新たな出会い
「ここがクロックタルリス連合」
今までエルラメド家から出ることなんてほとんど無かったし、街に出たのなんてエルラメド家に入る前の頃だったから今どきの普通の街の様子なんて分からないけれど、これは相当発展している街なんじゃないかしら。
「クロックタルリス連合は魔法道具の開発が盛んで、連合が運営してる街には隅から隅まで魔法道具が普及してるんだ。ここまで発展した街は多分うちくらいじゃないか」
ユダが私の考えていることを読み取ったように答える。やっぱりそうなのね。
「こんなに魔法道具があると魔物達の標的になったりするんじゃないか?」
リアムがユダへと質問をする。確かに、魔物は強い魔力に当てられて来るとユダが説明していたことを思い出す。ユダ一人分増えただけでエルラメド連盟の結界は不安定になったのだから魔石が使われている魔法道具が沢山ある街は危ないんじゃないかしら。
「魔法道具だけじゃなくて相当な魔力を持つ手練も連合には沢山いるしな。ここまでの規模になると魔物の格好の餌食だろう⋯が、結界は俺とか大将とか連合の中でも相当な実力者が複数集まって張ったものだから魔物は寄り付かないし逆に逃げてくぞ」
話を聞くと最早過剰防衛なんじゃないかと思い始めてきたわ。本当にすごいところに来てしまった感が否めない。
「じゃあそろそろ連合の本部に行こうか」
そう言ってユダはお城のような建物へと歩みを進めた。目測でエルラメド家の3倍以上の大きさではないかしら。エルラメド家は決して小さい訳では無いのだが、これを見るとどうしても小さく感じてしまう。
本部に足を踏み入れると連合の人達がすれ違いざまにユダにおかえりなどと声をかけていく。ユダも朗らかな態度で返事を返していた。どうやらユダは連合の人達から慕われているのねと考えていると五人程集まった集団がこちらへとやって来た。その中の一人の女が勢いよくこちらへと走ってくる。
「ユダぁ〜おかえり〜」
その子は甘やかな声を出しながらユダに抱きつこうとしたけれどユダはスっと軽やかに避けた。
「避けるなんて酷いぃー!」
ユダに抱きつこうとした子は小柄で桃色の髪に菖蒲色の瞳を持つ一見可憐な見た目だが、とても女性的な身体つきをしており色っぽさも持ち合わせている。
「って隣にいるのってもしかして⋯ユダの婚約者になったって言う子!!!?」
「そうだ」
ユダの肯定を聞いた瞬間に女は顔を歪め、今にも泣きそうな顔をしている。
「うわあああーーん、何よ!その女あああ!絶世の美女じゃないのおお!ユダって面食いなんだああー、結局顔なんだああー!!!」
そう言って女は泣きじゃくり始めた。褒められて嬉しいと少しは感じるが状況が状況なので喜びにくい⋯。
「ユダ、この子は?」
「ああ、紹介が遅れたな。こいつはエブリン・ツァイクント嬢、連合に従属しているツァイクント連盟の盟主の一人娘だ」
エブリンの反応を見るに恐らくこの子はユダのことが好きなのかしら。身分的にも境遇的にも私と似たような立場の子なのね。
「えっと⋯ヘレナ・エルラメドです。よろしく」
どういう反応をすればいいのか分からず、とりあえず無難な挨拶をすることにした。
「エブリン・ツァイクント⋯」
エブリンはドスの効いた声で名乗った。私、絶対に嫌われてるわよね。まあ一応恋敵に該当するものね私って。
「おいそこ、見てないでツァイクント嬢を回収しろ」
おそらくエブリンの仲間であろう四人がようやく出てきて彼女を愛玩動物を愛でるようにあやし始めた。髪の毛をわしゃわしゃされて「痛い、痛い、痛ーい」とエブリンが言う。
「いやーすみませんね右大将殿。お嬢の相手に疲れてたんで休んでました」
「ちょっとそれどういう意味!?」
そう言ってエブリンは四人と騒ぎ始めた。恋敵?になってしまって気まずさがあったが、彼女には四人も頼りになる相手がいるようなのできっと安泰だろうと思案しているとユダが話し始めた。
「第8部隊の諸君、すまないが俺たちはもう行く」
「分かりました。すみませんねーうちの隊長が」
第8部隊の人達に見送られ私たちは再び歩き始めた。エブリンという人は嵐のような人だったわね。
ユダを始め、連合の人達って変人ばかりなのかしらと思いながらユダについて行くと、やがて大きな扉の前に着いた。
「ここは?」
「うちの総大将の執務室だ。とりあえず簡単にお前らを紹介する」
いきなりそんなすごい人と対面することになるなんて、まだ心の準備ができていない。リアムも驚いて固まってしまっている。そんな大切なこと早く言ってくれればいいのにとユダを睨みつける。
「緊張するような相手じゃないさ、肩の力を抜いていつものようにしてればいい」
そう言ってユダは扉を開け部屋へと入っていった。私達もついて行くとその部屋にはやまと積まれた書籍や資料があり、ぶつからないように慎重に歩みを進めると机に突っ伏した二人の男がいた。
「汚ねー」
ユダがそう言った瞬間に二人の男達は起き上がったかと思ったら一人がユダに掴みかかり激しく揺さぶった。
「誰のせいだと思ってるんだ!元々総大将の引き継ぎでクソ忙しい時だったのに にお前が1ヶ月も右大将の席を空けやがったから溜まった仕事を肩代わりしてやったんだぞこっちは!!!」
急に怒鳴り出した総大将という人はやばい人かもしれないと思ったけど、話の内容を聞くに圧倒的にユダの方が悪いじゃない。職務放棄をしていたのかしらと一瞬思ったけど、エルラメド連盟と協定を結びに来ていたから一応仕事はしていたのよね?⋯楽だったとか言って気がするけど⋯。
「あれ?その穴を埋めるために大将にお願いしたはずなんだけどなー」
「師匠に仕事なんか振れるわけないだろ!俺たちの状況を見て師匠が手を貸してくれることはあったがな!その後すっごいこき下ろされたんだからな!」
どうやら総大将はディアモンド様の弟子で元は部下という立場だったから強くは出られないらしい。
なんだか不憫に思えてきたわ⋯。
「はあ?大将、そんなに仕事してなかったくせに仕事やってた風を装って俺をスタンピードに落としやがったのか」
「師匠は元々多忙な人だ、元帥としての仕事も担っているんだからまず仕事を頼む相手が間違ってんだよ。人選ミスにも程があるだろ!」
ユダは「ちぇ、だめだったかー」とヘラヘラとした態度で謝罪をした。軽い謝罪ではあったけど総大将は溜飲は下がったようで、仕方がない弟を見るような表情をした。そしてため息を吐いた後ユダを離した。
「今回は仕方がない。ユダはエルラメド連盟に行く理由があったのだからな。⋯それでその子が例の子か?」
机に突っ伏していたもう一人の落ち着いた様子の男がユダに話しかけ、ユダが「ああ」と肯定した。
「紹介が遅れてすまない、ヘレナ。こっちがうちの総大将のアシェル・ネルコーピンでそっちが左大将のルイス・ナリートカルマインだ」
総大将は根元が黒い金髪で萌黄色の瞳を持っており、左大将は褐色の肌に銀髪、黄檗色の瞳を持っていて、どちらとも整った顔立ちをしている。
三人のやり取りに呆気にとられていた私とリアムは慌てて自己紹介をした。
「これからヘレナとリアムは俺の邸宅に住んでもらう。使用人はいないが魔法道具は揃っているから不便ということはないと思う」
「えぇーひとつ屋根の下に女一人で男二人なんてやらしっいいいぃってぇ!」
総大将のふざけた発言にユダが思いっきに蹴りを入れて総大将がお腹の抱えてうずくまってしまった。
「ユダはお前みたいに女にだらしない奴ではない」
左大将が総大将に冷めた目を向けながら言った。今までの様子を見ると総大将ってもしかしてそんなに威厳がないのでは?
「それじゃあリアム、先に邸宅まで行っててほしい。俺はここでヘレナに話さないといけないことがあるからな」
話さないといけないこと?婚約についての話とかかしら。
「それはやぶさかではないが、俺はユダの邸宅の場所を知らないのだが」
「俺の邸宅まで行くようにしているヒメルアウトという魔法道具を貸すからそれに乗って行ってくれ。」
ヒメルアウト?とは一体なんだろうかと思っているとそれを察したユダが補足を付け加える。
「ここに来る時に空を飛ぶ馬車のようなものを見ただろう?あれの名前だ」
その話を聞いた瞬間にリアムの瞳は輝き出した。どうやらヒメルアウトに乗りたいと思っていたらしい。
左大将がヒメルアウトがあるところまで案内すると言ってリアムと共に部屋を出ていった。
「早速話したいと思ったんだが、こんなに散らかってると落ち着いて話せないだろうから俺の執務室へ行こう」
そう言ってユダは部屋を出て、私もそれについて行く。後ろには総大将も着いてきていたのでもしかしたら相当重要な話かもしれない。
階をひとつ下り右棟にあるユダの執務室へと着き私はおそるおそる質問をした。
「ねえユダ、話さないといけないことって?」
するとユダは私の方に振り向いて真剣な表情で話し始めた。
「今から話すのはお前自身についての話だ」
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