魔力因子適合実験
「私のことについて?」
いきなりのことすぎて頭が追いつかない。どうして私のことを私が聞くなんて状況になるの?
「まあ、何言ってるか分かんないだろうから最初から話していこうか。これから話すことは、俺がエルラメド家に赴くことになった経緯であり、ヘレナに関する話でもある」
ユダがエルラメド家に来た理由?協定を結ぶためではなかったというのだろうか。他に理由があってエルラメド家来たということ?
「ヘレナは魔力因子適合実験というものを知っているか?」
「魔力因子適合実験?」
初めて聞く名前だ。名前からしても力に関することだろうけどと思っているとユダの顔が少し険しくなっている。
「魔力因子適合実験とは主に魔力を持った人間を人工的に作り出す実験だ。俺は魔力因子適合実験をパトリックとクロエが行っていたことを知って調査をすることにした。そしてこれが調査した結果を抜粋した資料で、お前に関係があるものだ」
そう言って束になった資料をユダから渡された。そこには魔力因子適合実験のことなど難しいことが書かれていたため理解するのに苦慮していると、被検体として私の名前が書かれていることに気づいた。
「これ、どういうこと⋯?私の名前?」
「そうだ。お前は生まれて間もない頃に魔力因子適合実験の被検体になった。そして、それを先導していたのがお前の両親だ」
状況が飲み込めず、ただ呆然とする。実験の被検体?両親が私に実験を施していた?でもなんでそんなことを?そう思うのと同時にある疑問が思い浮かんだ。
ユダはどうやって
「「どうやって両親が魔力因子適合実験をしていたことを知ったの?」」
ユダが私の言葉に被せ一言一句同じことを喋った。
本当に何が起こってるの?
「まずはどうやって俺が実験が行われていたことを知っているのか、どうしてお前の言葉を言い当てることができるのか説明しよう。ヘレナ、今まで俺がお前の考えを読んだり、思ったことはないか?」
『ヘレナ様さっき俺の事不気味だの警戒だの思ってましたよね?』
『ヘレナ様には白いドレスが似合うと思います』
かつてユダの言った言葉を思い出す。
それだけじゃない、
『誰もいない場所、ヘレナ様なら知ってますよね?』
『大将⋯それ本気ですか!?』
私が誰もいないよな場所を知っていたことも、何も言っていないディアモンド様からの婚約の報告もユダが知りえない情報のはずなのに知っていたことを思い出した。
「俺は全て見通すことができる真理眼という眼を持っている。これは俺が持つ特有の力で無属性魔法・実という分類に入る」
全てを見通す⋯?全て?どれぐらいの範囲⋯という疑問もおかしいかしら。
「想像しづらいよな。例えば相手の考えていること、過去の記憶、持ち得る能力なんかが分かる。この眼の力でヘレナの両親が魔力因子適合実験をしていることが分かったんだ」
つまり相手の情報は丸わかりってこと⋯?それって反則級の力じゃない!?こんな能力を持った相手になんてどうやって勝てるっていうの?
「確かに反則級の力だろうが不利益も多い。力を発動した瞬間あらゆる情報がこの眼を介して頭に流れてくるから情報の選別をする必要があるし、見る相手の能力が高いとその分俺のリソースが割かれる。例えば大将とか総大将とか強い魔力を持つ奴らを見る時なんて大抵痛い目を見るからなるべく見ないか、その時に考えてることとか負担の少ないのを見るようにしてる」
私は何も言っていなかったがユダに思考を読まれ真理眼の説明を丁寧にしてくれた。
話を聞く限り万能な能力ではないようね。なら、なるべく口頭で話した方がいいかしら?
「ああ、そうしてくれると助かる」
また思考を読まれた。相手に思考を読まれるなんて何だか不思議な感じがする。
「話を戻そう。魔力因子適合実験は至る所で行われてきた非人道的な実験で、今は機密事項となっている。俺は実験の被検体となった奴らを保護しているんだ」
被検体の保護⋯ということは私もそれに当てはまったから保護をしたかたちなのだろう。
「大抵の被検体は研究施設に収容されていてろくな扱いをされてないから即断で保護できるが、ヘレナの場合は特殊で、パトリックを見た時からお前がエルラメド家でろくな扱いをされていないことは分かっていた。が、当の本人がエルラメド家から離れたいと思っていない場合があるし、身分も変に高いから連れ出すことが難しいと判断したから時間をかけたんだ」
確かに、もし私が両親に愛されていたら、エルラメド家の者たちに白い目を向けられていなければ私自身は十分な身分を持っていたし幸せに暮らしていただろう。まあそうはならなかったのだけど。塞がっていた傷が少し疼く感覚がする。
「ユダ、聞きたいことがあるんだけどいい?」
「いいぞ」
ユダの了承の返事を聞き、すぅーっと息を吐き呼吸を整えて質問をする。
「父と母はどうして私に魔力因子適合実験を施したの?」
過去の記憶を見るということはきっとユダは両親の過去を見て実験を私に施した理由を知っているはずだ。
「この話はお前の父であるパトリックの話から順に話していくことになるな。少し長い話になるが」
そう言ってユダは語り始めた。
─パトリック・エルラメドという人間は凡庸な人間だった。エルラメド連盟の盟主という高い地位にいるにも関わらず魔力をあまり持っておらず、そのことをパトリックは劣等感を抱いていた。だから強い魔力を持つ子供を得ることで劣等感を無くそうと思い、強い魔力を持っているレアを妻に娶った。
しかし最初に生まれたソフィアは魔力を持たずに生まれ、次に生まれたライアンも強い魔力を持ちえなかった。
子供たちが強い魔力を持ちえなかったことでますます劣等感に拍車がかかっり、強い魔力を持っていたのに、強い魔力を持つ子を産めなかったレアを疎んじるようになった。そんな中パトリックは自分を慰めてくれるクロエという女性と出会った。クロエは持ち前の美貌と言葉巧みな話術で一気にパトリックの懐へと入っていった。
どうしても魔力を持つ子供が欲しかったパトリックにクロエは魔力因子適合実験の存在を教えた。
魔力因子適合実験には二種類ある。子供が生まれる前に母体を介して魔力を子供に与えるものと既にいる子供に直接魔力を与えるものだ。前者の方が母体に負担がかかるが成功する確率が高い代物で、後者は成功率が極めて低く被検体となった子供が亡くなることも多い代物だった。
クロエがパトリックに教えた実験の内容は母体が子供を身ごもっている間に母体が魔石にある魔力を摂取して強い魔力を持つ子供を産むというものだった。
だからリスクを負ってまでクロエはパトリックの子を身ごもったため寵愛は増す一方だった。
しかしクロエは嘘をついていた。母体を介しての魔力の供給は母体に多大なる負担を強いることになる。
クロエはそんなリスクを負う気なんてさらさらなく、魔力を摂取するふりをし続けていた。そうして生まれたのは魔力を持たないヘレナだった─
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