補助のガキ
冒険者になる夢は、あっさりと打ち砕かれたが、ルークは腐らなかった。
ジャックたちと共に、日々の雑用をこなしながら、少しずつ小銭を貯めていく。その傍ら、ルークはある日、ジャックに詰め寄っていた。
「なあ、今度受けるポーターの仕事、俺も連れてけよ」
「はぁ? お前、この間ギルドで笑われたばっかだろ」
「だから、実力見せる機会が欲しいんだよ」
ジャックはしばらく渋い顔をしていたが、根負けしたように頭をかいた。
「……まあ、俺の補助ってことにしときゃ、文句は言われねえか」
依頼主の冒険者は、ジャックの後ろにくっついてきたルークを見るなり、あからさまに眉をひそめた。
「おい、待て。俺が頼んだのはポーター、一人だぞ。こんなガキまで連れてきて、二人分払えって言うんじゃねえだろうな」
「いや、支払いは俺一人分でいいっす。こいつは、俺の補助ってだけで」
「補助? こんなちびが、何の役に立つってんだ」
訝しげな視線を向ける冒険者に、ルークはむっとしながらも黙っていた。ここで噛みついても、状況は良くならない。
「まあ、良いから良いから。文句あんなら、荷物運ぶの手伝ってくれよ、俺一人じゃ大変なんだから」
ジャックの軽口に、冒険者は面倒くさそうにため息をつきながらも、渋々頷いた。
依頼の内容は、森の奥で採取した薬草の入った木箱を、街まで運び出す仕事だった。険しい山道を、大の大人でも音を上げるような荷物を背負って進む。
「――おい、坊主。無理すんなよ」
最初こそ心配そうに声をかけてきた冒険者だったが、その表情は道中で徐々に変わっていった。
ルークは、自分の背丈ほどもある木箱を軽々と背負い、しかも足取り一つ乱すことがなかった。休憩を挟むたびに息を切らしているのは、むしろ大人たちの方だった。
「……嘘だろ、お前」
「言ったろ、役に立つって」
得意げに笑うルークに、冒険者は毒気を抜かれたように苦笑いを浮かべた。
「ジャック、お前んとこの補助、とんでもないな」
「だろ? うちの稼ぎ頭なんだよ、こいつ」
誇らしげなジャックの言葉に、ルークは満更でもない気分で鼻を鳴らした。
依頼を終えて街に戻る頃には、冒険者の態度もすっかり軟化していた。
「――また今度、頼むわ。お前ら二人で」
そう言って渡された報酬は、当初の約束より少しばかり色をつけられていた。
こうして、ルークとジャックの評判は、少しずつ冒険者たちの間に広まっていった。子供二人組だが、妙に頼りになる――そんな噂が、いつしかバロメアの一角で囁かれるようになっていた。
依頼は薬草採取だけに留まらなかった。街道沿いの倒木の片付け、崩れた土砂のかき出し、時には厩舎の増改築の手伝いまで、力仕事とあらば何でも回ってくるようになった。
「――お前ら二人、うちの専属にできねえもんかね」
冗談交じりにそう言ってくる冒険者も、一人や二人ではなかった。ジャックはそのたびに、まんざらでもなさそうな顔で笑ってみせた。
「専属料、弾んでくれるなら考えてやってもいいぜ」
軽口を叩けるくらいには、二人の間にも自信がついてきていた。
稼いだ金は、少しずつだが着実に貯まっていった。仲間たちの誰もが、以前よりも幾分か、まともな食事にありつけるようになっていた。硬いパンだけだった食卓に、時折、干し肉や果物が並ぶようになったことに、幼い子供たちは無邪気に喜んだ。
「――このまま行けば、そのうち俺も冒険者になれるかもな」
夕暮れの路地裏で、ジャックがぽつりと呟いた。その横顔には、以前にはなかった、確かな目標の色が浮かんでいた。
夜、雑魚寝の隅で丸くなりながら、ルークはふと、メレンド村の家を思い出すことがあった。エマの温かい手のひらや、エドガーの不器用な優しさを思い浮かべると、胸の奥が小さく軋んだ。
(――元気に、してっかな)
弱音を吐いている暇はない。そう自分に言い聞かせて、ルークは毎晩、その痛みを飲み込んでいた。それでも、隣で寝息を立てるジャックたちの温もりが、少しだけその寂しさを紛らわせてくれている気がした。
だが、その順調な日々に、影が差し始めていることに、まだ誰も気づいていなかった。
ある日の夕方、稼いだ金を数えていたジャックのもとに、一人の男がゆっくりと近づいてきていた。にやついた笑みを浮かべた、柄の悪い男だった。
「――よぉ、ガキども。ずいぶん、羽振りが良いみてえじゃねえか」
その声に、ジャックの体が、びくりと強張った。




