# 第四十八話 選んだ道(アウラ視点)
対練を重ねるうちに、ダレンの動きは、目に見えて、鋭さを取り戻していった。
ある夜、ダレンと買い物に出かけた拠点への帰り道、ならずものに絡まれている商人を見かけた。僕とダレンは、顔を見合わせ、迷わず、駆け寄った。
「そこまでにしとけ」
ダレンの、地を這うような低い声に、ならず者たちが、一斉に、こちらを振り返った。
「邪魔すんじゃねえ。なんだ、その足の……」
言い終わる前に、ダレンは、義足の脚で、しっかりと地を踏みしめ、繰り出された拳を、危なげなく、かわしていた。僕も、力の流れを読みながら、もう一人の相手の体勢を、崩しにかかる。
二人がかりの連携は、拍子抜けするほど、あっけなく決まった。ならず者たちは、地面に転がされ、捨て台詞を残して、逃げていった。
「まだまだ、鈍っちゃいねえな、おれも」
ダレンは、額の汗を拭いながら、満足げに笑った。
その噂は、思いがけず、早く、広まった。数日後、拠点に、見覚えのある、数人の衛兵たちが、訪ねてきた。かつて、ダレンの下で働いていた、元部下たちだった。
「隊長! やっぱり、生きてたんですね!」
彼らは、口々に、ダレンの無事を喜び、そして、揃って、頭を下げた。
「隊長がいなくなってから、詰所は、めちゃくちゃです。どうか、戻ってきてもらえませんか」
その懇願に、ダレンは、しばらく、沈黙していた。かつての、誇りある居場所への誘い。僕は、隣で、その答えを、固唾を呑んで待っていた。
「悪いが」
ダレンは、静かに、口を開いた。
「その申し出は、受けられねえ」
元部下たちが、驚いた顔をした。
「おれは、あの脚を失って、初めて、わかったことがある。腕や脚を失った奴が、どれだけ、孤独と、絶望を、抱えるか。おれ自身、危うく、そこで、朽ち果てるところだった」
ダレンは、自分の義足を、軽く、叩いてみせた。
「おれを、あそこから、引っ張り上げてくれたのは、この義足と、それを、一緒に作ってくれた坊主たちだ。今度は、おれが、同じように、苦しんでる奴らのために、この手で、義手や義足を、作ってやりてえ」
その言葉には、迷いのない、確かな決意が、こもっていた。
「衛兵として、街を守るんじゃねえ。今度は、違う形で、誰かを、支えていく。それが、おれの選んだ、新しい道だ」
元部下たちは、しばらく、呆然としていたが、やがて、その一人が、深く、頭を下げた。
「隊長らしい、選択です。応援してます」
それから、さらに、数ヶ月が経った。
ダレンは、拠点の近くに、小さな工房を構え、義手義足職人としての仕事を、本格的に、始めていた。その評判は、着実に、王都に広まりつつあった。
ある日、僕は、小さいながらも、こぎれいな家を、王都の外れに購入したという、ダレンの話を聞いた。
「自分の足で、迎えに行こうと、思ってな。ありがとよ、、、、アウラ」
ダレンは、そう言って、少し、照れくさそうに笑った。
数週間後、ダレンは、故郷へと旅立った。数日後、彼が、拠点へ戻ってきたとき、その隣には、優しそうな女性と、ダレンによく似た小さな少女の姿があった。
義足の脚で、しっかりと、地を踏みしめながら、家族と、家族を待つ家へと歩いていく、ダレンの後ろ姿を見送りながら、僕は、胸の奥に、温かいものが、静かに広がっていくのを感じていた。




