議決で知り合いと会えるかもね」

「えっああ、あはは。そうかもしれませんね」


そうか、連合総議決は併合または協定を結んだ組織の幹部も出席するのだった。そして、当然エルラメド連盟も参加するはずだ。確実にエルラメド連盟からは、お父様がを始めとした幹部たちが参加するに違いない。連合総会議がある日は連合には出向せずに家で大人しくしていようと心に決めた。

そのままデイジーと軽く雑談をしていると救護室の扉からノックの音がした。


「ヘレナ様、そろそろお時間です」


リアムが部屋に入ってきた。どうやらもう帰りの時間がきていたらしい。リアムはデイジーに軽く会釈をして私の方へ近づいてきた。


「今日もユダは居残り?」

「はい、先程第8部隊のキーツさんがユダの執務室に来て話すことがあるから先に帰れと言われました」


キーツってエブリンの部下だったかしら。第8部隊も最近戦闘に駆り出されるようになったからよく救護室のお世話になっている。特にエブリンはよく怪我をしている印象だ。他の部下も怪我をしたりしているのだが、キーツは一切怪我をしていないのよね。ユダにも目をかけられているようだし、もしかしたら相当曲者かもしれない。


「今日はもう遅いし、ユダなんて気にせず早く帰って体を休めなさいね」

「ええ、お疲れ様でした」


そう言って私たちは救護室を後にするのだった。


「ヘレナ様、今日もお疲れ様でした。最初の頃とは見違えるほど魔法の扱い方が上達しましたね」

「お陰様でね。あなたはどうなの?」


今リアムは私がデイジーの指導を受けている間にユダから《水属性魔法、蒼環反刃(そうわはんじん)》の習得のために指導を受けている。と言ってもユダは執務室での仕事の片手間で指導をしているらしい。最初に聞いた時は執務室大丈夫なの?と思ったけどユダが部屋に結界を張っているらしい。私の時もそうしてくれればよかったのにと思う。


「予想以上に難しいですね。《蒼環反刃》は防御魔法と攻撃魔法を同時に展開して組み合わせる必要があるのはもちろん、対人になれば当然柔軟な使い方をする必要がありますから今の調子だと全くダメですね」


どうやらリアムは相当苦戦しているようで少しムスッとした表情をしている。ユダの魔法の披露は連合内でも話題になり連合の隊員達もよく話していた。隊員達曰く、以前ユダが披露した魔法はとても複雑な術式が組み合わさったものらしく、習得が困難らしい。


「《蒼環反刃》は難しい技だと聞いたわ。焦らずにゆっくり習得していけばいいわよ」

「そうですね。焦らず着実にやっていきます」

「それがいいわ」


私たちはいつものようにゆるく会話をしながら帰路に着くのだった。



✶ ✶ ✶



今日は連合総決議が開催される日だ。エルラメド連盟から出席をするのは誰なのかユダに聞いてみるとお父様とお兄様、エルラメド連盟の幹部数名とジュリアンが来るらしい。メンバーを聞いて私は今日、絶対に家から出ないと強く決意した。

最近は光属性魔法の訓練に精を出していたので、久しぶりの休日に思う存分羽を伸ばした。夕方近くになったので、私は自分たちの食事を用意をすることにした。ユダ邸に来てから私達は料理を自分でするようになった。最初はユダに手ずから教えて貰っていた。当然私は料理なんてしたことがなかったので初めて作った料理はそれはそれはボロボロだった。しかし回数を重ねて不格好だった料理は改善されてきている⋯はず。


厨房にたち家にある食材を確認する。一緒に食卓を囲むようになって私たちの食の嗜好はバラバラだったということが分かった。私は比較的薄味が好きだが、リアムは濃い味のものが好き。ユダは甘いものが好き。私とユダは偏食気味だが、リアムは何でも食べれる。リアムはユダはお肉が好きだが、ユダは臭みの強いお肉は好まないなどなど。ユダとリアムは基本的に私の好みに合わせた食事をしてくれているため、今回は二人に合わせたものを作ろうと思い鶏肉の甘辛煮を作ることにした。

下ごしらえを終え、フライパンに油をひき鶏肉を焼く。両面が綺麗に焼けたのを確認して一度取りだす。調味料を合わせたタレを軽く煮立たせて再びフライパンに鶏肉を投入し、全体にタレが絡むように意識する。今回はリアムの手伝いがなかったため、いつも以上に慎重に料理をしたこともあってか、かなり出来が良いのではないだろうか。


メイン料理が完成したので保温しつつ、スープとパンを用意する。本当はメイン料理を作りつつスープを作れればいいのだが、慣れていないためマルチタスクがまだできない。こういう時に保温のための魔法道具は役に立つ。

スープが完成しそうという時に玄関先から物音がし始めた。おそらく二人が帰ってきたのだろう。私は急いで食卓に料理を並べて玄関で二人を出迎えようと足を運んだ。


「おかえりなさい、二人⋯とも⋯⋯」


目の前の光景に思わず目を擦ってもう一度目の前を確認する。いや、そんなわけない。なんでここにあんたが⋯。


「お久しぶりです。ヘレナ様」

「⋯ジュリアン」


混乱しながら私はユダのほうを向いて今の状況についての説明を求めた。するとユダはヘラヘラした態度で話し始めた。今はその態度が気に食わないと思いながらも大人しく聞く体勢に入った。


「総隊長殿がヘレナとの面会を頼んできたんだ。最初は断る方針だったが、今後総隊長殿が連合に顔を出す機会が増えることもあって君たちの再会が時間の問題であると判断した。だったら当然連合で会うよりも今会っておいた方がいいかと思って連れてきた」


この時ばかりはユダのことを心底恨めしいと思った。だってユダは《真理眼(しんりがん)》を持っているから私とジュリアンの関係性を知っているはずなのにと。私はジュリアンをよそ目にユダへと詰め寄るとユダはよっと詳しい経緯を話し始めた。

ユダ曰く、クロックタルリス連合とエルラメド連盟の守護師団の連携を取るためにエルラメド連盟側から誰かを選出することになり、それにジュリアンが選ばれたのだという。ジュリアンのような守護の要をエルラメド連盟から出していいのかと疑問に思ったが、お父様達は見栄を張りたがる人達だったと思い出した。私はエルラメド連盟から去って久しいためエルラメド連盟の内部については分からない部分も多いが、さしずめエルラメド連盟は強いアピールを併合された連盟にアピールしたいと考えたのだろう。それなら仕方がないのかと何とか自分の中で咀嚼して受け入れることにした。


「そう、分かったわ。ジュリアンが連合に訪れる頻度は分からないけど会う機会は増えるでしょうね。というか、そんなことよりもユダ、あなたねえ通信機があるんだから事前に言いなさいよ。突然過ぎて心臓に悪いわよ!」

「ああ、確かに。すまないなーヘレナ」


口では謝罪を述べるものの、全く反省してない態度のユダに私は次々に嫌味を言った。それもユダは意に返さないのでいたちごっこにしかならなかった。するとユダが急にリアムやジュリアンには聞こえない程度の声で私の耳元で話し始めた。


「ジュリアンが目の前にいるのに俺ばっかりに構ってていいのか?」


ユダの話に私はハッとした。今まではジュリアンのことを考えると感情を抑えるのに苦労してきた。ましてや目の前にジュリアンがいようものならどうしても存在を意識してしまい感情を抑えるなど到底できなかった。しかし今はジュリアンが目の前にいたのにも関わらず気にせずにユダの方へと向かっていった。最終確認として私はジュリアンの方を向いたけど、心は凪いでいる。その瞬間私は悟った。


"ああ、あんなにも切なく、永遠のように思った初恋が終わったんだ"


もうジュリアンを見ても苦しくない。連合という新天地で色んな経験を積んで、まるで生まれ変わったかのような気分だったけど、初恋が終わってようやく私の生まれ変わりが完了したように思った。


閲覧いただきありがとうございました。

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