# 第四十六話 門番の背中(アウラ視点)
王都の門をくぐるたび、僕には、忘れられない記憶があった。
冒険者として、まだ、何一つ、うまくいっていなかった頃。失敗続きで、皆から、足手まといと罵られ、うなだれながら、王都へ戻ってくる僕に、いつも、決まって、声をかけてくれる衛兵がいた。
「おう、坊主。今日も、お疲れさんだったな」
衛兵長を務めていた、ダレンという人だった。がっしりとした体格に、よく通る声。厳めしい見た目とは裏腹に、その目は、いつも、優しかった。
「今日も、駄目でした」
僕が、俯きながら、そう答えると、ダレンは、決まって、豪快に笑い飛ばしてくれた。
「駄目な日があるから、いい日が、より輝くってもんだ。明日は、きっと、うまくいくさ」
その一言に、何度、救われたか、わからなかった。
だから、その姿を、あの夜、酒場街の裏路地で見つけたとき、僕は、自分の目を、疑わずにはいられなかった。
喧嘩の怒声が聞こえ、駆けつけた先で、僕が見たのは、酔いつぶれた男たちの間で、杖を、めちゃくちゃに振り回している、ダレンの姿だった。
「うるせえ、うるせえ! 誰も、おれのことなんざ、放っておいてくれ!」
呂律の回らない怒鳴り声。かつて、あれほど、堂々としていた背中が、見る影もなく、痩せ細り、丸まっていた。
「ダレンさん」
声をかけると、ダレンは、濁った目で、こちらを見た。だが、僕のことを、認識している様子は、なかった。
僕は、周りの酔っ払いたちを、なんとか宥め、暴れるダレンを、力ずくで、担ぎ上げた。以前なら、考えられなかったことだった。だが、今の僕には、酔って足元の覚束ないダレンを、支えることは簡単なことだった。
背負ったダレンの身体は、記憶にある姿より、ずっと、軽かった。それが、余計に、胸を締め付けた。
拠点に運び込み、ダレンを寝かせると、酒場に戻った。ダレンの情報を聞き込んだ。衛兵時代、賊との戦いで、部下を守るために片脚を失ったこと。それを機に、酒に溺れるようになり、蓄えを、あっという間に失ったこと。荒れた生活に、愛想を尽かした妻が、子供を連れて、故郷へと帰ってしまったこと。
話を聞くほどに、僕の中で、悔しさが、募っていった。あれほど、誰かのために、当たり前のように、優しい言葉をかけられる人が、今は、誰からも、見放されようとしている。
「センセイ」
僕は、眠り込んだダレンの傍らで、センセイに、そう切り出した。
「この人の、力になりたいんです」
センセイは、少し、驚いたような顔をした。それから、静かに、微笑んだ。
「アウラが、そんな風に思うようになったこと、俺は、嬉しく思う」
「僕にできることなんて、少ないかもしれません。でも」
「ああ、できることは、確かに、少ないかもしれない。だが、一緒に、考えてみよう」
その言葉に、僕は、深く、頷いた。




