ガロンの兄
拘束を終えたルークが、ふと隣を見るとガロンの様子がどこかおかしかった。
先程までの豪快さが鳴りを潜め、倒れた継ぎ接ぎの獣の亡骸をガロンはじっと見つめたまま、動かなくなっていた。
「――ガロン? どうした」
声をかけても、反応が返ってこない。訝しく思ったルークはガロンの視線の先を辿った。獣の毛並み――よく見るとそれは見覚えのある、褐色がかった色合いをしていた。
「――おい、大丈夫か」
肩を揺するとガロンはようやく我に返ったように小さく身を震わせた。
「――あ、ああ……悪い、なんでもねえよ」
取り繕うような笑みだったが明らかに強張っていた。ルークは、そのぎこちなさを見逃さなかった。
「――嘘つけ。何かあるだろ」
ガロンはしばらく黙り込んでいた。倒れた獣にもう一度視線を落とす。
「――……こいつの毛色がよ。うちの村の、毛色に似てる気がして」
ぽつりと零れた言葉にルークは息を呑んだ。
「――どういうことだ」
「――実はよ」
ガロンは大きく息を吐くと、これまで胸に秘めていたことを少しずつ語り始めた。
「――おでには、兄貴がいたんだ。おでよりずっと強くて、村の誇りだった」
熊族には一人前と認められるために外の世界を見て戻ってこなければならないという通過儀礼がある。ガロンの兄も、その掟に従って旅立った。だが――
「――帰ってこなかった。もう何年も前の話だ」
「――何年も帰らないままなのか」
「――ああ。村じゃ儀式に失敗したんだろうって話になってる。だから最近は、あの儀式自体、嫌がる若ぇ奴も増えてきてな」
諦めと悔しさが入り混じった声だった。ルークは静かにその言葉を聞いていた。
「――おでは、その儀式が悪いわけじゃねえって証明したかったんだ。だから今回旅に出た」
村を守るための力を得ること。そして、兄の名誉と儀式そのものの意味を取り戻すこと。二つの思いを背負って、ガロンはここまで来ていたのだと、ルークは初めて知った。
「――なあ、ルーク」
ガロンが震える声で続けた。
「――もしかして、おでの兄貴も……こんな風にされちまったんじゃねえかって」
その言葉にルークの中で、これまで見聞きしてきた断片が一気に繋がっていく感覚があった。
通過儀礼で消えたまま帰らない者たち。誰も本気で捜索しない、構造的な見過ごし。そして、目の前に転がる、継ぎ接ぎの獣。
(――偶然、なんかじゃねえよな、これは)
「――お前の兄貴が、どうなったかは、まだ分からねえ」
ルークは、努めて落ち着いた声で言った。
「――だが、こいつらが何か知ってるのは間違いねえ。とことん、吐かせてやろうぜ」
その言葉にガロンは縋るように頷いた。
「――ああ……頼む」
拘束された三人の男たちを見据えながら、ルークは静かに拳を握りしめた。単なる密猟事件では終わらない、もっと根深い何かが、この先に待っている――そんな予感が、確信へと変わりつつあった。




