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# 第三十三話 竦む足(アウラ視点)

 冒険者としての僕の成績は、正直に言って、惨憺たるものだった。


 臨時のパーティに混ぜてもらい、小さな討伐依頼をいくつかこなす中で、僕は、何度も、同じ失敗を繰り返していた。魔物と対峙した瞬間、頭が真っ白になり、動けなくなる。見知らぬ冒険者たちに、荒っぽい言葉で急かされると、身体が竦んで、指示された動きすら、まともにできなくなる。


「おい、足手まといだ!」

「獣人のくせに、なんでそんなに弱腰なんだ」


 そうした言葉を、これまで、何度、浴びせられてきたかわからない。パーティを組んでも、二度と誘われないことの方が、多かった。


 誰かに背を向けられるたび、僕は、一族の中で味わってきた、あの居心地の悪さを、そのまま思い出した。獣人なのに、力がない。獣人なのに、勇ましくない。子供の頃から、ずっと、そう言われ続けてきた。せめて、この世界に来てからは、違う自分になれるかもしれないと、心のどこかで、期待していた。だが、結局、同じ言葉を、同じように、投げつけられるだけだった。


 夜、一人になると、僕は、よく、自分の腕を見つめた。他の獣人のような、逞しい筋肉はついていない。ただ、細く、頼りない腕だった。この腕では、何も守れない。何も、変えられない。そんな考えが、頭の中で、何度も渦を巻いた。


 情けなさと、悔しさと、それから、うまく言葉にできない悲しみが、いつも、胸の奥に、重く沈んでいた。誰かに、この気持ちを打ち明けたところで、何かが変わるとも思えなかった。むしろ、また、迷惑をかけるだけかもしれない。そう思うと、余計に、口を噤んでしまう自分がいた。


 力の流れを読む理屈は、頭では、ちゃんと覚えているつもりだった。だが、実際に、殺気立った魔物や、苛立った冒険者たちを前にすると、その理屈は、いつも、頭の中から、跡形もなく吹き飛んでしまう。


「今日も、駄目だった」


 拠点に戻るたび、僕は、俯きながら、そう報告することが続いていた。センセイは、そのたびに、責めるでもなく、ただ、静かに話を聞いてくれた。それが、かえって、僕には辛かった。優しくされるたびに、自分の不甲斐なさが、より一層、はっきりと、形になって突きつけられるようだった。


 ある夜、僕は、とうとう、心の中に溜め込んでいたものを、口にしてしまった。


「僕、冒険者、向いてないのかもしれません」


 声が、思っていたより、ずっと小さく、震えていた。溜め込んでいたものを、いざ言葉にしてみると、涙が、堪える間もなく、こぼれ落ちた。


「情けないですよね。獣人なのに、こんなに弱くて、怖がりで。皆の役に立つどころか、足を引っ張ってばかりで」


 声が、途中から、うまく出なくなった。それでも、止まらなかった。


「一族にいた頃から、ずっと、こうでした。期待されて、それに応えられなくて、失望されて。この世界に来たら、何かが、変わるかもしれないって、少しだけ、思ってたんです。でも、結局、同じでした」


 センセイは、少し驚いたような顔をした後、何も言わずに、続きを促すように、こちらを見た。僕は、鼻をすすりながら、それでも、言葉を続けた。


「レクシアさんも、マレアさんも、ちゃんと結果を出してる。僕だけ、いつまで経っても、同じところで、躓いてる。理屈は覚えても、いざという時、使えない。それなら、最初から、向いてないんじゃないかって」


「諦めたいのか」


 センセイの問いは、責めるような響きを持っていなかった。ただ、まっすぐな問いだった。僕は、しばらく、答えられなかった。嗚咽が、喉の奥で、何度も、つかえた。


「わかりません。ただ、このままじゃ、皆に迷惑をかけ続けるだけだって、思うんです。いっそ、最初から、僕なんかがいなければ、誰も、傷つかずに済んだんじゃないかって」


「迷惑をかけたくない、という気持ちは、悪いものじゃない。だが、それだけを理由に、諦めるのは、少し違う気がする」


「じゃあ、どうすれば」


「わからん。それは、俺が決めることじゃない」


 センセイの答えは、いつになく、素っ気なかった。だが、その素っ気なさの中に、突き放すというよりは、僕自身の答えを、僕に見つけさせようとする、そういう静かな信頼があるように感じられた。


 その夜、僕は、拠点の隅で、一人、長い間、膝を抱えていた。冒険者を辞めるという選択肢が、頭の中を、何度も、行き来していた。だが、それを決意しきれない自分もいた。


 結論を出せないまま、僕は、その日、宿への帰り道、いつもより、遠回りをして歩いていた。

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