# 第六十話 認められなくても
数ヶ月が経つ頃には、ヴォクスの話し方は、拠点の誰もが、驚くほどに変わっていた。
詰まりそのものが消えたわけではない。それでも、独特の間合いと拍を持った、彼だけの話し方は、聞く者の心にじんわりと染み込んでいくような、不思議な説得力を持つようになっていた。
ある日ヴォクスは、実家からの久しぶりの呼び出しを受けた。一族の集まりで、近況を報告するようにという、命令に近い通達だった。
「行ってきます」
拠点を発つヴォクスの表情には、これまでにない、静かな覚悟が浮かんでいた。
一族の屋敷に、久しぶりに足を踏み入れたヴォクスを待っていたのは、変わらぬ厳格な父と、相変わらず、堂々とした佇まいの兄だった。
「して、この数ヶ月何をしていた」
父の問いに、ヴォクスは、拍を意識しながら、ゆっくりと答え始めた。
「言葉の……間の取り方を、学んで、いました。詰まりを、消すのでは、なく」
父は、その間延びした語り口に、露骨に眉をひそめた。
「相変わらずそのまだるっこしい話し方か。時間の無駄だ」
兄も、鼻で笑うように口を挟んだ。
「弟よ、いい加減諦めてはどうだ。お前には雄弁の才能などない。それが、この家の現実だ」
その言葉に、ヴォクスは一瞬、俯きかけた。だが、すぐに顔を上げた。
「兄上の、言う通り、かもしれません。僕には、兄上のような、流暢さは、ないでしょう」
ヴォクスは、そこで一度大きく息を吸った。
「それでも、僕は……僕にしか、話せない言葉が、あると、思っています。それを、磨いていくことを、これからも、やめるつもりは、ありません」
その声は、確かに詰まりながらも、これまでにない揺るぎない芯を、持っていた。
父は、しばらくヴォクスを値踏みするように見つめていたが、やがて、冷たく言い放った。
「好きにしろ。この家の跡継ぎは、初めからお前ではない。無駄な意地を張り続けるがいい」
その言葉は、痛かった。だが、ヴォクスは、もうそれに打ちのめされることはなかった。
「はい。それで、構いません」
ヴォクスは静かにそう答えると、深く一礼し、屋敷を後にした。
拠点に戻ったその夜。ヴォクスは、屋敷での顛末を静かに語った。
「認めては、もらえませんでした。多分、これからも、ずっと」
その声には悲しみと、それでも確かな、晴れやかさが同居していた。
「それでも、良かったと、思っています。僕は、初めて、家族の承認を、求めることを、やめられた気がします」
私は、その言葉に、深く頷いた。
「あなたの夢は、あなた自身のものです。誰かに認められることが、その価値を決めるわけじゃない」
ヴォクスは、その言葉に、静かに微笑んだ。
「僕は、これから、言葉を、必要としている人たちの力になりたいと、思っています。僕のような、話すことに、悩みを抱える人たちの、相談役に、いつか、なれたらと」
その目には、これまでにない、確かな光が宿っていた。
だが、その夢を、ゆっくりと形にしていく時間は、思いのほか早く断ち切られることになった。
それから間もなくのことだった。拠点に、慌ただしく、一つの報せが飛び込んできた。
サジタの故郷、エルフの郷が、大規模な魔獣の群れに襲われているという。




