継ぎ接ぎの獣
大祭も落ち着きを見せ始めた頃、ルークはガロンと連れ立って街の外れの森を歩いていた。
「――そろそろ、旅を再開しようと思ってな」
「――おう、寂しくなるなぁ」
名残惜しさを滲ませるガロンにルークも小さく笑って頷いた。旅立つ前に腕慣らしがてら森の奥まで足を延ばしてみようという、何気ない散策のつもりだった。
だが、その空気はふとした瞬間に一変した。
「――なんだ、あの唸り声)
茂みの奥から響いてきたのは、これまで聞いたことのない歪な咆哮だった。
姿を現したそれを見てルークは思わず息を呑んだ。
熊のような胴体に明らかに種類の違う虎の前脚。首から上はどちらとも判別のつかない、継ぎ接ぎだらけの醜悪な顔。傷口らしき部分からはまだ血が滲んでいる。
(――なんだよ、あれ……)
自然界に存在するはずのない、いびつな姿。ルークの背筋に冷たいものが走った。
「――ガロン! 気をつけろ、あれは――」
「――おうよ!」
言い終える前にガロンが既に前へ躍り出ていた。獣の咆哮が二人に向かって振り下ろされる。
ルークは影の刃を具現化し、ガロンは拳を構えて応戦した。継ぎ接ぎの獣は常軌を逸した膂力で暴れ回ったが統率された動きとは程遠く、ただ闇雲に暴れているだけだった。
「――こいつ、動きが変だ)
まともな獣なら見せるはずの生存本能に基づいた立ち回りがまるでなかった。ただ痛みと衝動のままに暴れているだけのように見えた。
(――こいつ、正気を失ってるんじゃねえか……?)
言いようのない気味悪さを覚えながらも戦闘の手を緩めるわけにはいかなかった。ガロンの拳が脇腹に叩き込まれ、ルークの影の刃が首元を捉える。
やがて獣は力尽きたように地に伏した。
「――はぁ、はぁ……勝った、のか」
肩で息をするガロンの隣でルークは倒れた獣を見下ろしながら、拭いきれない違和感を抱いていた。
(――これ、絶対に自然の魔物じゃねえ)
その時だった。
「――おいおい、大丈夫か、そこの二人!」
声のした方を見ると武装した三人組がこちらに駆け寄ってくるところだった。冒険者風の出で立ちだったが、どこか統率の取れた洗練された身のこなしをしている。
「――俺たちもそいつを追ってたんだ。手を貸してくれて助かったぜ」
リーダー格らしき男が人当たりの良い笑みを浮かべた。
(――ちょうどいい、事情を聞けるかもな)
同じ目的で動いていた「仲間」だと、ルークは疑いもせず気を緩めていた。ガロンも同様に警戒を解いた様子で男たちに向き直っている。
「――こいつ、一体――」
言いかけた、その瞬間だった。
背後から、殺気が奔った。
(――なっ……!)
直感が、体を動かしていた。紙一重で身を捻ったルークの頬を鋭い刃が掠めて通り過ぎる。
「――ガロン、避け――」
叫びは僅かに間に合わなかった。ガロンの背に、別の男の刃が振り下ろされる。
「――ぐおっ!?」
鈍い音と共にガロンの体が僅かによろめいた。だが、傷は浅い。分厚い毛皮と皮膚が致命傷を防いでいた。
「――てめえら……!」
油断していた自分への怒りと、明確な殺意への驚愕がルークの中で入り混じった。
「――チッ、外したか」
最初に声をかけてきた男が、もはや取り繕う様子もなく舌打ちと共に得物を構え直した。
「――お前ら、何者だ! なんでいきなり――」
「――さあな。ただ、余計なものを見ちまった奴には消えてもらわねえと困るんでな」
その言葉で確信に変わった。
(――こいつら、最初っから俺たちを狙ってたんだ)
継ぎ接ぎの獣も、この男たちも、根っこは同じ場所に繋がっている。そう直感したルークは影を纏いながら静かに構えを取り直した。
「――ガロン、こいつら本命だ。取り逃がすなよ」
「――おうよ! 承知だぁぁぁ!!」
怒りを滲ませたガロンの咆哮と共に、本当の戦いが幕を開けた。




