魔法の訓練
大寝坊をかましてしまった私は慌てて身支度をして下へ降りたらリアムが朝食を用意してくれていた。ユダはいなかったのでどこにいるのかを聞いたら既に本部に行っているらしかった。それもリアムが起きる前に行っているらしく、書き置きと朝食を置いていたらしい。ちなみに朝食は魔法道具で保温されていたらしい。
「あとこのローブも残されてました。書き置きによると、このローブは右大将直属が纏うものらしくて、これを羽織れば連合の出入りが可能らしいです」
ローブにはクロックタルリス連合の紋章が刻まれていて、右肩にのみ肩章が付いている。ユダはだいぶ着崩しているけれど、同じものを纏っていて、それに加えて飾緒が付いていた。あと、連合の人達は皆制服のローブを羽織っているのだけど、一応私はまだエルラメド連盟側の人間のためか制服は用意されていなかった。
朝食を終え、早速ローブを羽織る。自分が連合のローブを羽織っている姿を見ると改めて連合で生きていくのだという実感が湧いてきた。
✶ ✶ ✶
リアムと共にローブを羽織り連合本部に入ると色んな人からの視線を向けられる。ここにいる人たちにとって私たちは見ない顔だからだろうか。視線が気になるものの、ユダの執務室へと向かった。
入室の許可と共にユダの執務室へと入ると夥しい量の紙と、尋常じゃないスピードで仕事を片付けているユダがいた。
「やっと来たか、遅かったな。⋯ワクワクしすぎて寝坊でもしたか?」
ユダ、分かってて聞いてるわね。リアムは私の寝坊を庇おうと「俺が準備に手こずったんだ」と言ってくれているが、ユダには本当のことを見抜かれてしまうから言い訳が通用しない。きっと言い訳をする方が厄介なことになるだろうからユダに対しては正直者でいた方がいいだろう。
「あなたの言う通り私が寝坊したの」
私が素直に寝坊したことを話すとリアムが「自分の失敗を認められるようになって⋯立派になりましたね」と言ってきた。いや誰目線なの?そして私の成長?に感動しているリアムを見てユダも「そうだな」としみじみとしている。あなた達一体誰よと心の中で突っ込んでおいた。
「そういえばさっきすれ違う人達からすごい視線を向けられたんだけどどうして?」
「ああ、そのローブは俺の直属って意味なんだけど、俺は右大将になってから直属の部下がいなかったから驚かれてたんじゃないか?」
えってことは、直属の部下がいない状態で、しかも完全な連合の一員じゃない人間にこのローブを着せてるってこと!?それは流石に反感を買いそうな気がするのだけど。
「なんか言ってくるやつがいたら俺の判断だって言っておけば大体黙るだろうから大丈夫だ。」
いつものようにヘラヘラしながらユダは話す。本当に大丈夫なのかしら?一抹の不安を感じユダに冷めた目で見つめるがユダが意に返すことなどない。
「ああ、これから魔法の訓練をするだろ?ヘレナこっちに来てくれ」
ユダは私を手招きしてきたので恐る恐る近づくとグイッと手を掴まれた。なにをするのかと言おうとした瞬間にふわっと身体が温かくなる。何かが私の中を流れていくような感覚だ。
「ユダ、今何をしたの?」
「魔力樹形路を開いてヘレナの魔力が流れる状態にしてる」
魔力樹形路ってたしか身体中に張り巡らされてる魔力が流れる道だったかしら。
「お前は魔力が発現したが魔力樹形路はまだ開きかけだったから少し手助けをしたんだ。まずは魔力が流れる感覚を掴むことが魔法を使う第一歩だからな。じゃあ頑張れよー」
ユダの激励の言葉を受け取り私とリアムは早速連合の訓練場へと向かった。訓練場には他にも人がいて色んな魔法が飛び交っていた。さすがエリート集団のクロックタルリス連合、一人ひとりのレベルが高い。そんな中で魔法の超初心者が訓練をするのは少し敷居が高いわね。
「それでは訓練を始めましょうヘレナ様。まずは無属性魔法からです」
「分かったわ」
魔法を学ぶ上で一番最初に通る道は無属性魔法だ。魔法は基本己の魔力を各属性に変換させて使うのだが、無属性魔法は唯一魔力を変換させずにそのまま放出するため一番基礎の魔法とも言える。
無属性魔法と聞いて今思いつくのはユダの使っていた《瞬間移動》や《柊》だが、無属性魔法はとても幅広くピンからキリまであり、あの技はおそらく上級も上級で常人には使いこなせる代物ではない。無属性の上級の魔法は習得が困難で一番基礎の魔法でありながら極めるのは一番難しいと言われている。
「まずは魔力を外に放出させましょう。まずは俺がやってみせますから見ていてください。《無属性魔法、発動》」
リアムの掛け声と同時にブワッと白い魔力がリアムを包み込んでいる。リアムが魔法を使っているところに遭遇したことは今までなかったから知らなかったけれど、魔力が出てきた勢いから見てリアムは多量の魔力を持っているようだった。
そんな人材が孤児院にいたなんて珍しいわ。魔力の有無は基本的に遺伝だからきっとリアムは突然変異的な存在なのだろう。
「ではヘレナ様もやってみましょう!」
「うん、《無属性魔法、発動》⋯⋯⋯⋯⋯。リアム、何も起こらないんだけど」
ユダが私に琥珀色の魔力があるって言ってたからちょっとドヤ顔しながら言ったのに、何も起こらないから傍から見たらただイキっただけに見えるやつじゃない。しかも訓練場にいた人たちもこっちを見てるし、リアムも反応に困った様子でこっちを見るから余計居た堪れないわ。
「ヘレナ様、掛け声だけでは魔法は発動しません。えーっと、魔力の在処である根源炉を感じながら全身に魔力が流れるように意識するんです」
「ちょっとそれ先に言いなさいよ!」
「すみません。当たり前の感覚すぎて、もはや意識せずにやってたのですっかり忘れてました」
失敗を大勢に見られたため恥ずかしかったが、何とか気を取り直して再び訓練に戻り、私は自分の根源炉を感じ取ろうと集中する。すると胸の辺りが少し温かくなるのを感じた。もしかしてこれが根源炉なのかしら。さらにそこに意識を集中させると弾けたような感覚と同時に身体の中を温かいものご流れ満たされていく。今ならいけるかもしれない。
「《無属性魔法、発動》」
すると魔力が放出される感覚がしたと同時にブワッーっと放出された魔力が私を包み込んだ。良かった、今度は成功したようね。さっきみたいな恥はもうごめんだから本当に成功してよかったと胸を撫で下ろす。
「琥珀色の魔力⋯」
どこからか聞こえてきた声に視線を送るとそこには桃色の髪の女がいた。
あれは確か、エブリン・ツァイクントだったかしら?
後ろには他の第8部隊のメンバーも揃っている。その他にも訓練場にいた全員が私に視線を送っていた。
「それじゃああなたって⋯星の子ってこと?じゃあ恋のライバルだと思ってた相手が信仰対象でもあるってわけ!?」
エブリンが急に意味のわからないことを大声で叫んだため耳がキーンとなった。初対面の時から思ってたけどこの子うるさすぎでしょ。⋯それにしても信仰対象ってどういうことかしら?
「えっと、エブリン・ツァイクントさん?信仰対象とか言われても話が見えないからちゃんと説明してくれない?」
百面相をしていたエブリンは私の声がけでようやく飛ばしていた意識を戻した。
「仕方がないわね、教えてあげる。ツァイクント家、ひいてはツァイクント連盟は世界樹信仰をしているの」
そう言ってエブリンは世界樹信仰のことについて語り始めるのだった。
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