冒険者登録
十三歳の誕生日を迎えたその日、ジャックとトッド、そしてモリーの三人は、揃って冒険者ギルドの門をくぐった。
「――いよいよだな」
柄にもなく緊張した面持ちで呟くジャックの隣で、トッドが小さく頷く。少し離れた場所で、モリーが落ち着かなげに髪をいじっていた。
「大丈夫よ、三人とも。緊張しすぎ」
そう言う本人の声も、心なしか上ずっていた。
少し離れた場所には、ルークの姿もあった。自分はまだ六歳、正式な登録には程遠い年齢だ。それでも、大事な仲間の晴れ舞台を見届けないわけにはいかなかった。
「――お前は相変わらず物好きだな、こんなとこまでついて来て」
ジャックに呆れたように言われ、ルークは悪びれもせず笑った。
「見届けさせろよ。仲間だろ?」
受付を済ませると、奥の一室に通された。中央に置かれた台座の上には、鈍く光る魔石が据えられている。ルークもそのまま部屋の隅に腰を下ろし、成り行きを見守ることにした。
「これは適性鑑定用の魔石だ。手を乗せてもらえば、属性が分かる」
鑑定士の男が、淡々とした口調で説明する。
まずはジャックから。緊張気味に魔石に手を触れると、淡い光が石の表面を走った。
「――適性なし、だな。まあ、これは珍しくない」
次にトッド。同じように、特に何の反応も見せず「適性なし」の判定が下る。二人とも、拍子抜けしたような顔をしていた。
最後に、モリーが手を乗せた。
その瞬間、魔石全体が、青みがかった光を纏った。
「――ほう。水属性か。ストリートチルドレンにしちゃ、珍しいな」
鑑定士が興味深そうに眉を上げる。モリー自身、驚いた様子で自分の手のひらを見つめていた。
「わ、私、水属性だったんだ……」
「才能があるなら、伸ばさない手はない。水属性は回復魔法にも転用が利く。パーティーの貴重な戦力になるだろうよ」
その言葉に、モリーの顔がぱっと明るくなる。ジャックとトッドも、我が事のように喜んだ。
部屋の隅からこの様子を見守っていたルークは、内心でそっと胸を撫で下ろしていた。
(――俺の番も、そのうち来るんだよな)
モリーがあっさりと水属性を見抜かれたその様子を見て、ルークの胸には、安堵より先に緊張が走った。
(――あの魔石、思ってた以上に感度が高いな)
モリーがすんなりと判定されたということは、裏を返せば、あの鑑定は本物の魔力の質を、かなり正確に読み取るということだ。付け焼き刃の隠蔽では、あっさり見抜かれかねない。
(――もっと精度を上げとかねえと、まずいな)
自分の番が来るまで、まだ猶予はある。だが、だからこそ油断はできない。ルークは密かに、隠蔽魔法の鍛錬をこれまで以上に積む必要があると、心に刻んでいた。
こうして、ジャック・トッド・モリーの三人は、木級の冒険者として、正式にギルドに登録された。
冒険者のランクは、下から木・鉄・銅・銀・金・ダイヤ・マスターの七段階に分かれている。駆け出しの木級は、その名の通り右も左も分からぬ新米の証だ。依頼をこなし、実績と信頼を積み重ねることで、少しずつ上のランクへと進んでいく仕組みだった。もっとも、三人にとって今はまだ、その先のことなど考える余裕もなかった。
最初に受けたのは、初心者向けの薬草採取の依頼だった。街の外れの草原に群生する解熱草を、指定量集めるだけの単純な仕事だ。
「――こっちにもあったぞ!」
トッドの声に、モリーが駆け寄る。ジャックは籠を担ぎながら、周囲を警戒する役に回っていた。
少し離れた場所で、ルークも一緒になって薬草を摘み、彼らの籠に加えていった。正式な依頼主はあくまで三人だが、「補助」として同行することに、今更誰も文句は言わなかった。
草原には、スライムが何匹か生息していた。核さえ潰せば脅威にはならない、初心者にはうってつけの魔物だ。トッドが果敢に斬りかかり、危なげなく仕留めていく様子を、ルークは近くで頼もしげに見守った。
時折、ホーンラビットが群れで飛び出してくることもあった。額の角で突進してくるその姿に、最初こそ三人は慌てふためいたものの、連携して対処するうちに、次第に手慣れた動きを見せるようになっていった。
森の奥に足を延ばした日には、ゴブリンの群れに遭遇したこともある。数の多さに一瞬肝を冷やしたものの、ジャックの指示のもと三人がうまく連携し、大きな怪我もなく退けることができた。
「――やったな、俺たち!」
ゴブリンを退けた後、興奮気味に拳を突き上げるジャックに、トッドとモリーも笑顔で応じる。ルークもその輪に加わり、三人と一緒になって笑い合った。
(――順調そうで何よりだな)
依頼をこなすたびに、三人の顔つきは、少しずつ冒険者らしい逞しさを帯びていった。危険と隣り合わせの日々でありながら、そこには確かな充実感があった。
ルークもまた、非公式ながらその輪の中にいた。誰に評価されるでもない裏方仕事だったが、仲間たちの成長を間近で見守れることが、何よりの喜びだった。
(――俺の番まで、あと七年、か)
まだ長い道のりだった。それでも、今はただ、この順風満帆な日々を、大切にしたいと思っていた。




