勝ち上がる者達
「――しょ、勝者、ロイ!」
審判の宣告が響き渡ると同時に、観客席から地鳴りのような歓声が沸き起こった。
闘技場の中央で、ロイは荒い息を整えながらも、呆然とした様子で自分の拳を見つめていた。まるで、自分が今やったことが、まだ信じられないとでもいうように。
「――やった、やったぞ……!」
声にならない実感が、少しずつ言葉になっていく。
観客席では、ルークが拳を突き上げて吠えていた。隣のガロンも、「おおおおっ!」と嬉しそうに雄叫びを上げている。
「――やるじゃん、ロイ」
リゼは、腕を組んだまま、口元にだけ小さな笑みを浮かべていた。声を張り上げて騒ぐ二人とは対照的な、静かな反応だった。だが、その視線は、闘技場を去っていくロイの背中を、最後までしっかりと追っていた。
その後の試合は、駆け足で進んでいった。
ロイは二回戦、格上の相手との激闘の末、深手を負って続行不能――審判の判断で無念の棄権となった。それでも、控室に戻ってきたロイの表情に、悔いの色はなかった。
「――胸張っていい結果だろ」
ルークの言葉に、ロイは包帯だらけの拳を見つめながら、静かに頷いた。
そして、ルークの初戦。
相手は虎族の屈強な戦士だった。人族の中では規格外の身体能力を誇るルークだが、獣人族はそもそもの身体性能で人族を凌駕する種族だ。素の身体能力だけでは、決して楽な相手ではなかった。
「――くっ……!」
重い一撃を受け止め、腕に痺れが走る。ルークは奥歯を噛み締めながら、体中に闇の魔力を巡らせた。
身体強化――これまで、ひたすら魔力操作の精度を磨き続けてきた。ベスティアに来てからは、人目を気にせず修行できる利点を活かし、魔力が空になるまで使い切る鍛錬を繰り返し、魔力量そのものの底上げも図ってきた。その積み重ねが、今、確かな形で表れていた。
強化された膂力で押し返し、辛くも相手を捻じ伏せる。危なげない、とは言い難い、際どい勝利だった。
二回戦、三回戦と、対戦相手を変えながらも、状況は似たようなものだった。強靭な獣人族の戦士たちを相手に、素の身体能力と身体強化を掛け合わせ、時には苦戦を強いられながらも、辛勝を重ねていく。
「――次で準決勝だってよ」
控室で対戦表を確認したガロンが、のんびりとした調子で言った。
「おで、なんかあっさり勝ち進んじまったなぁ」
その言葉通り、ガロンは危なげなく勝ち星を重ねていた。巨躯に似合わぬ俊敏さと、規格外の膂力。虎族や熊族といった、腕自慢の戦士たちを次々と沈めていく姿は、観客席を大いに沸かせていた。
(――こいつ、思ったより強いな)
特訓の合間、飯を奢ってやったりからかったりしてきた気楽な仲だったが、こうして戦いぶりを目の当たりにすると、その実力は疑いようもなかった。
対戦表を見つめながら、ルークは小さく息を吐いた。
(――このままいけば、決勝で当たるかもな)
互いに危なげなく勝ち上がっている以上、それは十分にあり得る未来だった。
「――ガロン、決勝で会うことになったら、手加減なしだからな」
「――おう! おで、負ける気しねえぞ!」
屈託のない笑顔でそう返すガロンに、ルークもまた、不敵な笑みを浮かべた。
大祭の熱気は、まだ折り返し地点に過ぎなかった。




