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# 第三十八話 記録という言葉(レクシア視点)

 試験当日、王都魔法学院の敷地に足を踏み入れると、私は、その規模の大きさに、素直に圧倒された。


 石造りの校舎が、いくつも連なり、その中央には、広大な演習場が広がっていた。すでに、大勢の見物人が、その周囲を取り囲んでいる。噂の冒険者が受験する、という話が、事前に広まっていたらしかった。


 実技試験の内容は、単純だった。決められた的への、威力と精度の測定。続けて、複数の的を、いかに早く、正確に処理できるかを競う、実戦想定の種目。


 試験官たちの中には、以前、私と共に戦った、「大盾」お抱えの魔術師の姿もあった。目が合うと、彼は、小さく頷いてみせた。


「では、始めてもらおうか」


 試験官の合図で、私は、演習場の中央に立った。周囲の視線が、一斉に、こちらに集まるのがわかった。


 最初の的は、単純な、静止した標的だった。私は、頭の中で、いつものように、目の前の現象を、像として組み立てた。空気中に漂う粒の結びつきを、思い描いた通りの形で、組み替える。


 放たれた炎は、狙い違わず、的の中心を捉えた。測定された威力の数値が、掲示板に示されると、周囲から、どよめきが起こった。


「あの数値は……歴代でも、片手で数えるほどしか、記録がないぞ」


 誰かが、そう呟く声が、聞こえた。


 続く種目でも、私は、これまで積み重ねてきた、あらゆる系統の理屈を、次々と使い分けていった。火だけでなく、水、風、時には、雷。魔術書という杖を持たない私には、系統という枠組み自体が、最初から、存在していなかった。


 複数の的を、次々と処理する種目では、その利点が、はっきりと表れた。系統を切り替えるたびに、通常なら、別の魔術書に持ち替える必要がある。だが、私には、その必要がなかった。頭の中で、次の現象を思い描くだけで、瞬時に、系統を跨いだ攻撃を繰り出せる。


 試験が終わる頃には、演習場を取り囲む見物人たちの間から、隠しきれない興奮の声が、いくつも上がっていた。


「威力、精度、速度。すべての項目で、歴代の記録を、大幅に更新しています」


 試験官の一人が、掲示板の数値を確認しながら、そう告げた。声には、明らかな驚きが滲んでいた。周囲から、拍手と、どよめきが沸き起こった。


 だが、その輪の中で、ただ一人、渋い顔をしている者がいた。ハーゲンだった。


「数値の記録など、いくらでも、誤魔化しようがある。測定の不備ということも、あり得る」


 ハーゲンは、そう言い張り、周囲の試験官たちを、困惑させた。誰の目にも明らかな結果を、それでも、頑なに認めようとしない態度だった。


「教務長。しかし、この数値は、複数の観測手段で……」


「いや、まだ、判断は早い。真に実力があるというなら、机上の測定などではなく、実戦形式で、確かめるべきだ」


 ハーゲンは、そう言い放つと、私の方を、値踏みするような目で見た。


「私自らが、対練の相手を務めましょう。それで、貴女の実力とやらを、この目で、しかと見極めてやる」


 周囲の試験官たちが、困惑した様子で、顔を見合わせた。だが、教務長という立場を持つハーゲンの申し出を、正面から止められる者は、その場にはいなかった。


「構わない」


 私は、静かに、そう答えた。ハーゲンの態度に、驚きはなかった。ただ、これで、決着がつく。そう思っただけだった。


 拠点への帰り道、私の足取りは、試験前の緊張とは、また違う種類の重さを、纏っていた。対練の日取りは、3日後に決まっていた。

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