# 第二十六話 新たな出会い
レクシアが、遠方への討伐依頼で拠点を空けている間、私は、いつも通り、水路の仕事を続けていた。
その日の帰り道、いつもとは違う路地から近道をしようとして、私は、諍いの声を耳にした。
覗き込むと、数人の男たちが、一人の少年を取り囲んでいた。獣の耳と尻尾を持つ、獣人の子供だった。地面に押し倒され、震えながら、何度も頭を下げている。
「盗人が、簡単に許されると思うなよ」
「す、すみません、すみません……」
男の一人が、少年の胸ぐらを掴み上げた。殴られる、と思った瞬間、私は、考えるより先に、声を上げていた。
「待て」
男たちが、一斉にこちらを見た。私は、財布の中身を確かめる間もなく、あるだけの金を、男の胸に突きつけた。
「これで、勘弁してくれないか」
男たちは、金を一瞥し、それから、値踏みするように、少年と私とを見比べた。
「まあ、いいだろう。今日のところはな」
男たちは、金を奪うように取ると、悪態をつきながら、路地の向こうへ去っていった。
残された少年は、地面に座り込んだまま、呆然とした顔で私を見上げていた。獣人にしては、ずいぶんと小柄な体格だった。獣人という種族は、その膂力の強さで知られている。だが、目の前の少年からは、そうした種族の力強さは、ほとんど感じられなかった。
「大丈夫か」
私が手を差し伸べると、少年は、おずおずと、その手を取った。
「なんで、助けて、くれたんですか」
「理由が、いるのか」
少年は、しばらく言葉を探すように黙っていたが、やがて、ぽつりぽつりと、事情を語り始めた。
冒険者として、ある小さなパーティに所属していたこと。獣人らしく力を求められたが、生まれつき体が弱く、期待される働きが、まるでできなかったこと。失敗が続き、やがてパーティを追い出されたこと。行き場を失っていたところを、素性の悪い冒険者たちに、うまい話を持ちかけられ、そそのかされるまま、盗みに手を染めてしまったこと。
「僕、獣人なのに……力も、勇気も、何もなくて」
少年は、俯いたまま、そう漏らした。
私は、その言葉を聞きながら、ふと、王都に来る前、レクシアが冗談交じりに口にしていた言葉を思い出していた。
――センセイは、絶対、また誰かを拾ってくる。
あの時は、笑って聞き流していたが、今、まさに、その通りのことをしている自分に、私は思わず、小さく笑ってしまった。
「行く場所は、あるか」
少年は、無言で、首を横に振った。
「なら、来い」
その日のうちに、私は、少年を、廃教会の拠点へと連れ帰った。
その日の夜、討伐から戻ってきたレクシアは、事情を聞くなり、呆れたように、それでいて、どこか楽しそうに笑った。
「言った通りになったな」
その隣で、マレアも、含み笑いを漏らしていた。
「先生は、そういう人だもんな」
二人にからかわれながらも、私は、悪い気はしなかった。こうして、拠点での暮らしは、四人での生活へと、また一つ、輪を広げることになった。




