# 第五十二話 一番上の頁(サジタ視点)
レクシアが、ミラを連れて、拠点に戻ってきたのは、夜が、すっかり更けた頃だった。
二人とも無事ではあったが、ミラの手には分厚い帳簿の束が、大事そうに抱えられていた。話を聞くと、用心棒に捕まりかけたところを、覆面をした何者かに、助けられたのだという。
「顔は、はっきりとは見えませんでしたが……」
ミラは、そう言いながら、なぜか隣に座るレクシアを、ちらりと見た。レクシアは、素知らぬ顔で視線を逸らしていた。私は、その様子に、思わず笑いを堪えた。
「これで、不正の証拠が見つかるはずです」
ミラはそう言うと、拠点の机に向かい、帳簿の頁をめくり始めた。
私も、その様子を、少し離れた場所から見守っていた。ミラの計算の力は、この数ヶ月で随分と確かなものになっていた。だが、目当ての不正を、膨大な数字の中から見つけ出す作業は、思っていた以上に骨が折れるものだった。
「おかしい……この数字と、この数字が、合わない気がするのに、どこで狂っているのか」
ミラは、何度も、何度も、震える手で頁をめくり、行きつ戻りつしながら、独り言のように、そう呟いていた。夜が更けるにつれて、その動きは次第に鈍くなっていった。
「少し、休んだ方が」
私が、そう声をかけたときには、すでに遅かった。ミラは、机に突っ伏したまま、疲れ果てて眠り込んでしまっていた。
私は、しばらく、その寝顔を見つめていた。それから、ふと、机の上に散らばった帳簿の頁に目を移した。
数字の羅列を一つ一つ、目で追っていく。長年、計算式を頭の中で組み立ててきた経験が、こういう時思いがけず役に立った。取引の日付と金額の記載に、明らかに不自然な繰り返しのパターンがあることに、私は気づいた。
少女の身柄に関する、書類の頁だった。日付が、意図的に書き換えられている痕跡が、そこには、はっきりと残っていた。
私は、その頁をそっと抜き出し、帳簿の、一番上に置き直した。ミラが目を覚ましたとき、すぐに見つけられるように願いながら。
「見つけた、なんて言ったら、これまでの、ミラさんの頑張りを横取りすることになる」
私は、そう独りごちながら、静かに部屋を後にしようとした。
その時、扉の陰からこちらを見ていたセンセイと目が合った。
「サジタ」
声をかけられ、私は思わず、びくりと肩を震わせた。
「見て、いたんですか」
センセイは、何も言わず、ただ静かに微笑んだ。その笑みには、咎める色は少しもなかった。むしろ、何か、温かいものを見守るような、そんな眼差しだった。
その表情に、私は、頬が、かっと熱くなるのを感じた。
「べ、別に、大したことじゃありません。ちょっと、目に入っただけです」
早口でそう言い訳をする私を、センセイは、なおも微笑んだまま、見つめていた。
「ありがとう」
その一言に、私はそれ以上、何も言い返せなくなってしまった。
顔の熱を、誤魔化すように、逃げるように、その場を後にした。背中越しに、センセイの小さな笑い声が聞こえた気がした。




