獅子王の眼
決勝の熱狂も冷めやらぬ中、表彰式の時が訪れた。
闘技場の特設台に優勝者として呼び上げられたルークが上がる。観客席からはまだ興奮の余韻を残した歓声が飛び交っていた。
「――見事な戦いであった」
声をかけてきたのは、王ライオネルその人だった。壇上で対面するとその威圧感は遠目に見るよりも遥かに強く感じられた。鋭い金色の瞳がまっすぐにルークを見据えている。
「――ありがとうございます」
緊張を悟られぬよう、ルークは平静を装って頭を下げた。
「して、旅の者よ。名は何と申す」
「――ルークと申します」
「ルーク、か」
王は値踏みするようにルークを見つめた。ただの興味本位ではない、何かを見定めるような視線だった。
「――先程の変身、あれは一体何の技だ」
静かな問いにルークの心臓が跳ねた。
(――やっぱり気づかれてるか)
だが、ここで動揺を見せるわけにはいかない。ルークはあらかじめ用意していた通りの答えを、努めて平然と返した。
「――先祖から伝わる、隠し技のようなものです。詳しい由来までは俺自身もよく分かっていないのですが」
「ふむ」
王はしばし黙り込んだ。その沈黙がやけに長く感じられた。
(――見抜かれてる、のか?)
冷や汗が背を伝う。だが、やがて王はそれ以上追及することなく小さく頷いた。
「――まあいい。この国では力の出所を根掘り葉掘り詮索する趣味はない。お前の戦いぶりは正々堂々たるものだった。それで十分だ」
その言葉にルークは内心で大きく息をついた。
(――助かった……)
真偽のほどは分からない。だが、少なくともこの場で追い詰められることはなさそうだった。
「――約束の品を授けよう」
王の合図で従者が恭しく進み出た。差し出されたのは、装飾の施された上質な革の袋だった。
「――空間拡張の魔法袋だ。存分に使うがいい」
「――ありがとうございます!」
ルークは両手で丁寧にそれを受け取った。ずっしりとした重みはなく、それでいて確かな存在感が手のひらに伝わってくる。
(――ついに手に入れた……!)
込み上げる高揚を抑えながらルークは深々と頭を下げた。
王はそれを見届けると、僅かに口の端を上げた。
「――旅の空の下、これからも精進せよ。またいずれこの国で見えることもあろう」
その言葉を最後に王は静かに壇上を後にした。
残されたルークは手にした袋を握りしめながらしばし呆然と立ち尽くしていた。
(――なんつうか只者じゃねえな、あの人)
厳格さの奥にこちらの事情を見透かしたような、底知れない懐の深さがあった。外剛内柔とはまさにこのことかと、ルークは改めて実感していた。
控室に戻るとガロンやロイ、リゼたちが揃って出迎えてくれた。
「――優勝おめでとう、ルーク!」
「――おう、ありがとな」
「その袋が噂の……!」
興味津々に覗き込んでくる面々に囲まれながら、ルークは笑って袋を掲げて見せた。
「――これでようやく、身軽な旅ができそうだ」
賑やかな祝福の輪の中で、ルークは静かに、この国で得たものの大きさを噛み締めていた。




