# 第四十二話 私はセンセイの(レクシア視点)
返事の期限が迫った夜、私は、意を決して、センセイの前に立った。
「決めた」
センセイは、真剣な面持ちで、私を見た。
「学院の話も、パーティの話も、断る!」
センセイの表情に、驚きが浮かんだ。
「待て。せっかくの機会だぞ。お前の力を、もっと大きな場所で、正式に活かせる道だ」
「それでも、断る」
「なぜだ」
センセイの声には、戸惑いと、それから、確かな心配が滲んでいた。
「お前の将来を、俺の都合で、狭めてほしくない。前にも、言ったはずだ」
その言葉に、私は、これまで、ずっと胸の奥に留めていた思いを、ようやく、言葉にする決心をした。
「センセイは、いつも、そう言う。私のため、私の将来のため。でも、それは、本当に、私が望んでることを、見てくれてるの?」
センセイが、息を呑む気配がした。
「私は、あの学院で得られる肩書きも、パーティの好待遇も、欲しいと思ったことは、一度もない!私が欲しいのは、そんなものじゃない!」
私は、頬が、じわりと熱くなるのを感じながら、それでも、目を逸らさずに、続けた。
「私は、、、センセイの、、、、」
「奴隷だから!!」
その一言に、センセイが、大きく目を見開いた。
「お前、それは……とっくの昔に、俺は、お前を自由にしたはずだ」
「知ってる!」
私は、小さく笑った。
「あの時、センセイは、私を自由にしてくれた。でも、私が、自分の意志で、今も、ここにいることを選んでる。誰に強制されたわけでもなく、私自身が、選んで、センセイのそばにいる。それは、奴隷でいることとは、違うのかもしれない。」
頬が、燃えるように熱かった。だが、私は、それでも、言葉を止めなかった。
「センセイのそばにいることが、私にとって、一番の望みなの。学院の肩書きも、パーティの名声も、それに、代わるものじゃない」
センセイは、しばらく、何も言えずにいた。その顔には、戸惑いと、それから、まだ、うまく飲み込めていないような、複雑な色が浮かんでいた。
「お前が、そう言うなら……無理には、勧めない。だが」
センセイは、少し、言葉を選ぶように、続けた。
「お前の気持ちは、ありがたい。奴隷市場から解放した恩を、そこまで、感じてくれていたとは、思わなかった」
その言葉に、私は、思わず、拍子抜けしてしまった。恩。センセイは、今の告白を、あくまで、恩義の延長として、受け取ったらしかった。
まったく、この人は。。。。
呆れる気持ちと、それでも、変わらないその鈍感さが、どこか、愛おしくもある、という、矛盾した感情が、同時に、胸の中に湧き上がった。
「まあ、いい。今は、これで」
私は、そう呟いて、小さく笑った。焦る必要はない。
その日から、学院からの正式な誘いも、パーティからの勧誘も、私はきっぱりと断った。ハーゲンの一件は、学院内でも、大きな話題になっていたらしく、断りの返事に対しても、学院側は、存外あっさりと、それを受け入れた。学長からは、後日、短い手紙が届いた。
「気が変わったら、いつでも、扉は開けておくわ。それと、、あの鈍感な男、そのうち、ちゃんと、気づかせてあげなさいね」
その一文に、私は、思わず、声を上げて笑ってしまった。




