琥珀色の魔力
世界樹信仰は最も古くから信仰されていると言われていて、世界中に浸透している。だけど、あまりにも古い信仰なので今では形骸化していて私も天界にあると言われる世界樹は生きとし生けるものの始まりの処であり終わりの処でもあるということしか知らない。
「その世界樹信仰が私となんの関係が?」
「世界樹っていうのは私たちが宿してる魔力の根源でもあるの。魔力の色は基本白で魔力をそれぞれの属性に変換させると色が着くの。でもあなたは魔力は琥珀色。琥珀っていうのは樹木が長い年月をかけて作り出す代物でしょ?つまり、琥珀色の魔力は世界樹の魔力を色濃く受け継いだ世界樹の化身とも言えるのよ!」
そうなんだ。でも私は魔力因子適合実験でこの力を手に入れたから純粋な琥珀色の魔力の持ち主ではない。だから信仰対象にされても困るし、私を信仰対象なんかにしたらクンツァイト連盟の沽券に関わるのでは?
「そ、そう⋯でも私最近魔力が発現したばかりだから急に信仰対象なんで言われても困るわ」
「最近発現したですって?」
意気揚々に世界樹信仰について語っていたエブリンは様子を一変させて私に疑いの目を向けてきた。どうやら今の発言は失言だったようだ。
「えっと⋯なぜか私の中の魔力が眠ってたらしいんだけどユダが覚醒させてくれたの。だから今から魔法について学んでるの!」
「ユダが関わってるのね、それなら有り得るのかしら⋯?」
咄嗟に思いついた理由だったけどユダの名前を出したからかエブリンは納得した様子だった。ユダってこういう時に便利ね。
「じゃあ今初級の無属性魔法をやってるってところかしら、私は土属性の魔法が得意だから土属性も魔法が使いたいと思ったら私が教えてあげる」
「あ、ありがとう。機会があったらね⋯」
苦笑いを浮かべながらエブリンに対応していると今まで控えていた第8部隊のメンバー4人がぞろぞろとやってきた。
「ごめんねーうちのお嬢が」
「あなたはこの前の」
声をかけてきたのはこの前ユダに絡んだエブリンの代わりに謝っていた男だった。この男はエブリンのお目付け役といった役割を担っているみたいね。
「俺はレスタ・キーツっていいます。よろしく。あとは右からレスタ・キーツ、ラルストン・カイリー、ウォード・ケンドール、オリビア・コナーだ」
キーツからの他のエブリンの部下の紹介が終わると4人はぺこりと頭を下げた。4人はエブリンとは違って落ち着いた印象の人達だ。エブリンがうるさい分バランスがいい編成なのかも。
「基本魔力は幼い頃に発現するものだから珍しいなあ。どうして今になって魔力が、これも琥珀色の魔力が発現したのか興味あるな」
そう言ってキーツは私を舐め回すように見てきた。今までもこの容姿のせいでじっくり見つめられることはあったけど、キーツの視線は下心ではなく品定めをする視線だった。まあいい気分では無いのは一緒だけど⋯。
「邪魔をしてごめんな、俺たちはもう行くから。訓練頑張れ」
軽い会釈と激励をされ第8部隊は去っていった。去っていく姿を見るとエブリンが先頭、少し離れてキーツ、その後ろを他の3人が控えている。そういえばこの前もそうだったけど、何でキーツのそばにいつも3人が控えてるのかしら。エブリンはツァイクントの一人娘で上司という立場になるのだから彼女の傍に控えればいいのに⋯⋯いや、エブリンがうるさいから意図的に距離をとってるのかしら⋯?
「では気を取り直して、ヘレナ様は魔力を放出することができたので次は放出する魔力量をコントロールしてみましょう。これができないと魔力を各属性に変換させる時に必要なものです」
そう言ってリアムは私にお手本を見せてくれた。リアムは今回《無属性魔法、発動》と口にしなかった。リアムにとってはもう口にする必要がないぐらいの魔法ということね。リアムは放出した魔力を球体にして凝縮させたり膨張させたり、魔力の流れに緩急をつけたりしている。
「ではヘレナ様もやってみてください」
「わかったわ、《無属性魔法、発動》」
溢れ出てきた魔力を何とかリアムがやったように球体にするように集中するけどなかなか上手くいかない。何とか球体にしようと力を入れた瞬間放出した魔力がぶわっと激しく舞い上がった。
「きゃあ!」
「ヘレナ様!魔力を抑えてください!」
「わ、わかってる!でも⋯」
魔力を抑えるようとコントロールしようとしてるのにできない。焦れば焦るほどに魔力の勢いは増していく。するとリアムが前に出てきて私の魔力を押さえ込んでいる。
「ヘレナ様、落ち着いてください。冷静になればコントロールできますから」
優しい声で私に言い聞かせてくれたおかげ落ち着きを取り戻し、魔力も徐々に薄れていった。安心してふぅーと息を吐いた。リアムがいなかったらどうなっていたことやら。
「ありがとう、リアム⋯⋯って、手!あなた手が!」
リアムの手は切り傷や火傷のあとのような痣ができてしまっていた。どうしよう⋯私のせいでリアムが⋯!
「おおー大分派手にやったなー先輩?」
「っユダ!リアムが私の魔力を抑えようとして怪我したの!早く手当しないと!」
慌てる私を一瞥してユダはリアムの元へ行き怪我の様子を見る。ユダはリアムに手のひらを上に向けるように言い、手をかざす。
「《光属性魔法、癒しの光》⋯⋯ありゃ、やっぱり無理か」
ユダの魔法によって多少リアムの怪我は良くなったが、まだ痛々しい傷が手のひらに残されている。しかし、痛みは和らいだようでリアムの顔は少し穏やかになった。
ユダは魔法具を取り出し耳元に持っていく。おそらく通信機のたぐいだろうか。
「いやー、やっぱり回復系の魔法は苦手だな⋯⋯ああ、繋がった、けが人がいるから来てほしんだけど⋯⋯いいだろ別に⋯はーいよろしく」
「誰に連絡をとったの?」
「第2救護部隊の隊長に怪我の治療を頼んだんだ。先輩、すぐ来てくれると思うからもう少し辛抱してくれ」
5分ほど待っていると一人の女が近づいてきた。ユダが「来たな」と言ったからおそらくこの人が第2救護部隊の隊長なのだろう。呆れたような顔でユダを見ていたが、リアムの怪我を見てすぐに治療を始めた。
「《光属性魔法、癒しの光》」
女はユダの使った技と同じのを使ってリアムの怪我を治し始めた。ユダの時はあまり効かなかったのに、今度はみるみると治っていく。
「どうして?ユダの時は治らなかったのに」
「ユダは回復系の魔法だけは昔っから不得手なのよ。攻撃系の光属性魔法なら1級品なんだけどね」
この人一体何者なのだろう。どうやらユダのことをよく知っているような感じだけど。
「俺の手を治してくれてありがとうございます!えーっと⋯」
「ああ、自己紹介が遅れたわね、私の名前はデイジーよ。そこにいるバカが第7部隊の隊長をやってた頃の部下なの」
ユダの昔の部下⋯。じゃあユダとは付き合いが長い付き合いだからよく知っていそうな感じだったのね。
「デイジーさん、ありがとうございました。リアムの怪我を直してくれて」
「全然いいけど、さっきの怪我は相当な純度の魔力じゃなきゃあんな風にはならないけどユダ、あんたがやったの?」
「濡れ衣だ、これは俺じゃなくてあいつ、ヘレナの力」
デイジーはキッとユダを睨みつけていたが、ユダの話を聞いた途端に驚愕した表情を私に向けてきた。どうやら琥珀色の魔力というのは私が思っている以上に強力なものらしい。
「その子があなたと同じような力を持ってるってこと?⋯なるほどね、だからあんたがわざわざ出張ったわけだ」
「そーいうこと」
いつものようにヘラヘラとした態度のユダに呆れたような視線を向けていたデイジーは、今度は私の方を向いて近づいてきた。
「ローブだけしか羽織ってないから正式なユダの部下ってわけではないでしょうけど、ユダの下で働くってなると大変だろうからいつでも私が力になるわ」
「あ、ありがとうございます」
「それにしても、こうも力が強いとなると一般の魔力保持者ではこの子に魔法を教えるのは無理だと思うわよ」
デイジーはユダの方に再び体を向けて話し始めた。確かに私はまだ魔力の制御の効かないし、魔力が強いらしいからリアムを怪我させてしまったように誰かを傷つける危険性が大いにある。
「ユダが教えればいいじゃない、あんたとおんなじ力を持ってるんだから」
「そう言っても俺は外に出ることが多いしなー」
「⋯外に出るって戦場を駆けずり回ってるあれのこと?あれは本来あんたの仕事じゃないでしょ。あんたが各部隊に回さないで勝手に自分の仕事を増やしてるだけ。⋯あの時の気にする気持ちは分かるけどいい加減やめなさい。あんたがそんな調子じゃ下は育たないし、現に暇そうにしてる部隊が多いんだから。⋯あんたが強いだけじゃ組織は成り立たないんだから、しっかりしなさい」
「⋯そうだな」
デイジーは少し眉を下げ、悩ましげな表情で言う。そしてデイジーの言葉を聞いてユダは少し困った様子だったが、素直に受け入れた。なんだか二人のやり取りはまるで姉が弟を叱るような感じだ。
「じゃあ先輩、指導者を交代しよう」
「わかった。⋯すまない上手くできなくて」
リアムが落ち込んだ様子で話す。私が魔力コントロールが下手なばかりにリアムを落ち込ませてしまったことに対して罪悪感を抱いた。
「いや、そんなことないさ。リアムが魔力を抑えるのが上手かったからこれ程の被害で抑えられたと思うぞ。あと、ヘレナも魔力が暴走しかけたとはいえ、最後は自分で抑えられたんだ。二人とも上出来だよ」
ユダから褒められ私とリアムは少し照れてしまった。リアムはともかく、私の実力なんて本当にまだまだだけれど実力者であるユダから褒められると嬉しく感じた。
「いい感じにまとまったみたいだし私はもう行くわ、頑張ってね」
私たちは改めてお礼を言ってデイジーが去っていく姿を見送った。こと人がいなかったら本当にどうなっていたことかと少しゾッとする。でも治せて本当に良かった。
「じゃあ改めて訓練を再開しよう」
指導者をリアムからユダへと引き継ぎ、私は改めて訓練を再開するのだった。
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