# 第三十九話 利子をつけて(レクシア視点)
対練の日、演習場には、前回以上の見物人が集まっていた。教務長自らが、実技試験の記録を疑い、対戦を申し出た。その噂が、すでに、学院中に広まっているようだった。
ハーゲンは、魔術師としても、それなりの実力を持っているらしかった。だが、私が、本当に警戒すべきは、彼自身の腕前ではなかった。
対練が始まってすぐ、私は、異変に気づいた。
放った魔法の像が、頭の中で組み上げた通りの形にならない。まるで、見えない力に、わずかに、歪められているような、そんな感覚だった。
周囲に、目を配った。演習場を取り囲む立会人の中に、数人、密かに、指先を動かし続けている教授たちの姿があった。表向きは、ただの見学者を装いながら、彼らは、私の魔法の展開そのものに、干渉していた。
卑劣なやり方だった。だが、驚きはあっても、動揺はなかった。むしろ、こうした手段に訴えざるを得ないという事実そのものが、私の実力を、何より雄弁に物語っているように思えた。
それでも、複数人がかりの妨害は、決して、無視できるものではなかった。狙った威力が出ず、放った魔法が、何度か、明後日の方向に逸れた。見物人たちの間から、失望と、蔑みの混じった声が、漏れ始めた。
「やはり、まぐれだったんじゃないか」
「所詮、その程度か」
その声を聞きながら、ハーゲンが、口の端を、醜く歪めるのが見えた。
「どうしました。先ほどまでの威勢は」
ハーゲンは、勝ち誇ったように、そう言い放った。
「所詮、貴様は字も読めない出来損ないだ。あの、魔術も使えず剣も振れぬ半端者に、教わることなど、たかが知れている」
その一言が、私の中で、それまでとは違う種類の熱を、灯した。
不思議なことに、その熱は、怒りに任せた衝動とは、まるで違う質のものだった。センセイを侮辱された怒りは、それを通り越して頭の芯が、かえって、すっと冷えていくのを感じた。
妨害されているなら、その妨害の仕組みそのものを利用してやる。
私は、放つ魔法の威力を、あえて抑え、代わりに、周囲から流れ込んでくる、あの歪みの正体を、慎重に観察し始めた。妨害の魔力は、演習場の四方、数箇所から、一定の間隔で、送り込まれていた。
あいつらと私の魔力が繋がってる。
なんだ、センセイとマレアが作った糸電話とかいうオモチャと一緒じゃないか。笑みが溢れる。
その間隔と方向を、頭の中で、丹念に、イメージとして組み立て直していく。
相手が送り込んでくる魔力の流れを、そのまま、送り主へと送り返す。しかも、私自身の魔力を、わずかに上乗せして。
利子をつけて、返す。
次の一撃で、私は、そのイメージに従って、魔法を放った。
結果は、劇的だった。妨害を仕掛けていた教授たちの周囲で、彼ら自身が送り込んでいたはずの干渉魔力が、何倍にも増幅されて、跳ね返った。悲鳴に近い声が、あちこちから上がった。
そして、その余波は、対練の相手であるハーゲン自身にも、直撃した。
彼を庇っていたはずの、周囲からの妨害という後ろ盾を失った瞬間、私の、抑えていた本来の威力が、一気に、ハーゲンへと、迫っていた。
「これは……!」
ハーゲンの顔から、みるみる血の気が引いていくのが見えた。




